表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/7

生い立ち

どうも、こんにちは。なろうでは珍しいテーマかと思いますが、よろしくお願いいたします。

題名に反し、シリアス一辺倒な作品になってしまいました。

雨が強く降っている。


仰向けに寝転がっているので、顔に水がかかるのが鬱陶しいと同時に、火照った体を冷ましてくれて気持ちいい。

息遣いは荒く、胸が激しく上下しているのがわかる。全身に鈍いが鋭い痛みを感じる。額のあたりに手を当ててみると、雨水よりも粘性の高い液体が手についた。

痛みを堪えながら、なんとか額に当てた手を顔の所まで浮かべ、手の平へと視線をやると、左手が真っ赤に染まっていた。雨で薄まってはいるが間違いなく血だ。この出血量では、間違いなく助からないだろう。血だけではなく、身体のいたるところの骨も折れているようだ。

今ここで死ぬ。間違いなく。そう思っても、別に悲しさとか悔しさが込み上げてくることもない。


これまでの人生が幸せだと思ったことなんて一度もない。

むしろ最大限にクソッタレな17年だった。生まれた時には、もう父親はいなかった。

母親が妊娠したのを知った途端、面倒臭くなって捨てて蒸発したらしい。

話を聞く限り、働かずに母親が夜職で稼いできていたお金をせびっていたばかりか、日常的に暴力を振るっていたらしいので、父親がいないこと自体はむしろ幸運と言えるだろう。

しかし、父親がいなくなったことで母親が落ち着いたりすることは無かった。よくある話だが、どんなに酷い男だったとしても、捨てられた女は男への未練を捨てきれない。惚れた弱みと言うやつだろう。

ともかく、俺は物心ついた頃から母親に暴力を振るわれていた。それ以外にも、虐待の大体のパターンは受けた。

母が俺に暴力を振るうときにいつも言っていたのが、「あんたのせいであの人がいなくなった」「あんたなんか産まなきゃよかった」の二つのフレーズだ。これも虐待を行う親にお決まりの言葉だろう。

そんなことを言うぐらいなら産まなければいいし、なんなら産んだとしても孤児院の前にでも捨ててくれればと思うのだが、堕胎をするための金なんてないし、彼女にはそもそもそんな発想すらなかっただろう。

無知というところまで虐待をする親のステレオタイプだ。

俺の名前、幸仁の名付け親も彼女だが、「幸」と言い「仁」と言い一体どうしてこんなにも実情とかけ離れた名前をつけてしまったのだろうか。


普通ならとっくに死んでしまって、母も逮捕という結果になっていたのだろうが、母親にとっては幸運なことに、そして俺にとっては不幸なことに俺の身体は常人よりもはるかに優れていたらしい。

苛烈な暴力や飢餓の中でも、なんとか命をながら得ることができた。

そんな恵まれた体を持っていたので、小学校の高学年にもなると、母よりも体も大きくなり、暴力を振る割れることも無くなった。

ただ、ネグレクトは続いていたし、俺を恐れるようになったのか、母は俺を完全にいないものとして扱った。小学生をバイトとして雇ってくれるところもなく、生きていくための食事や衣服に困り果てた俺は、母親の金に手をつけた。

生死のかかる差し迫った状況とはいえ、母親の稼いだ金を奪う自分と、憎い父の姿が重なり、複雑な気持ちになった。父を嫌う気持ち、金を奪う罪悪感、ネグレクトする母から金を奪うのは当然だという仄暗い喜び、母から金を奪うという行為から憎い父との離のつながりを感じる可笑しさ。

そんな気持ちが混ざり合い、俺の心に重くのしかかった。どうしようもない俺の人生の中でも、あれ以上に死にたいと感じていた時期は他にない。


中学生に上がってもそんな状況は変わらず、とはいえ死ぬにも死にきれず、ストレスを燻らせた俺は荒れた生活を送るようになった。

別に勉強が嫌いなわけじゃなかったが、他の生徒たちの侮蔑や恐怖、好奇心の目や、家庭事情を半端に知っているらしい教師の同情的な態度に苛立ち、結局学校には行かなくなった。

とはいえ金がないので遊び回れるわけでもなく、昼は母がいる家も居心地が悪かった俺は、大抵公営図書館で時間を潰していた。

当時は体もぐんぐん大きくなり、他の同年代に先んじて、ちょっと背が低い大人くらいの雰囲気があった俺は、補導されることもほとんどなく、されたとしても暫く遠くの図書館まで足を伸ばし、ほとぼりが冷めた頃に戻ってくるというルーティーンで躱すことができた。

何より、髪を金髪に染めたりといったこともできず、側から見た俺はちょっと小汚い青年といった感じなので、俺を知っている人間もほとんどいないここでは、鬱陶しい視線を気にしなくてもよかったのは当時の俺にとってかなり重要なポイントだった。

