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猫人間アーチ

-side 名の無き黒猫-

 人間とは二本足で立つ生き物。

 彼らには頭以外に毛が生えておらず、鋭い爪と牙を持たない。


 しかし、その人間の姿は少し違う。

 日本足で立っていて、頭以外に毛はないように見えるが黒く、僕と同じように生えた耳。そして尻尾が一本生えている。

 聞いた人間の特徴と違う。

 何より、匂いが僕と少し似ている。


 つまり、僕と同族、猫ということか……否、僕とも特徴がかけ離れている。

 ならば何者なのだろうか。

 とりあえず、この人間を「猫人間」と呼ぶことにした。


「キャァァァァ!」


 そんなことを考えているとクマが人間(?)に腕を振り下ろそうとしている。


 そこで僕は咄嗟に木から飛び降りてその人間を咥えて、クマの攻撃を避けた。

 そこで、僕と同じような瞳、尖った犬歯をこの人間らしきものにあるのを確認した。


 つまり、この人間らしきものは僕の同族である可能性が深まった。

 何かしらの話を聞けるかもしれない。


 とはいえ、どうしたものか。


 相手はどう見てもパワーが圧倒的に上なクマ。大きさは猫人間の一回り大きい。

 あの腕を振り下ろすスピードは相当……避けられるが、厄介だな。

 ってなんか気絶しているんですけど?!


 猫人間は目を閉じて倒れてしまっている。

 どうやら一緒に戦ってもらえそうにはないらしい。

 守りながら戦うしか……


 うん、無理だこれ!

 どうしろというのだろう。

 この猫人間は体が大きいし、運びながら逃げるのは無理。


 この猫人間を守らないという選択肢はあるだろうか……あるな。

 ならさっさと逃げて……


 気絶したその猫人間には涙が流れている。

 その姿は本当に弱りきった姿。

 手は切り傷だらけで、纏っている服はあちこち破けている。茂みをくぐり抜ける時にできた傷だろうか。

 状況も、同情する要素もないはずなのに、空腹で倒れていた自分と重ねる。


 ふぅ……


 深呼吸して決心する。

 乗りかかった船だ。やってやろうじゃないか!キツネとの特訓の成果を出すときだ!


 とはいえ、こんな大きい動物と戦うのは初めてで、どうしたものか。その上、クマと戦ったことなんて一度もない。


 ならば、急所を狙うしかないか……

 どんな動物でも急所を狙えばひとたまりもない。そして、どんな動物でも急所は首だ。そこを一点集中して攻撃するしかない。少なくとも逃げてくれると願いたい。

 でも、真っ向から戦って、易々と急所に攻撃を入れさせてくれるような相手ではないだろう。


「シャァァァァ!」


 僕は気を逆立ててクマを威嚇する。


「ウーッ、グルル……」


 クマは二本足で立ち上がり、腕をあげた。まさに、クマの威嚇。


 そして「威嚇」のことはともかく、まずいことにその態勢だと首の位置が高くなる。


 こりゃ大変だ……


 苦笑しているとクマが両腕を振り下ろした。


 うおっと!危ない……

 もう少しで地面に潰されるところだった。

 さて、首筋を狙うなら……


 僕は全身に魔力を流し、どこでも魔力を籠められるようにした。

 そしてまずは足に魔力を籠める。


 僕は真横の木の上に飛び上がり、クマの立ち上がる高さより高い位置に移動する。

 高い位置にいればさっきみたいにクマは二本足で起き上がるはず。


 そして案の定クマは二本の足で立ち上がった。

 そのまま僕の立っている木を揺らして枝を折ろうとするが、そこで隙のできた首元に飛びかかって切り裂く。


「ガァオォォォォォ!」


 クマの鳴き声が響く。

 しかし、血は出ているものの傷は深くない。

 このクマの皮と筋肉、分厚すぎるし、硬すぎる。


 クマはさらに興奮したようで、僕をすごい形相で睨みつける。

 随分応えたようだ。


 しかし、今のように木の上から攻撃をし続けて傷を深くすればいける!


