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9.真相【最終話】

ヴィクトルはエクトルに、セリーを事故に見せかけて殺害してくれたら、セリーに掛けた保険金を全額渡すと約束していた。


彼は一月前、友人に誘われ手を出した賭け事で失敗し大きな負債ができてしまった。

焦った彼はセリーの持参金でなんとかしようと考え、父の再婚に不満げなセリーに結婚の前倒しを持ちかけた。

戸惑うセリーの様子に、これはあまり期待できないと判断した。


エクトルは投資話をでっち上げてヴィクトルに出資させようと試みたが、真意を見透かされて逆に保険金殺人の依頼をされてしまった。


セリーはマルマローに滞在中、ほぼ単独行動を取り、エクトルに近寄りもしなかった。

それに加えてアレットがエクトルに纏わりついていたため、なかなかセリーと二人きりになれずにいた。


そのうちボートの事故が起きたが、救助してもらった令息と毎日のように会うようになってしまい、余計に手が出せなくなってしまったのだ。


婚約を白紙に戻したのは、どうせ殺される予定の、自分の思い通りにならない令嬢など必要なかったからだ。


約束を果たせないまま、ヴィクトルが死亡してしまい、セリーを殺害して保険金を受け取る計画は頓挫した。



なぜヴィクトルのこの計画にエレーヌが気がついたのか?


それはロランス子爵家の執事による密告だった。

その古参の執事が忠誠を誓っているのは当主ヴィクトルではなくエレーヌだったのだ。


エレーヌ·ロランス前子爵夫人と執事は逮捕され、子爵家は爵位没収となった。財産はエンゾとセリーに分配された。

セリーが塗り潰した肖像画と描きかけの家族の肖像画は未完成のまま焼却された。


その後エンゾは幼馴染みの子爵令嬢家に婿入りした。



エクトルが殺人未遂で罪を問われることはなかったのは、具体的にセリーに対して何も仕掛けていなかったからだ。


エクトルはヴィクトルが他の者を雇ってセリーのボートの事故を起こしたと勘違いした。

実際に婚約者を自分の手で殺すことに怖じ気づいた彼は、成り行きを見守ることに徹したのだ。


セリーと婚約破棄後、彼はバイイ子爵家から廃嫡された。


セリーがマルマロー湖で自殺未遂をしたことをエクトルは生涯知ることはないだろう。




「えっ?そうなの?ふう ~ん」


エレーヌの殺害予定者リストに自分が入っていたと知っても、アレットは平然としていた。

ヴィクトルの次は自分が殺されていたかもしれないという事実に彼女は全くダメージを受けていない。

犯人が捕まったのなら自分はもう殺される心配はないと思ったからもしれない。

なぜ自分が殺害予定者リストに入れられたのかすら、彼女は微塵も省みることはなかった。


「ああ、それはね」


アレットは自らロランス子爵家で起きたことを誰かれ構わず話した。

エレーヌ逮捕の様子やコテージから転移魔法で駆けつけたこと、自分が殺害予定リストに入っていたこと等も得意気に言いふらし、ゴシップ誌の取材に応じて一躍時の人となった。


迷惑令嬢の面目躍如のせいで、そっとしておいて欲しい当事者や関係者達に多大なる迷惑をかけまくった。


ゼルマン伯爵はどうやっても口を閉じないアレットに匙を投げた。

伯爵家の嫡男である弟は賢くまともに育ったが、夫妻から同じように愛情と教育を与えられてもアレットはそれを生かせず受け取らなかった。


叔父は行儀見習いとして王都の修道院に行かせる予定だったものを、生涯戻ることができない最果ての修道院へ送ることにした。


彼女にもう少しだけ思慮深さがあったならば、彼女自身の未来も変わっていた筈だ。



騒動が落ち着くまで身を隠さなければならなくなった私は、いっそアレットがおばあ様に殺されていてくれたら······なんて、身勝手な負の思いを抱いてしまった。


私って、やっぱり性格が悪いのね。


私の腹は白くないのだ。



***



セリーは、母の実家のゼルマン伯爵夫人の親戚筋に当たるデパロー辺境伯の元に預けられた。

娘のいない辺境伯夫妻は、セリーを我が子の如く溺愛した。



幾つもの裏切りに見舞われたけれど、それでも絶望せずにいられたのは、自分が存在することで長年苦しめて来た筈の祖母に命を守られたからだ。

母と血縁上の父バチストらを殺害したことは到底受け入れることはできない。

それでも義理の息子を殺めてでも、自分を救おうとしてくれたことに、ほんの少しだけ救われたように感じた。


祖母エレーヌは収監されて間もなく流感で肺炎を起こしこの世を去った。


『あなたが私という殺人鬼の血を引いていないことだけが、私の唯一の救いなのよ。バチストの娘であることはあなたのせいでは全くないのだから、あなたはもっと自分のために沢山生きなければいけないわ』


彼女の遺言状の中にあったその言葉は、セリーにとって生きて行くための心の糧となった。


人殺しのおばあ様がこんなことを言うのはちょっとどうなのって思ってしまうけれど、それでも私が欲しかった温もりがそこにあったのだ。




十七歳になったセリーは、一年遅れのデビュタントの日がやって来た。


「マディ、どうかしら?」

「これはお嬢様のためにあるようなものですから、似合わないわけがありません」


デビュタント用の純白のドレスに身を包むセリーを、目を細めてマディが見つめている。


「絶対に?」

「もちろんですとも。さあ、リアン侯爵様がお待ちですよ」


階下では、ヴィルジェールとエーブが正装して待っていた。


これは両手に花ではなくて、両手にイケメンね。

階段を下りながら、美丈夫が二人もいると壮観だとセリーは惚れ惚れした。


セリーはエーブと目が合うと、素早く目を反らし頬を染めた。

セリーが想いを寄せているのは、ヴィルジェールの従者エーブ·クーザン伯爵令息なのだ。



「今夜のエスコートをありがとうございます、ヴィル()()様」

「レディの今のお悩みは何かな?」

「まだまだ性格が悪いところですね」


セリーはヴィルジェールの手を取ると、花がほころぶように微笑んだ。



(了)

この度も最後までお読み下さりありがとうございました。


今回はいつもよりかは死人少なめ(ナレ死)で済んだかな?(笑)

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