「ざまぁ」された王子に仕えるので、自給自足に励みます 上
趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。
時々ざまぁ系を見ると「え、これ王子・・・被害者側じゃ?」と思うことがあったので、その衝動で書きました。意外とまとまらなくて、実は最後の方まだ出来てない。
投稿日までには仕上げたい!
1つ、よくある話をしよう。
ある王国にいたのは、婚約した王子様と令嬢。しかし王子は心優しい少女と親しくなり、嫉妬した令嬢は彼女を傷つけてしまう。そのため王子は令嬢との婚約を破棄して、少女と新たに婚約した。
しかし少女はその後、傲慢な本性が露わになった。追い出されて心を入れ替えた令嬢が、異国で素敵な男性と出会ったと聞けば、その男性の方が良いと心変わりする。遂には令嬢を暗殺し、男性を強奪しようとしたのだ。それが阻止された挙げ句、少女は捕まり処罰される。王子は国家の信用や権威を落としたとして、王族を廃嫡された。
その後、令嬢は無事にその男性と結ばれ、異国へと向かい幸せになる。
これがよくある、「ざまぁ」のお話。
○
「で、その話でざまぁされた側・・・廃嫡された元王子様ってのが、あんちゃんがこれからお世話になる先の主ってわけ」
田舎道をガラガラと進む牛車を牽く男性は、大量の荷物に紛れて乗っている少年に話していた。腐っても王族。本当に庶子である自分が行く先なのかと、16歳の少年リブラはどこか不安だった。
リブラ・スヴェンは貧乏子爵家の庶子だ。自給自足で食いつなぎ、毎年なんとか取り潰しを免れているほど、家はとにかくお金がない状態が続いている。そんな時に舞い込んだのが「元王子が追いやられた先での下働き(男)が欲しい」という申し出。衣食住は完備、多少だがお金も出すという好待遇っぷり。少しでも負担を減らし稼ぎを増やしたいと、スヴェン子爵家が名乗りを上げた。そして、融通が利く庶子のリブラが出された次第だ。
ちなみに「下働き(男)」という限定が、牛車を牽く男のツボに入っているらしい。曰く「令嬢の婚約破棄して少女に裏切られて、女に対してトラウマ持ったんだろうなぁ」とのこと。リブラは愛想笑いで誤魔化した。まぁ同性の方が気兼ねないので、こちらも有り難いが。
「確かお名前は、サジタリアス・ブライティア様」
「あー、それは廃嫡前の名前だねぇ。今はジータ・ライトとかそんなだ。まだ18とはいえ、なかなか波瀾万丈な生き様よなぁ。誰も憧れねぇがよ」
ガハハハハ!と大笑いする男に、リブラは今度は苦笑いで流しておく。
サジタリアス・ブライティア。半年前までは王族であり第一王子、いわば権力者の地位にいた。しかし先程の話の通り王族から廃嫡となり、1ヶ月程前にこの片田舎に追いやられたのだ。
「とはいえ野垂れ死にしないよう、家もお金も用意されてるしよぉ。平民のオイラからすれば羨ましい限りだぜ」
そこから権力者に対する、男のちょっとした愚痴が始まる。権力だけで食っていけるわ、風雨をしのげるのは当たり前だわ、家畜は毎日食べられるわ・・・喋り出したら止まらない。リブラは何も言わず「はぁ」と適当に相打ちを打って流したが。
そんな愚痴よりも、リブラを襲うのは「やっていけるか」という不安。相手は元王子、それなりに威厳のあった人。整ってない茶髪に薄汚れた衣服という自分の姿が、生理的に無理なのでは?下手したら庶子だからと、すぐに追い出されてしまうのでは?1つ、また1つと浮かんでいってしまう。
自分の世界に入り浸る2人をお構いなしに、牛車の牛は欠伸する。あくまで長閑な片田舎だと、見せつけるように。
そうしている内に、目的地に着いたようだ。少しコケに覆われヒビの入った古い屋敷は、一瞬だが絵本の魔女の家のように見えた。雑草もぼうぼうと生えており、本当に人が住んでいるのか?と目を疑うほど。牛車を牽いた男にお礼を言った後、リブラはおそるおそる扉を開けた。ギィィという重い音が、屋敷の古さを物語る。
「し、失礼します。本日よりお世話になる、リブラ・スヴェンと申します」
静まりかえった屋敷に、リブラの声は響く。本当に誰もいない空間だ。魔女の家みたいと思ったのは、案外的を射ていた。最低限の明かりと家具しかない室内は埃被り、時が止まっているようだ。自分が初めての下働きだと思い出し、それじゃあ仕方ないかと納得する。
とはいえ光が入る窓が美しく、どこか暖かく、思ったより居心地が良い。
(わぁ、綺麗・・・。でも、ご主人様はどこだろう?)
