第14話 夏休みの思い出。
母とお母様は、2日間ほど客間にこもって、話し込んでいた。
時折、笑い声が響いてくるので、心配はないみたいだ。ご飯も部屋に運んだし、ワインも何本か飲んだみたい。
私はいつも通り、教会の学校に手伝いに行っていた。
子供たちはここで、読み書き、簡単な計算まで教えてもらえる。
親は仕事があるので…漁やら畑やら…子供たちはみな預けられている。
夏休みらしい休みは、本当に暑くなる1週間ぐらい。さすがに親の仕事も休みになるから。
ジスランちゃんは、みんなと教会の学校に来て弟たちと机を並べたり、遊んだり…。父と漁港の見学に行ったり、漁船に乗せてもらって酔ったり、魚を貰ってきたり…。
夜は夜で、弟たちとボードゲームをしたり、部屋をぐっちゃぐちゃにして枕投げをしたり…(これは4人とも反省させて、掃除をさせた。)
まあ、なんていうの?弟が一人増えた感じ。
*****
「いろいろとお世話になりました。私は明日の朝帰るわね。」
夕食時、お母様が妙にさっぱりした顔で、そう言った。4日目。
「ジスランはまだいるんでしょう?すみません、よろしくお願いいたしますね。帰るときに馬車を寄こすから、連絡してきてちょうだいね。」
「あらあ、旦那さんに会いたくなっちゃった?あんたたちは学生時代から仲良かったもんね。」
「まあ、ソフィアに言われるほどじゃないわ。寮で彼氏恋しさに帰りたいって泣いてたくせに。」
「あははっ!」
「でも、この国にはいないもんだと思っていたあなたにこんなところで会うなんてね…。しかも、シレーヌ?名前まで変えていたのね?わからなかったはずだわ。」
「そうね。私もね侯爵夫人と話す機会なんか一生無いと思っていたわ。ねえ、カトリーヌ?よく旦那さんと話すのよ?ちゃんと、さみしかった、って正直に言うのよ?」
「ええ。貴方を少し見習ってみるわね。」
「えーーー?なにそれ?あははっ!」
「・・・・・」
どうも、学院時代の同級生だったらしい。からからと笑いながら二人が話をするのを父が少し照れながら聞いている。
翌日、一人で帰っていくお母様を見送る。
まだ見ぬお父様に、綺麗にした貝殻をいくつか小さい袋に入れて、お土産に渡した。
「まあ、ありがとう。アリー。」
そう言って、柔らかく笑った。
みんなで並んで、見えなくなるまで手を振る。
「今朝早く、あの二人は海を見に行ってきたらしい。水平線が光って、綺麗だったって。」
「へええ。いつの間に。」
「それで…母に謝られた。ごめんねって。」
「うん。」
ジスランちゃんの頭を、背伸びして撫でる。
少しかがんで、嬉しそうに撫でられている。
教会の学校に手伝いに行く私に、僕も行く、と、ジスランちゃんも付いてきた。弟たちは駆けて行ってしまった。
「お前のお母様の名前は?」
「ああ!小さい頃にね、砂浜で母を拾った父が《《僕の人魚姫》》って呼ぶから、この国に帰化するときに、思い切って名前も変えたらしい。シレーヌ(人魚)。いろいろ時間がかかったみたいだけどね、結婚するのも。なにせ、王族だったから。」
「は?」
「あれ?言ってなかった?うちの母はあのスペーナの内乱の生き残りなのよ。」
「え?」
「背中に大きな刀傷があるのよね。小さいとき一緒にお風呂入ると、あんまり痛そうだからよく撫でてあげてたわ。ほんと、よく生きてここまで流れ着いたものだわよね?たまたま海流とかに乗ったのかな?」
「え??そんな、それって…。」
「出会ったことには意味があるらしいわよ。縁?父が言ってた。」
「・・・・・」
「でも今は貧乏子爵家の嫁よ。学院はおじさまの養女ってことでしぶしぶ行ったって聞いてたけど、実はそれなりに楽しかったみたいね。お母様とお話してたの本当に楽しそうだったわよね。卒業するころにスペーナの国王が復権したから、父との婚姻の許可がなかなか下りなかったみたいね。あっちの国とこっちと行ったり来たりしたんだって。」
「・・・・・」
「一度行ってみたい気もするわ。スペーナ国。どんな国かしらね?母の原点だものね。」
「・・・そしたら、僕も行く。」
「あははっ。そうね。その時は誘うわ。」
うちの母とお母様の学生時代か…。ふうん。
あたしもいつか、こいつと過ごしたこの夏を、懐かしんだりするのかな?




