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初めまして

-side 名の無き黒猫-

 「魔法」、それは人間の魔力を使った不思議な術である。火や水を生み出し、それらを操る術。この世界の理から外れたその異質さ、その怪しさ故に、「魔法」と呼んだ。

 魔力から火を生み出すことができる魔獣はいる。が、人間は魔力から多くの術を生み出し、それをまとめて、「魔術」とよんだ。


 これは『異世界書』に載っていたものだ。正直、キツネにも実在すると聞いていたが、聞いた話の中で唯一信じられないものだった。

 しかし、僕の目の前で、猫人間は今魔力から不思議な癒しの光を作り出して僕を癒したのを見た。そして魔感で感じた。『異世界書』には魔法の種類について詳しく載っていなかったが、キツネ曰く、魔術の中には相手を癒す魔法があると聞いた。


 魔法が実在するかは置いといて、猫人間は人間である可能性が高い。

 問題だったのは猫人間が同族か人間かがわからないということ。


 さて、どうしたものか。

 キツネからは人間と関わるなと言われている。

 とはいえ、この人間は僕を癒してくれた。

 これでこの人間が僕に敵意を持っていないと考えるのは愚考だろうか。


「......もしかして、君が助けてくれたの?いや、まさかね......でも、この怪我......」


 人間は僕に何かを話しかける。

 とはいえ、人語はわからないから何を言っているのかわからない。


 それはともかく、ここらへんで僕はいくとしよう。

 どうやらこの人間も大丈夫なようだし。


「あ、待って!」


「ニャ!」


 人間は僕を抱き寄せた。

 僕の体はグイッと後ろに引っ張られた。

 何をする気だ!そう思ってか毛を逆立てて人間を睨むと、人間が僕の目をじっと見ていた。 


「え、えっと、その......どうやって伝えよう......」


 人間は何やらどうにか僕と話そうとしているようだ。

 まぁ、少しぐらいなら話しても......いいか......

 回復の礼ぐらいはしたい。


「ニャーニャ、ニャニャ?」(何のようだ?)


「え、えっと......ニャーン?」


 ......バカにしてんのか?


 どうやら猫語も念話も通じないようだ。この猫人間の姿が僕に似ているから猫語が通じるかもと思ったが、そうでもないらしい。

 さて、どうしたものか......キツネに人語なんて教えてもらっていないし......


 僕は記憶をあさって何かないかと考えた。

 そこで、いい案を思いついた。


 僕は人間から離れて地面に文字を書く。

 文字とは人間が作ったものだ。

 僕だって伊達に本を読み続けたわけではない。ある程度書くこともできるし、大体の文字はわかるはず。


 ”初めまして。私は文字が読めるので、文字で会話することは可能です”


「わぁ、すごい!」


 どうやらうまく伝わったようだ。

 そして僕は続けて書く。


 ”助けてくれてありがとうございました”


 人間は僕の書いた文の横に指で地面に文字を書きはじめる。


 ”私はアーチと言います。あなたが助けてくれたのですか?”


 助けた......とはっきり言って良いのだろうか。

 結果として助けたという形になっただけで......

 まぁ、結果として助けたし、いっか。


 ”はい”


「やっぱり......」


 ”こちらこそ本当にありがとうございました”


 アーチは僕に優しく微笑んだ。


 まずはこのアーチが人間かの確認が必要だ。


 ”あなたは人間ですか?”


 ”はい”


 やっぱり......


 まぁ、魔法が使えて人語を話せる時点で人間だということはわかっていた。

 さて、どうしたものか。

 人間となれば関わらない方が......


 でも、今更だけど何をそんなにこだわる必要があるのだろう?


 キツネだって人間には悪ばかりではないと言っていた。

 そして僕にはアーチが敵には見えない。というか、助けてくれた相手を敵と思えるほど僕は疑い深くない。


 それに人間についてもっと知りたいと思っていた。文字を書き、道具を作って使い、魔法を操る存在に興味があった。これは人間と関われる最初で最後のチャンスかもしれない。


 僕が決心している間にアーチは続けて書いていた。


 ”名前をお聞きしてもいいでしょうか?”


 名前、名前か......

 人間は互いに名前で呼び合うらしい。

 僕ら動物は視線などの仕草で意思疎通をする。僕やキツネのような念話ができる魔獣は念話で事足りるわけだし、そもそも念話を使うのが僕とキツネだから名前を必要としないのだ。


 ”私には名前がありません”


 ”では、なんと呼べばよろしいでしょうか?”


 んー、キツネは僕を念話で、「黒猫」だとか、「貴様」とかと呼ぶけれど......

 まぁ、「貴様」は「あなた」という意味で使っているから別にそういうわけでもないか。

 というか、この人間とは少し話すだけだから別にこだわることもないし......


