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第10話 宿場町にて。

その日はそんな感じで終了。

夕方についた宿場町で、馬車で寝ようと、軽食を買いに行こうとした私に、


「ダメよ!ダメ!うちのジスランちゃんの仮にも婚約者ともあろう子を、馬車で…馬車で寝かせる選択肢なんてありませんわ!!!」

「・・・・・」


御者さんが宿を決めて戻ってきた。

「奥様、二部屋しか空きがございませんでしたが、どういたしましょう?」


「じゃあ、僕とアリアンで一部屋使うよ?お母様は一部屋お使いになればよろしいでしょう?」


は?


「まあまあまあまあ!!婚約したといってもまだお式も挙げていないのに!!!男女が同じ部屋なんてありえません!!!」


デスヨネ。お前も変なこと口走るな、ジスランちゃん。


バカンスに向かう貴族たちが多いせいか、宿場町は結構にぎわっている。

屋台も出ている。楽しそう。

御者さんが3人分の荷物を運びこんでくれている間、お母様にお洋服屋さんにつれて行かれる。

「私はね、決してあなたをジスランちゃんの婚約者と認めたわけではございません。夫が…なぜ賛成なのかもよく理解できません。でもね、あなたがその様ななりをなさっていると、品位にかかわるんです。品位に。」

「・・・はあ。」

「とりあえず、何とかいたしましょう。あなたのそのなりを。どうせ持ってきたものも粗末なものなんでしょう?」

「はあ…。」


これかしら?これもいいわね?と言いながら、あれこれとデイドレスを見繕っている。靴まで??

「ま、とりあえず、オーダーは間に合いませんからね。既成のもので…。」

「あの…。私、そんなに持ち合わせがないんですけど…。」

「まあまあまあまあ!!!出しますわよ、うちで。貴方もね、ちゃんとなさってくださらないと、財産目当て、とかつまらないことを言われてしまいますのよ???それにね、ジスランちゃんが恥ずかしいでしょう?」

「・・・はあ。」


あれこれと、お母様の選んだお洋服を着せられる。趣味は良い。値段もいいけど。


結局、デイドレスを2着と、ワンピースを2着買っていただいてしまった。あわせて、靴も…。

そのうちの一着を控室で店員さんが着付けしてくれる。ついでに髪も結わずにふんわりと下した。薄っすら化粧も。これからご飯を食べて寝るだけなので、香水は辞退した。


「あら、まあまあね。」


お母様もなんとか納得できる仕上がりだったようですね。よろしゅうございました。


「・・・あなた…お母様のお名前は?」


「え?シレーヌ、ですけど?」

「・・・そう…。」


まじまじと私を見ていたお母様が、不思議そうな顔で聞いてきた。

なに?


そのまま夕食。お母様はお疲れだったようで、早々に部屋に引きこもった。

てっきりジスランちゃんがお母様と同室になるのかと思いこんでいたら、私とお母様が同室らしい。ま、いいけど。


「似合うね、アリアン。まるでお嬢様みたいだよ?とてもデッキブラシを振り回すようには見えないよ。」

そう言うジスランちゃんの頬を両手で引っ張る。二度と言うな。


「さて、屋台がたくさん出てるみたいだし、お土産屋さんもあるって。少し散歩してくる?」

「え?いいの?」

「うん。お母様には許可を取ったから。」

・・・いつの間に。


焼き肉のいいにおいが漂う屋台の通りをぶらぶらする。

途中の店で、棒についた飴を買ってもらって、なめながら歩く。オレンジ味。

お母様にはイチゴ味の飴をお土産に買った。


「ねえねえ、どうしてあんたのお父様はこんなとんでもない婚約を許してくれたわけ?お父様が許しちゃったから、お母様が反対しきれなかったんでしょ?」

「うん。」

「あなたの家に何のメリットもないもんね。」

「・・・俺はさあ、いい子なわけよ。」


(自分で言う??)


「わがままとか、言ったことなかったしな。母の思うように育てられてきたわけ。

家庭教師3人。剣術の先生、乗馬の先生…。跡取りだからな。」

「大変だね、跡取り。」

「お前のとこの弟だって、そうだろう?」

「うち?うちは自分で生きていけるような教育方針かな。何があっても生き延びろ、みたいな。あんたんちと違った意味で厳しかったかな。家の手伝いもあるし。小さいころからみんなよく働くよ。」

「ふーーーん。」


ベンチが所々に置いてあるので、そこに腰を下ろす。少し高台だったから、夜の中に屋台の明かりが続いているのが見える。


「母に言えば絶対反対されるから、父に直接頼んだ。お前と婚約したいって。なんだか、面白がってくれたよ?お前が決めたのなら、そうしなさいって。書類も申請してくれて、あとはおまえんちの父親のサインな。」


「・・・面白???でもでもよ?仮に婚約するなら、他にもたくさんいたんじゃない?志願するご令嬢がわんさと。あんたがキスしてた子たちだって、日替わりか?ってくらいいたでしょうが?」

「・・・だって…お前ほど面白そうな奴いないもん。・・・あれはな、目上の人のお願いは聞いた方がいいかなって。別に俺が誘った子なんか一人もいないし。」


「は?・・面白??は?さり気に自慢??」


1時間ぐらいぶらぶらして、宿に帰る。そーーーっとドアを開けて、寝間着に着替えてベッドにもぐりこむ。お母様はもう横になっていらした。


「・・・楽しかった?」


話しかけられると思っていなかったので、心底びっくりした。


「ええ。ジスランちゃんに飴を買ってもらいました。お母様の分もお土産で買ってきましたから。」

「…そう。ありがとう。」


灯りを下ろしているからか、妙に静かな話し方だ。昼間に弾丸のように質問攻めにしていた人と同じ人?


「・・・私のね学生時代のお友達に、あなたがとっても似ていたの。懐かしいわ…。そしたらね、学生時代のこととか思い出しちゃって。私にもね、あなたぐらいの歳のことがあったのよ。」

「・・・・・」


「おやすみ。」

「あ、おやすみなさい。」


遠くに、まだ屋台のざわめきが聞こえる。


そうですよね、お母様?なんだか…不思議な感じです。








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