第1話 入学式。
「まあ、ジスランちゃん?大丈夫?緊張しているの?お母様が手を握っていて差し上げますね。」
「ありがとうございます。お母様。」
「ハンカチは持った?担任の先生によくお母様が頼んでおきましたからね。心配ありませんよ?」
「はい。」
(ん?中等部の子が紛れ込んでるのかしら?)
アリアンは自分の座った後ろの席で繰り広げられる親子の会話に、つい、耳を澄ます。
王立学院の高等部はその中等部から上がってくる子が大半らしい。アリアンのように高等部から入る子が1割ぐらい。親が入学式についてくるのは珍しいことではないのだろう、大半の子たちが父兄と来ていた。もちろん、付いてきた父兄は一段上の保護者席に本来は座っているはず…。
海沿いのさびれた領地から3日かけて出てきたアリアンは、弟たちがまだ小さいので付き添いはない。一昨日寮に入った。二人部屋のこじんまりとした部屋。もちろん、高位貴族の皆さんは個室だし、王族やら公爵位ぐらいの人たちは侍女を連れてきてもいいので、控室もついているらしい。
同室者はドロテというやはり地方から出てきた男爵家の娘さん。明るい茶色の髪の、気のいい子だった。
「新入生代表なんて、お母様うれしいわ。ね?ジスランちゃん?」
「ありがとうございます。お母様が応援してくださったおかげです。」
「まあ。ジスランちゃん…。」
(新入生代表?へえ…。)
学長のあいさつやら来賓のあいさつやら…。眠気がピークになったころ、ようやく、ジスランちゃん、が呼ばれた。こぼれかけたよだれを拭く。
「それでは、新入生代表から挨拶を。ジスラン、前へ。」
「はい。」
(お、どれどれ。ジスランちゃん…。)
アリアンの思い描いたその子は…、なんとなく背が低めの丸眼鏡。甘やかされて育ったふにゃふにゃした子…?
(へええ。なんか…思っていたより、普通。)
アリアンの座った席の隣の通路を風を切って進んだ背の高い男の子。制服がよく似合う。金髪碧眼の、どちらかというといい男。いや、かなりいい男。
(いやあああ、あの会話を聞いていなかったら、惚れてまうな。)
実際、ジスランちゃんが演壇に立って代表挨拶を始めると、きゃあ、という悶絶するような叫び声があちこちで上がったから、女子受けはいいようだね。よかったね、ジスランちゃん。