 ”なんでも構いません”


 アーチは少し考え、


「じゃあ......」


 ”『黒猫さん』と呼ばせていただきます”


 『黒猫さん』

 まぁ、そのまんまだな。可もなく不可もない。

 というかどうせ文字で話すのは僕とアーチだけなのだから名前で呼ぶ必要性はないのではないかと今更思う。


 名前はさておき、なぜこの人間はこの森に来たのだろうか。それが疑問だ。

 キツネ曰く、この森はロコロ大森林といって、ここはロコロ大森林の中でも人間が滅多に来ないエリアらしい。中心部に行くほど魔獣が多く棲息していて、中心部を危険度5とするとここは危険度3ぐらいのエリアで、魔獣がそこそこいる。

 そんな場所になぜ人間がいるのだろうか。


 ”どうしてこの森に一人で来たのですか?”


 彼女の顔色が少し曇った。

 聞かないほうがよかっただろうか。


 ”私は魔光石を探しに来たんです。この森には魔光石があると聞いて”


 「魔光石」、それは魔力を流すと発光する魔石の一種。魔力を流しやすい性質があるため、魔力を用いる道具では材料として多く使われる。また、光源にもなるてめ人間にとって便利なもの。

 とはいえ、魔光石は大抵魔力が多くある洞窟にあって、魔力の多くある場所には魔獣が住んでいることが多い。そのため採掘は難しい。

 その希少さ故に、人間の間では高価で取引されるらしい。


 キツネはその魔光石のカケラを持っていて、僕とキツネは本を読むときに使っている。

 暗いところでも見えないわけじゃないけど、明るいことに越したことはないからだ。


 ”魔光石”の場所、知っていませんか?”


 ん〜


 一応知っているには知っている。

 僕は前にキツネと魔光石を採りに行ったことがある。しかし、あそこにはヤバい魔獣が潜んでいる......クマより恐ろしい。僕が今まで見てきた狼の魔獣やフクロウの魔獣なんかより明らかに見た目からしてヤバいのだ。そしてキツネも手を出すなというほどの魔獣だ。


 名を『グレン・ドラゴ』

 ドラゴとは主にトカゲ系の魔獣を指す。トカゲを見たことがないけど、トカゲと言っても小さいわけではなく、僕と同じくらいのサイズのから僕を丸呑みできるぐらいのもいるらしい。

 そして、例の洞窟にはその僕を丸呑みできるくらいでかい『グレン・ドラゴ』がいる。その姿は黄土色で、身体中に亀裂が入っているなんとも不気味な姿だ。亀裂に魔力が流れて赤く光ると火を吹いて攻撃してくる。その上すばしっこくてすぐに近づいてくる。


 グレン・ドラゴ供が冬眠の間に魔光石を採りに行ったが、途中で起きてしまって追いかけ回された。まぁ、あの時はたまたま僕が蹴った魔光石がグレン・ドラゴの頭に直撃してしまったのが原因だったけど......


 とにかく!それぐらい危ない魔獣なわけだ。


 ”私は魔光石の場所を知っています。でも、そこには危険な魔獣がいてとても危険です。やめておいたほうがいいと思います”


 正論のはずだ。命を張ってまで行くわけがない。


 ”それでも、魔光石が必要なんです。教えてください”


 アーチはそう書いた後、僕をじっと見つめた。

 すると、まるでこの人間が正論を言っているように感じる。

 魔光石の場所を知っているとか言わな買ったほうがよかっただろうか。


 それにしてもなぜそこまでして魔光石が必要なのだろうか?

 理由が気になる。でもそこまで深入りするのもな〜

 それに聞いたからには魔光石の場所を教えないといけない気がする。


 ん〜


 試行錯誤の末、アーチの瞳と人間への興味にとうとう負けてしまった。


 ”わかりました。でも、魔光石が欲しい理由をお聞きしてもいいでしょうか”


 するとアーチは黙々と書き始めた。


 ”私は支えたい方がいるのです。しかし、その方は高貴な方で、獣人である私などが支えられるような方ではない。それでも私は彼の方に支えいという一心でメイドとして働きました。

 そして、とある三つの物をある場所から採ってくれば支えることを許されるのです。そしてその一つが橙色の魔光石なのです。この森のとある洞窟に橙色の魔鉱石は橙色に輝くものがあると聞きました。だからこの森に採りに来たのです”


 なるほど。要約するとアーチは支えたい主人に支えるために橙色の魔光石が必要なわけか。


 とはいえ、魔光石って色に種類があるとは、初めて知った。

 『異世界書』にはいつも詳しくは載ってないんだよな。その存在だけは書き記してあるのに。


 ”教えてください。魔光石の場所を”


 彼女の瞳からキラキラした何かが放たれいるような気がする。


 でも、


 ”あそこには『グレン・ドラゴ』という魔獣がいるのです。その魔獣はとても凶暴です。きっとあなた一人では死んでしまう。それでも行きたいのですか?”


 最後の警告のつもりだ。僕としても初めて関わった人間を、二度と会えないかも知れない人間を死なせたくはない。


 ”それでもです”


 その勇気、いや、意固地はどこから来るのだろうか。




 僕は初めての人間との会話で、押しに負けた。

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