そんな事情で、図書館で日中のほとんどの時間を過ごしていた俺は、たくさんの知識をここで得た。それまで大幅に遅れていた勉学のレベルも人並み以上に到達した。


金がない俺は、いわゆる悪い仲間や先輩なんかと連むことも無かった。

たまにちょっかいをかけてきたりはしたが、恵まれた身体能力のおかげで少々の歳上が相手でも喧嘩で負けることはなかったし、なんなら複数人相手でも勝つことができた。中学後半では一度叩きのめした相手に目をつけられ、追い回されたりもしたが、そいつらはまさか俺が図書館にいるとは思わなかったため、行き帰りさえ気をつければほとんど遭遇せずに済んだ。

中学卒業後は、もちろん高校には進学せず、土木の現場で働くようになった。いちばんの理由はこれ以上母から金を盗むのが嫌だったからだ。

恵まれた身体能力はここでも役に立ち、周りの大人達と遜色なく働くことができた。未成年で賃貸契約を結べないため家を出ることはできなかったが、それでもある程度自由に使える金を手に入れた。

とはいえ使う用事もなかったが。

職場のおっさん達はタバコや酒を嗜んでいたので、俺も勧められるかとも思ったのだが、16歳から働いていることや、ぽろっとこぼした身の上話に同情したのか、むしろ成人するまで酒やタバコを覚えないように言われた。

飲み会などがあってもジュースを飲むよう勧められた上に、いいといっているのに毎回奢ってくれていた。

みんな気のいい人たちで、人生で初めて仲良くなれた人たちだったかもしれない。

パチンコなどもしなかったので、金は溜まっていく一方だった。


そんなふうに今までの人生の中では比較的平穏な時間が続いていたが、唐突に安寧は破られることとなる。

職場からの帰り道、中学の時に絡んで来ていた奴らと遭遇した。ニヤニヤしながら絡んできた彼らは、中学の時のヤンキーといった様相から様変わりし、一端の不良の雰囲気を出していた。

とはいえ力仕事で筋力もついた俺の相手ではなかった。それから暫くの間は何事もなかったのだが、一週間ほど経った頃、この前絡まれた場所でまた待ち伏せを受けた。


「俺の後輩を可愛がってくれたらしいな?」


見たことのない新顔が何人か混じっていたが、リーダー格の口上から察するに、この前叩きのめした奴らが同じ高校の先輩不良に泣きついたらしい。相手は6、7人の集団だが、喧嘩を避けることはできないだろう。

覚悟を決めれば、やってやれないことは無かった。流石に余裕とは行かなかったが、さして大きな怪我もなく不良達を倒すことができた。その時は、流石にあいつらもそろそろ諦めるだろうと思っていた。

しかしすぐ次の日に、そんな甘い考えは裏切られることとなる。


その日は起きた時から嫌な予感がしていた。

昨日の喧嘩の痛みやダメージが残る体を引き摺りながら仕事へ出かけようとすると、この時間普段は寝ている母とたまたま顔を合わせた。顔を合わせるのも何ヶ月ぶりだろうか。


「あの・・・今日も仕事?」


弱々しいながらも母が声をかけてきたことには、俺にとってとんでもない驚きだった。いつもなら顔を合わせた途端、怯えたようにに自室に逃げ込むのに、今日は一体どういう心情の変化だろうか。会話をしたのは、この数年で初めてだ。


「・・・そうだけど」

「そ、そう。・・・あ、その顔のアザは・・・」

「なんでもないよ。」

「で、でも」

「本当になんでもないから。・・・もういくから。」


何か言いたげだが黙りこくった彼女を尻目に、家を出る。

言いたいことがあるならいえばいいのに、なんて八つ当たりに近い苛立ちも感じながらバス停まで向かう。

朝の冷たい空気は気持ちを落ち着かせてくれる。ささくれだった感情も鎮まり、冷静な頭で考えてみると、母が珍しく声をかけてきたあことがどうにも気にかかる。

母のことは今でも憎んではいるし、許すこともないだろう。許すことはないのだが、今日帰ったら自分から声をかけてみるのもいいかもしれない。

今までなら絶対に有り得ないことだが、なんだか今日は話しかけられる気がした。

俺も成長して丸くなったのかな、なんて思ったが、自分が十七歳であると考えると、それも少し変な言い方だ。

そんな取り止めもない思考に苦笑を浮かべながら、いつもより少しだけ穏やかな気持ちで現場の方へ向かうバスに乗り込んだ。


だが、母に話しかけるなんて未来は決して起こることは無かった。そしてこの時の俺は、それを知る由もなかった。


いつも通り仕事を終え、帰途につく。

どこかの不良たちがバイクを蒸しているのか、複数の爆音が聞こえてくる。

朝の出来事を思い出しながらぼんやりと歩いていると、ずっと聞こえていたバイクの音が後ろから急激に近づいてきた。振り帰ろうとしたその時、突然後頭部に激しい衝撃が走った。堪えられずに倒れ込む俺の周りを、複数の人間が取り囲むのがわかる。


「おい、連れてけ」


薄れゆく意識の中で、そんな声が聞こえたような気がする。体が持ち上げられるがなんの抵抗もできない。


「く、そ・・・」


そんな言葉を噛み締めたのを最後に、俺の意識は失われたのだった。


お読みいただいた方がいれば、本当にありがとうございます。初めて書いた文章で、読みにくいところばかりだと思いますが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。


本日中に結末まで投稿いたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