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黒猫のマーチ  作者: 傘ゆき
第一章 『始まりの森』
7/8

初めまして

-side 名の無き黒猫-

 目が覚めると、不思議な匂いがした。木の匂い、そして知らない匂い。


 僕は体を起き上がらせて周りを見渡す。

 木の壁と、変な形の下木が沢山ある。しかし、土の匂いはしない。そして、何か籠ったような感覚がある。なんだか変な場所だ。


「あ、起きたみたい」


 聞いたことがある鳴き声がする。

 その鳴き声がする方向を見てみると猫人間が顔を覗かせていた。


「大丈夫?かな? 『ハイ・ヒール』も使ったから大丈夫だと思うけど」


 何を言っているかわからないが、多分心配してくれているのだろう。

 僕の体は全快しているようだし、きっと魔法をずっとかけてくれていたのだろう。


「ニャー」(大丈夫)


「あ、よかった」


「そうだ、これ、ちょっと緩くなってしまったけど、ホットミルク」


 猫人間は四角の木の上から不思議な匂いのするものを持ってきて、そっと床に置いた。その中には白い水が入っていて、ほんのり熱を発している。

 僕は近いて匂いを確かめる。「知らない匂い」はこれのことだと気づく。そして、それは懐かしいような匂いでもあった。


 さて、どうしたものか。

 キツネには人間と関わるなと言われているし、早々にキツネの元に戻ったほうがいいのだろうか。いや、そもそも人間と決まったわけでもないし......

 それに変なものが入っているような匂いもしないし、お腹も空いたし......


 ん〜


 とりあえず飲んでから考えよう。


 僕は舌を入れてそれを飲んだ。

 その液体は丁度良い暖かさで、なんだか安心する。

 じんわりと体の芯に広がるような感覚が僕を襲う。この感覚は初めてウサギを食べた時の感覚だ。この感覚、病みつきになりそう......


「よかった」


 猫人間はこちらを見て微笑んだ。


 僕はせっかくだから猫人間と話してみたいと思った。

 でも、どうやら猫語も念話も通じないようだ。この猫人間の姿が僕に似ているから猫語が通じるかもと思ったが、そうでもないらしい。


 そうだ!


 僕は木の地面に爪で文字を書き始める。

 人間なら文字が読めるはず。文字で会話すればいいじゃないか。僕も文字は読めるからある程度は描けるはず。


「あっ!だめだよ!床に傷つけちゃ!」


 書いているのを止められるように猫人間に持ち上げられる。


「えっ、これって......もしかして君、文字が書けるの?って、そっか言葉は伝わらないのか」


 猫人間は僕の描きかけの文字に気づいたようで、何か少し考えているようだ。するとふと何かを思いついたようで、四角い木から木の板と棒を取り出した。棒の先には黒い液体がついているようで、猫人間はいたに文字を書いていく。


 ”初めまして、私はマーチといいます。床ではなく、こちらに文字を書いてもらえますか?”


 床に文字は書いてはいけなかったのか。

 それはともかく、この猫人間はマーチというのか。


 ”初めまして。助けてくれてありがとうございました”


 ”いえ、こちらこそ、危ないところを助けてくれてありがとうございました”


「......」


 キツネとしか会話をしたことがないから言葉が出てこない。

 とりあえず、さっきの白いのを飲むか。


 初めての食べ物、初めての味。このような美味しいものが存在するとは。


 ......それにしても、なんでこんなに見られているんだ?さっきからアーチがこちらを微笑みながら見ている。

 そういえばキツネと出会った時もキツネは僕がウサギを食べるのをジッと見つめていたな。食べているのを見ていて何が楽しいのだろうか......

 別に見つめられて何か嫌な気になるわけではないが......正直、食べずらい......


 あ、そうだ。


 ”これはなんという名前の飲み物ですか”


 僕は今の空気を変えようと話を振った。


 ”これは牛のミルクを温めたものです”


 牛?ミルク?

 あー、牛は『異世界書』で見たことがある。ミルクは確か......動物の乳から出る飲み物だったか?

 しかし、他の動物から出たものだと言われるとちょっと複雑な気もする......まぁ、自分のも十分嫌ではあるが。


 そうだ、聞くことは他にもあった。


 ”あなたは人間ですか?"


 まぁ、答えは想像できているが......


