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7.歳上の友人②

「······アレット?」


なぜアレットがそれを知っているのか。

まさか叔父様がアレットにも話したのだろうか?

セリーは呆然とした。


「セリー、それは本当か?」

「······はい、事実です。お伝えするのが遅くなり申し訳ありません。私もつい最近知ったばかりで困惑していました」

「アレットが言わなかったら、君は黙っているつもりだったのだろうね?」

「いいえ、マルマローから帰ったらお返事と一緒に伝えるつもりでした」


エクトルは侮蔑するようにセリーを睨み付けた。


「えっ?返事って何ですか?」


アレットは余計な暴露に加えて、余計な箇所に食いついた。

彼女は空気を読まないことがしばしばある。


「返事って何のこと?セリー、ねえ教えてよ」

「······それは······」


もう何も言わず今は黙っていて欲しい。


「返事は必要ない。婚約は白紙だ。これはロランス子爵からも説明してもらわないとね」

「······承知しました」


アレットはポカンとした表情を浮かべている。多分それは責任逃れの演技なのかもしれない。


「えっ?私、何かまずいことを言ったの?」


気がついているのに白々しい。


「だってお父様とセリーがこの前話していたんだから、嘘ではないんでょ?」


やはり盗み聞きしていたのだろう。

折角人払いをしたのに、これでは全く意味がない。

叔父様は人に明かす必要はない、それは悪手だと言っていたのをアレットは覚えていないのだろうか?


あれは「誰にも言うな、秘密にしろ」ということだったのに。


彼女はショッキングな内容や自分が興味のある部分だけを聞いて、後は右から左へ抜けてしまうのだろう。


最悪のタイミングでエクトルに知られてしまったが、でもこれで婚約が正式に無くなるならば、怪我の功名かもしれない。



気まずい場の雰囲気を打ち破るようにエーブが戻って来た。


「セリー様、ボートの乾燥が終わりましたので、コテージにお届けしてもよろしいですか?」

「ありがとうございます。助かりました」

「紛失した水抜栓は新しくしておきましたので」

「何から何まで本当にすみません」


セリーはエクトルの方に向き直った。


「エクトル様、回収したボートの確認をしていただけますか?」


エクトルはボートに施された家紋を一瞥しただけで、そのまま無言で立ち去った。

その後をアレットが追いかけて行った。



「君の従姉妹の性格の悪さは大したものだな」

「絶対あれはわざと言いましたね」

「性格が悪いというよりも、あまりに考え無しで迷惑なのです」


ヴィルジェールとエーブは「確かに」と同意した。


故意かどうかに関わらず、自分の暴露発言がロランス子爵家とバイイ子爵家の婚姻を潰したことになるのだから、責任を問われることになるのに。

セリーの父とアレットの父親である叔父が揉めることを全く想像してもいないのだろう。

その上、従姉妹と伯母の名誉も人前で傷つけたのだから。


身内だから、未成年だから責任を問われないということは無いのだ。


アレットがエクトルに気に入られようとして、私を故意に下げたのだとしても、それは逆効果でしかない。

もしもアレットが私の出自を知らないふりをできていたら、まだ可能性はあったのに。


身内のデリケートな秘密を人前でバラす令嬢を妻にしたがる令息はいないのだから。

そこをわかっていないのは、それだけ彼女がまだ若く、子どもだということ、人生の経験値が足りないのだろう。


苦労知らずな人、世間知らずな人はあまり物事を深く考えることをしない。

苦労して育った人は、その分人よりも物事をよく考えたり深く考えるものだ。

そして人をよく観察し吟味して判断力をつけてゆく。

それは年齢に関係はない。

相当苦労して来ている筈なのに物事を良く考えることをしないならば、その苦労や困難は本人の思考力と判断力の無さのせいなのかもしれない。


セリーは苦労を知らない若い貴族達を見てそう思えていた。



「婚約者との結婚はあまり乗り気じゃなかったのかい?」

「······はい。婚約が白紙になって良かったです。父には激怒されるかもしれませんが」


アレットとのことがあって、叔父を後見人として頼ることはもうできないかもしれないとセリーは思った。


父には学園だけは卒業させてもらえるように頼んではみるけれど、それが無理なら、すぐにでも家を出るしかないのかもしれない。

マルマローから帰ったら、セリーは選択を迫られるだろう。


絵を習うどころでは全くなかったとセリーは苦笑した。

あの肖像画はのっぺらぼうのままになってしまうのかもしれない。



午後を過ぎてから霧が出始めて、濃霧にならないうちにセリーは戻ることにした。


コテージまでヴィルジェールに送ってもらうと、マディが血相を変えて戸口から出てきた。


「大変です!旦那様がお亡くなりになりました」

「······っ、そんな!」


セリーがわなないた拍子に、水筒を芝生の上に落とした。マディがそれを拾い上げた。


「お嬢様、急いで支度なさって下さいまし」

「······ええ」


どんなに急いで帰るにしても、馬車で二日はかかる。


「死因は?お父様に持病は無かったはずよね?」

「······存じません」


死因を知らせないのはなぜなのだろうか?

父の身に病とは別の何かが起きたのかもしれない。


「急ぐのなら、転移魔法で王都まで送ろうか?」

「······転移魔法だと!?貴殿は何者だ?」


戸口に立っていたエクトルが驚きつつ尋ねた。

転移魔法は王族と魔塔の者しか使用を許可されていない。


「ヴィルジェール·ラエール·リアン侯爵だ」

「ラエール!?」


リアン侯爵は先の王弟殿下、現王の叔父だ。叔父と言っても陛下よりもはるかに若い。

先王の末弟で、社交界には顔を出さないため、本人の姿を知る者はあまりいない。

ラエールは王族、元王族しか名乗れない。


「先王弟殿下とは知らず、ご無礼致しました」


エクトルが恭しく詫びた。


「ヴィルジェール様、どうか王都までよろしくお願い致します」


マディが取り急ぎ纏めてくれた荷物を受け取ると、セリーはヴィルジェールが展開した魔方陣へ身を委ねた。


「セリーばかりずるい、私も連れて行ってよ!」


アレットが叫んだので、渋々エーブが応じた。


「ではこちらへ。ご令嬢、どうか到着するまでお静かに願います」


エーブは先に発った主の後を渋面を作りながら追った。

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