第11話 実家。
そんな感じで、旅は続いた。
今日の夕方には家に着く、という時になって、ふと不安になる。
「ねえねえ、ジスランちゃん?そういえば私、実家にお客様を招くことをお知らせしていないんだけど??」
「ああ。大丈夫だよ。アリアン。僕のお父様が婚約の書状と一緒に、訪ねていく旨を知らせておくって言ってたから。」
「・・・そう。」
・・・って、ぜんぜん安心できる要素がどこにもないけど?
だってよ?うちの家は4部屋しかない。そこに小さな父用の執務室とダイニング。昨日泊まった宿屋より狭い。
一部屋は父と母が使っているし、一部屋は弟たちがぎっちりと住んでるし、端っこの物置部屋だったところを片づけて私の私室にして…。客間は一部屋。
あ、そうか。いよいよジスランちゃんとお母様が客間に泊まればいいのか!!
それにしたって、とてもとても侯爵家のお客様を招き入れるような部屋ではない!!
近くに宿屋もないしな?
父の今開発しているリゾート地?空きがあるかな?
*****
「いらっしゃーーーい」
「おかえり!」
「おねえちゃま、おかえり!」
御者さんに、本当にここですか?と聞かれた我が家。うん。小さいよね。
クレール侯爵家の家紋入りの馬車が横付けされる。暗くなる前についた。
真っ先に降りたジスランちゃんに手を取ってもらって降りると、弟たちが群がってくる。
「おかえりーー!おねえちゃま!」
一番チビ助のアンリを抱っこしてほおずりする。
「ただいま。お客様もいらしたからね。なんて言うんだっけ?」
お母様がジスランちゃんに手を取られて降りてくる。
「・・・いらっしゃいませ!」
うーーーーーん。上手に言えました。
お母様はあまりの小さい家にかなり驚いていたようだったが、末っ子の歓迎を受けて、気を取り直してくださったようだ。
「あら、まあ。うふふっ。よろしくお願いしますね。」
「いらっしゃいませ。家内は今、出かけておりますが、すぐ戻ります。お疲れでしょう?どうぞ。狭い家ですが。」
父が、お母様を案内する。
私は御者さんが降ろしてくれた自分のカバンを持って、
「ねえ、レオン?お客様の部屋にこのお兄ちゃんを案内してくれる?お姉ちゃん、荷物置いたら行くから。」
「いいよ。こっち。」
「僕も!」
「ぼくも!」
いやあ。相変わらずにぎやかだなあ、うちは。
自分の部屋の窓を開けて風を通してから、着替える。上質なワンピースはもったいないからちゃんとハンガーにかける。カバンからみんなへのお土産を取り出して、客間に向かう。
「お兄ちゃんは、お姉ちゃまと結婚するの?」
「そうだよ。」
「じゃあ!お兄ちゃんは僕たちのお兄ちゃんになるの?」
「そうだよ。よろしくね。」
質問攻めにしていたシリルがうれしそうに笑っている。アンリはもう、ジスランちゃんの膝にちゃっかり座っているし。
開け放された客間のドアから、笑い声が響く。
あらまあ…。
「お兄ちゃん、僕たちの部屋にお泊りしたら?」
「バカだな、シリル、お姉ちゃまと同じ部屋に泊まるんだろ?母上がそういってたよ?」
「えー一緒に寝ようよお。」
「いっしょ!」
「えーーどうしようかなあ。」
うちの母は…何カンガエテンノ?お前もだ、ジスランちゃん。
聞こえなかったふりをして、部屋に入る。
「はーい。お土産よ。このお兄ちゃんと一緒に選んだの。これはレオン。こっちがシリル。アンリにはこれよ。」
セミナーの帰りに本屋で買った本。なんだかんだとジスランちゃんも面白がって選んでくれた。
「見てもいい?」
「いいわよー」
わらわらと弟たちが本を持って自分たちの部屋に戻る。
「さて、ジスランちゃんもお茶にする?その辺お散歩する?」
「まず、お茶にするかなあ。」
そうだね。長旅だったもんね。
弟たちの部屋の前を通ると、3人とも本に夢中だ。
「あははっ!お前たち姉弟そっくりだな?」
「・・・なんか…ごめん。」
そう、セミナー帰りの本屋で、また本を一冊読み切ってしまった。呆れながらもジスランちゃんが待っていた。
うちはダイニングでお茶。ティールームなんてこじゃれたものはないから。
真夏じゃなければ、外でお茶もできるけど。
窓を開け放ったダイニングで、うちの父とジスランちゃんのお母様がお話していた。と、いうより…ジスランちゃんの家であるクレール侯爵家の説明?
父が楽しそうに話を聞いてくれている。
「ねえ…海でも見に行く?」
「・・・うん。」
日は陰ってきたが、一応麦わら帽子をかぶる。ジスランちゃんにもかぶせてあごの下でリボンを結んであげる。
「靴か…」
靴を脱がせて、靴下も脱がせ、父用のサンダルをはかせる。ついでにスラックスの裾を3回ぐらいまくる。よし。
「あらまあ、アリーちゃん、帰って来たんかね?」
「うん、夏休みでね。」
「・・・後ろにいるのはあんたのこれ?」
雑貨屋のおばちゃんが親指を立てる。
「・・・お客様よ!」
「へええええ。ぐふっ。奥様がアンタくらいの頃は、旦那様とラブラブだったけどねえ。やっぱり学校に行ったりして結婚は遅れたけどね。」
「・・・・・」
「で?何が入用なんだい?」
ジスランちゃん用の半そでシャツと半ズボンとサンダル、麦わら帽子を買った。お母様に買っていただいたドレスと比べると、100分の1くらいの値段だけどね。