 僕は何度も同じように木の上に登っては首を切り、また登っては首を切った…•••

 一心不乱に何度も繰り返していく。

 その度にクマの叫び声は森を響いた……




※ ※ ※




 夕方になると、僕とクマはお互いボロボロだった。

 クマは首には僕の爪痕が多く残っていて血を大量に流している。一方、僕も魔力で防御したが何度かクマに叩き飛ばされた。これで打撲は多数あれど骨が折れている感覚がないのだから魔力は本当にすごい。


「グルル……」


(ま……まだやる気か?)


 クマも満身創痍だというのにクマは逃げもせず、こう立ち向かってくる。

 相当お腹が空いていたのだろうか。


 とはいえ、僕も限界だ。

 魔力もそこが見え始めている。

 魔力切れの感覚は本当に嫌いだから魔力を全て使いたくはないのだが……


 お互い膠着した状態で動かない。息は荒く、心臓の音がうるさいほどに激しく鼓動する。


 しばらくするとクマはゆっくりと倒れた。その巨体は地面を揺らした。


 近づいてみると、どうやら息は止まっている。

 死んだ……ということだろうか……


 長い戦いだった。


 とはいえ、なぜこんなになるまでクマと戦っていたのだろうか。

 そうだ、猫人間!


 猫人間の存在を思い出して様子を見に行く。

 どうやらまだ気絶しているようだ。


 なんで本当にこうなるまで戦ったのだろう。

 自分ごとながら呆れてしまう。

 この猫人間を助けるため、こんなに戦う必要があっただろうか……


 とりあえず、この猫人間をどうしたものか。

 この猫人間が猫か人間か……

 とりあえずキツネに相談しよう。

 キツネなら何かわかるかもしれない。


 そう決めてキツネのいる洞穴に戻ろうとした瞬間……


 視界が大きく左へスライドする。

 そのまま僕は横に倒れた。あぁ、これ、なんか既視感……

 思ったよりクマとの戦いで体がボロボロになっていたようだ。

 身体中に打撲の痛みが響く。


 まずい……本当に……


「んー、ここは?」


 どうやら人間が目覚めたようだ。

 これはまずい……


 現在僕は本当に無防備な状態……今襲われても抵抗は難しい。


「あれ、猫?確か僕は……

 そ、そうだ……クマにおそわれて……そ、それで」


 くっ、早く逃げなければ……


 キツネの忠告が頭の中をぐるぐる回る。

 人間の恐ろしさはキツネからたくさん聞いた。毛皮になるだとか、バラバラにされるだとか……

 とにかく!毛皮になるのだけは本当にごめんだ!


「あれ!何この大怪我!」


 人間は僕を抱き抱えた。

 そこでズキズキと痛みが走る。

 もう少し優しく……


 ぼんやりと見えるその人間の顔は、心配と不安で歪んでいた。


「この猫、大変な怪我……

 と、とにかく、回復しないと!」


 猫人間は片手で僕を抱えたまま、もう一方の手を僕に翳した。

 猫人間の翳した手に魔力が流れていくのが感じられる。

 何をする気だろうか。しかし、逃げる体力も抵抗する気力もない……

 あぁ、肉なり焼くなり好きにしてくれ!


「我が求めるは 回復の光。 かの者を癒やせ 『ヒール』」


 覚悟して目を瞑ると暖かい感覚が僕を包み込む。

 太陽の光にあたっているような、そんな感覚……


 目を開けてみると猫人間の手から光が出ていた。

 その光は眩しいというより、優しい光だった。


 少し体の痛みが引いて、楽になった気がする。


「ま、まだ……だったら!

 我が求めるは 回復の光。 かの者の傷を かの者の痛みを 癒せ 『ハイヒール』」


 猫人間の手にさらに魔力が集まって、僕にさらに多くの光が僕の体を包み込んだ。


「ど、どうかな?傷は消えたけど……骨折とかしてるならもっと『ハイヒール』を使わないと……」


 光が消えると、さっきまで僕の体を襲っていた痛みが完全に消えた。

 しかし、猫人間の表情はまだ暗い。

 僕を心配しているようだ。


「ニャーオ」(大丈夫)


「あ、よかった。治ったみたい」


 一言言うと、猫人間の表情が和らいでいた。

すみません。1話から全部書き直したため時間がかかってしまいました。

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