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一章 突然の誘い

ディユー、ディィユー

 ユーカリの先からディジュリドゥ特有の重低音が流れてくる。今日も音の伸びが良い。そしたらこのリズムは、

ドッドドド、ドッド

 うん。このリズムも良いな。あ、すっかり夕方になってる。そろそろ休憩するか、僕はそっと口からディジュリドゥを離して静かにスタンドに立てた。

「そういえば、この間上げた動画はどうかな?」

 スマホで自分の動画サイトを開いて、この前上げた動画を見てみる。

 五回。

 やっぱりこんなものか。他のも確認してみよう。

 四回、十回、八回。

 他のもだいたいこんなもんだよね。ディジュリドゥって需要ないなぁ。

「ツトム〜、ご飯よ〜」

 下から母の声が聞こえた。

「はーい」

 

「山下、帰りどっか寄って帰る?」

 五時間目が終わって次の授業の準備をしていると、後ろの席の井原に声をかけられた。

「寄る予定はないよ」

「なら少し頼み事頼まれてくれない?」

「どんな?」

「俺の知り合いが勉強で困っててさ、少し勉強を教えてほしいって頼まれてんだよね」

「まぁ、成績いいもんな。お前」

「そこでなんだけど、今日デート何だよね」

 なんか井原の考えが読めた気がする。

「あの、付き合い始めたっていう」

「そ、だからね、俺の代わりに教えてくれない?山下も成績いいじゃん。ね」

 井原が僕を神様のように拝んでいる。

「あしたジュース奢るからさ」

「一つ確認何だけど、誰でどこでするの?」

「隣のクラスの人、図書室で約束してる」

 図書室なら五時までだからそんなに遅くならないからいいかな。それにこの学校、放課後図書室解放しているけど、普段誰も居ないんだよな。まぁ、教えやすいかな。

「いいよ」

「感謝、マジ感謝!」

「そしたら今日の放課後よろしく」

 ・・・・。

 井原に言われた通り放課後に図書室に来たが、そこにいるのは綺麗な女子が座っていた。他には誰もいない。井原が言っていたのは彼女だろう。てっきり男子かと思っていた。

 なにか本を読んでいて話しづらい。どうしようかと迷っていると向こうが気づいてくれた。

「山下くん?」

 すんと通る綺麗な声だった。

「えっと、山下くん?・・・違った?」

 僕は慌てて返した。

「あ、うん。そうだよ」

「今日はごめんね。次の数学の試験がやばいから、井原に教えてって頼んだのに、あいつ急に無理っていい出しやがって」

「いいよ。気にしてないから始めよう」

 僕達は勉強を始めた。どうやら基本はできているみたいで、応用問題につまずいている様子だった。

「じゃ、さっき教えた要領で解いてみて」

「うん。わかった」

 岡上さんは計算を始めてた。

 解いている間は暇だな。周りに人もいないし、リズムでも考えとくかな。えっとこの間は、トン、ディ、トンでトントンか、どこで呼吸を入れようかな。ディのところで入れるかな。

「山下くん。それって」

 ガタン。急に呼ばれて、思わず立ち上がってしまった。

「ごめん。驚かせちゃった?」

 僕の反応に岡上さんは、申し訳なさそうにしている。

「いや、こちらこそごめんなさい」

 僕は深呼吸しながら椅子に座った。

「ねぇ、さっき指でやってたのってさ、リズム?だよね」

 あ、無意識に指で叩いてたのか。

「ごめん。うるさかった」

 彼女は首を振った。

「なんの楽器やっているの?ドラム?」

 急に言われて一歩引いてしまった。

「知らないと思うから、気にしないで」

 どうせ言っても知らないと言われて、気まずい空気になるだけだ。

「教えてよ」

 彼女がぐいと、僕の方に立ち上がった。

「ねぇ」

 彼女の勢い負けて僕は、目線をそらしながら答えた。

「ディジュリドゥ」

「何、その楽器?」

 ほらやっぱり、その答えだった。しかし彼女はすぐさまスマホを取り出して調べたらしく、彼女のスマホからディジュリドゥの音が聞こえてきた。

「え、何この楽器。すごい」

 な、なんか思っていたのと反応が違う。彼女はもう一度僕を見た。

「ねぇ、私と一緒に組まない?」

「へ?」

 岡上さんから聞き慣れない言葉が出てきた。

「聞こえなかった?組まない?」

「組むってどういう事?」

 僕は急にでてきた組むという言葉に戸惑ってしまった。

「私ね。ギターやってるんだけど、今までいろんな人とやってきたけど、なんかピンとこないんだよね」

 岡上さんは腕組みをして考える。

「へぇ、そうなんだな」

 それでなんで、僕と組むという発想になるのだろう。

「そこで、君の楽器の音を聞いて、思わず一緒にしたら楽しそうって思ったんだよね」

 楽しそう?ディジュと?今までそんな事を言われたことはなかった。

「ちょっと、待って。私の演奏している音源を流すから、その感じならクラシックギターかな」

 岡上さんはスマホをすすっと、流れるように操作する。

「あった。これ。私が演奏している所」

 岡上さんがスマホの画面を見せる。画面には駅前でギターを引いている彼女が写っていた。

「私、たまに駅前で弾いてるんだよね」

 岡上さんは少し照れくさそうに言った。画面の中の彼女は、生き生きとして楽しそうにしていた。

「岡上さん。すごいね」

 彼女の演奏は吸い込まれるようにきれいだった。

 ただ、僕の演奏は自己満足の演奏で、真逆のように感じた。

「岡上さん。ごめんなさい。バンドは組めないよ。僕にそんな技量はないよ」

 岡上さんがなにか言おうとしたが、扉がガラガラと開いた。

「お、今日はいたんだ。もう閉めるから帰るように」

 図書室の施錠をしている先生だった。

「そしたら、帰るね」 

 僕は逃げるように、図書室をあとにした。

 ちょうど先生が来てくれて良かった。帰る口実ができた。でも楽しそうって言ってくれたな。嬉しかったな。まぁ、もう話すことはないかあ。

 次の日、帰ろうと準備をしていると、急に呼び出された。誰だろうと言ってみると、岡上さんが立っていた。

〜続く〜

オーストラリアの民族楽器『ディジュリドゥ』のお話を書いてみたいと以前から思っていたので今回書きました。

好きなものでも他人には良いたくない気持ちがあると思います。

そんな時、不意にその事を褒められた時どうするでしょうか?

今回のお話でご意見、ご感想などいただけると嬉しいです。

※参考までにディジュリドゥの音を知りたい方は、私のYouTubeチャンネルがあります。

ユーチューブチャンネル名:ディジュオグ

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