 人間は一瞬キョトンとした顔をしてから僕の質問の下に書き始める。


 ”はい"


 まぁ、「だろうな」と思った。

 まず文字が扱える時点で確定はしていた。

 それはともかく、まずは状況把握だ。


 ”ここはどこですか?”


 ”ここは森の近くにある村の私の借りている宿の一室です”


 村......は確か人間の群れが住む場所で、家は人間の住処か。人間の住処である家はさまざまなものがあると聞いたが、ここは木を切って作った家ということだろう。

 ということはあの四角い木は机か。机は人間が本を書いたりする作業台......だったか。


 僕が周りをキョロキョロと見渡していると人間が何かを書き始めた。


 ”黒猫さんはどこからきたのですか?どこで文字を習ったのですか?"


 おぉ、急な個人的な質問......。

 というか、「黒猫さん」て、僕のことだろうか。そのまんまだな。

 んー......「どこから」か......「森」、というしかない。

 文字はキツネに教えてもらったけど......。キツネについては伏せておこう。キツネは人間と関わるの嫌いらしいからな。んー......じゃあとりあえず「師匠」、としておくか。最近覚えた単語だ。


 "森から来ました。文字は師匠に習いました"


「師匠......同じ猫なのかな?いや、それよりも......」


 "あなたは黒色の魔導石を知りませんか?”


 「魔導石」?あー、確か魔石の一種か。でも、あれに色なんてあるのか?


 "いいえ"


 アーチの顔が少し曇ったような気がする。


 ”魔石がある場所を知りませんか?”


 魔石の場所?あぁ、 そういえば前にキツネと洞窟に魔石を採りに行ったことがある。その魔石を採りに行った洞窟にはたくさんの魔石があったな。

 キツネ曰く、魔石の多いところには魔力が多く流れているそうだ。


 "はい”


 するとアーチの顔が明るくなり、その後何かを決心したように真剣な表情になった気がする。


 ”その場所を教えてもらえますか?”


 んー別に良いけど......

 なんか理由が気になる。どうしてだろう。でもなんか聞いちゃいけない気がする。んーでも気になる......

 

 "なぜかお聞きしても?"


 彼女の顔色がまた少し曇った気がする。

 やっぱり聞かないほうがよかっただろうか。


 "私はとある約束を守るために、この森に黒色の魔導石を探しに来ました"


 ”とある約束?”


 ”えぇ、私の親友との約束です”


 「親友」?「友達」の中でも特別な存在という意味だったか。

 つまり、何か約束をして、その約束を果たすために黒色の魔導石が必要ということか。


 んー、教えられることもない。

 ただ......


 ”そこには『アース・ドラゴ』という魔獣がいてとても危険です”


 そう、『アース・ドラゴ』という魔獣がいるのだ。トカゲのような見た目をしており、トカゲと言っても小さいわけではなく、僕と同じくらいのサイズのから僕を丸呑みできるぐらいのがいる。

 グレン・ドラゴ供が冬眠の間に魔導石を採りに行ったが、途中で起きてしまって追いかけ回された。まぁ、あの時はたまたま僕が蹴った魔導石がグレン・ドラゴの頭に直撃してしまったのが原因だったけど......

 その後こっ酷くキツネに叱られた......


 それはともかく!あそこはそれほど危険な場所ということだ。

 そして最近は暖かくなってきた時期だ。冬眠の時期ももう終わりに近く、眠りが浅いだろう。それに冬眠をクマのように早めに終えているものもいるかもしれない。


 ”それでも、魔導石が必要なんです。教えてください”


 アーチは真剣な顔で頭を下げた。頭を下げるという行為はお礼やお願い事をする時に使うものらしい。

 すると、まるでこの人間が正論を言っているように感じてきた。

 魔導石の場所を知っているとか言わなかったほうがよかっただろうか。


 それにしてもなぜそこまでして魔導石が必要なのだろうか?

 そこまでして欲しい理由が気になる......でもそこまで深入りするのもな〜

 それに聞いたからには魔導石の場所を教えないといけない気がする。


 ん〜


 試行錯誤の末、僕は板の上に文字を書く。


 ”わかりました。でも、私も一緒に探させてください"


 アーチはその文字を見ると微笑み、こう書いた。


 ”ありがとうございます"




 僕は初めての人間との会話で、押しに負けた。

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