偽りの立方体Sheet2:見えないあみだくじ
週明けの水曜日。
今日も育美と薔薇筆、同伴の来店だ。
「クイズ作って来ました。まだ装飾無しのネタ部分だけですが、こんなのはどうでしょう?」
薔薇筆がPCに入れてきたエクセルファイルを開いた。
「これは…たぶん、あみだくじだよね?横棒がないけど」
アキラが言う。
「そうです、まんまエクセルの機能で解けるヤツですが簡単すぎますかね?」
「何かをすると横棒が出てくるって事か。エル、分かるか?」
アキラの問いが耳に入って無いのか、返事を返さずじっとモニターを見つめている。
が、何か思い付いた様で、[表示]メニューから[枠線]にチェックを入れた。
「おー、出てきたね」
アキラが感嘆の声をあげる。
「さすがエルさん。早いですね」
薔薇筆は予想以上に早く解かれて、やはり簡単すぎたかと思った。
隣で様子をうかがってた育美はちょっと心配気味に、
「アキラさん、これネットにあげて正解者続出したらどうします?あと、団体で来た時の対応とか」
「そんなのは『毎週先着10組様・ただし一組様四名まで』とかにすれば問題ないよ。ベースはこれでいいから、エルの方でイラストとか付けるか」
アキラの問いかけにエルはうわの空だ。
「ん?どした、エル?」
「あの…"アミダクジ"って何?」
エルはあみだくじを知らなかったのだ。
「あーそっか。ごめんごめん。すんなり横棒出したから、知らないなんて思わなかった。」
アキラはあみだくじのルール(?)を説明した。
「あみだくじ知らずに問題の本質を見抜くのが逆に凄いです」
薔薇筆は皮肉ではなく本気で感心している。
「この世界にはまだまだ知らない事がいっぱいだなぁ」
エルが気落ちと好奇心がないまぜになった心情を吐露した。
「でもねエルさん、今スマホで調べたんだけど、あみだくじがあるのはこの世界でも日本とお隣の韓国、中国くらいですって。アメリカやヨーロッパの西洋には無いみたいです」
「へー、そうなんだ。西洋のあみだくじの代わりって何だろう?」
アキラが言う。
「アレじゃないですか?棒とか紙のこよりに印付いてて引くやつ」
薔薇筆が左手でグーを作り、右手で引くマネをする。
「あぁ、向こうのドラマや映画でたまに見るな、そういえば」
アキラが思い出す。
そんなこんなで最初の『一杯無料クイズ』はサイトにアップロードされた。
初週の反響は、クイズを見たと言って来店してきたのが一組だけだった。
「"毎週先着10組様"とか言ってた自分がハズいわー」
アキラのボヤキに、エルが返す。
「それって、あれあれ、『取らぬ狸の皮算用』ってやつ。合ってる?…ところで"皮算用"って何?」
※枠線の無い所は隣接するセルを白で塗りつぶす事で実現しています。