偽りの立方体Sheet6:矜持
社内ゲームサークルの三人組。
その後、翌週の土曜日に揃ってやって来た。
会社は定休日だったが、前日の結果を早く報告したくてわざわざ集まったのだと言う。
事前に来店する旨連絡があったので他のメンバーにも伝えると、こっちもこぞって集まった。
「いやぁ、本当に見物でしたよ」
前回と同じポジションで真ん中に座る男が話し出した。
「最初にヤツが操作した時に指定した目が出なくて"アレッ"って顔をしたのには、思わず吹き出しそうになりました。
その後も何度かそれが続いて"ちょっとトイレ"とか言って席を外したんです。その時別のPCで例のテキストファイルがある階層みたら何度も最終更新日の時刻が変わってて、皆んなで大笑いしました」
「で、彼がビリになったんでしょ?」
アキラが尋ねた。
「えぇ、昨日は僕ら三人以外のメンバーには事情は今度話すからと参加を辞退してもらってヤツとの一騎討ちにしたんです」
三対一は一騎討ちとは言わないのでは?と、エル以外の皆んなが思ったが誰も触れずにいた。
エルが意味を聞きたそうなのを察して、育美は「後で説明するね」と短く告げた。
「で、こないだアキラさんが仰った様に"ビリだけ奢り"にしたんです。ヤツは負けると思ってないから、ちょっと今日は豪勢にしようって提案にもホイホイ乗ってきました。
ビリ確定の時も事態が飲み込めてないのか狼狽した表情を見せてました。
それからデリバリーが来てヤツが支払いを済ませ、皆んなで食べ始めた頃に言ってやったんです。
『イカサマで勝って食う飯なんて美味くねぇな』って」
「ヤツは全てバレたんだと観念した様でした。『悪い、今日は気分がすぐれないから帰る』ってそそくさと帰っていきました」
エクセレンターの皆んなは神妙な面持ちで聞いていた。
"イカサマで勝って食う飯なんて美味くねぇ"
この言葉にはゲームを愛する者、ゲーマーとしての矜持が込められてる様に感じた。
「んで、顛末は上にも報告するのかい?」
川口は経営者目線で気になる様だ。
「いえ、そこまでは考えてません」
端の一人が答えた。彼ら三人の同意だそうだ。
「でも、週明けから職場で顔合わすの気まずそうですね」
薔薇筆の言葉に育美も頷く。
「元々僕ら三人ともヤツとは部署違いで、業務時間はほとんど接触がありません。だからその辺は全く気にしてません。たぶんサークルにも二度と顔を出す事はないでしょう」
「んじゃこの件は一件落着だな」
アキラが締める。
「やっぱ今回のMVPは薔薇筆クンだな」
川口が言う。
「そんな制度があるんですか?何か報奨とか出るんです?」
さっきとは反対側の一人が言う。
「報奨なんて無い無い。あるとしたら栄誉だけだよ。確かに今回薔薇筆さんの功績大だけどね」
アキラも称える。
薔薇筆は恐縮ですと言って、ちょっとだけ顔を赤らめた。
育美はそれを微笑ましく見つめている。
「じゃあ、彼の今日の飲み代は俺達の奢りにしてください。いいよな?」
真ん中の男が両端の二人に同意を求めた。
二人は快く頷いた。