まさか本当に誰もいない?と不安に思っていると。ふと、ガタッと何か物音がした。何の音だろう、と目をやると・・・。
濃いクマで生気の無い目をした、ボサボサな金髪の人物。薄汚れたシワだらけの衣服を纏い、フラフラとおぼつかない動きをしてばかり。
ゆっくり、ゆっくりと、リブラに近寄ってくる・・・・・・!!
「あ、あ、ぎゃああぁああああ!!?」
「!?」
アレは何!?お化け!?幽霊!?本物の魔女!!?
様々なモノを想像しては混乱し、持っていた手荷物を投げつける。バタバタと近くの棚に激突しても、腰を抜かしても逃げ出そうとするリブラ。
「・・・・・・」
するとその人物は服を整え、髪を後ろに束ねた。なるべく目を見開けば、透き通った蒼い瞳が露わになる。
「・・・・・・俺はジータ・ライト。お前か、リブラ・スヴェンは」
ジータ・ライト・・・この人が、この家の主であるジータ・ライト様!?大慌てでリブラは跪き、先程の無礼を謝る。
「た、たた、大変申し訳ありませんでした、ジータ・ライト様!大声を出した挙げ句に、荷物を放り投げてしまったご無礼をお許しください!
私は本日よりこちらで働く、リブラ・スヴェンと申します・・・!それで、その、スヴェン子爵家の庶子でして、本っ当に世間知らずな大馬鹿者でして、それで、それで・・・!!」
「・・・・・・」
彼は先程のことについては何も言わず、ただ部屋に案内した。明日から宜しく、それだけ言って行ってしまう。その夜、リブラは反省ばかりしていた。
(早とちりで驚かせた上、荷物まで投げて・・・。あの様子だと、絶対怒ってるよ・・・!!
明日から頑張って挽回しないと・・・このまま追い出されてもおかしくない。ちゃんと敬意を持って接して、長く置いてもらわなくちゃ!だって、戻されたら・・・。
それにしても・・・ジータ様。クマはあったけど、やっぱり王族だから綺麗だったなぁ。あんなに綺麗な男の人、初めて見た・・・格好いいなぁ)
古びた屋敷の音が少し増えた中、片田舎の闇ともいえる夜は更けていく。
●
ーーー毎日、やって欲しいことを紙に書いて渡す。それらが終わったら、後は自由で良い。
最初にジータからそう告げられた時は、正直戸惑った。邪魔されるのも嫌なので、なるべく部屋に入らないようとも強く言われた。
部屋の掃除や着替えは自分でする、食事も回数がまちまちだから部屋の前に置くだけ、唯一2人を繋ぐ紙も部屋の前にポツンと置かれている・・・。こんな感じであまり顔を合わせることなく、既に数日が経っていた。顔を合わせることも会話もほとんど無いので寂しいが、これが主にとって1番楽な距離感なのだろう。
(まぁそうだよね・・・。王族が子爵家の庶子と共にするなんて、きっと後ろめたいだろうし)
嫌われず追い出されないだけ、ありがたいと思わないと。そんな思いを胸に、リブラは今日も黙々と作業を続ける。
「えっと、次は・・・外の掃除か。入り口だけで良いってあるけど、せっかくだし雑草も取っちゃおう」
掃除用具を用意して、リブラは早速作業を始める。結構砂埃やら土やらで汚れるので、古い服を持ってきて良かった。土いじりに慣れているのは、実家の生活での影響だ。
「おいおい、知ってるか?あそこ、元王族がいるらしいぜ」
「何でも女に走った挙げ句に廃嫡されたとか、情けねぇな」
「今やあんなあばら家かよ、笑えるぜ」
この辺りを通る運び屋だろうか。ゲラゲラと笑い、小馬鹿にしながら通り過ぎていく男たち。酷いなぁ、と怒りが湧くが・・・ここで怒っても仕方ない。ジータからも「悪口は流してくれ、逃げて良いから」と言われているため、聞こえないフリをするが。プンプンとご機嫌斜めに草取りをしていると「あんちゃん!」と、先日の牛車の男が声をかけてくれた。
「あっ、あの時の。先日はお世話になりました」
「作業お疲れさん。どうだ、ここの主とやってけそうか?」
「あっ・・・ま、まぁ」
「まだ数日だもんな、上手い距離感ってのは難しいか。オイラも頑張れとしか言いようがないなぁ」
ガハハハと笑う男に、今は何故かホッとするリブラ。誰かと会話することが、とても久しぶりのように感じた。
「にしてもここ、結構広い土地があるよな。実際に見てみたかい?」
「いえ・・・ここ数日はずっと、この屋敷で過ごしてました」
「なら、外の掃除ついでに見てみなって。これから過ごすんだし、ちゃんと知っとくべきだろ」
男に言われるがまま、リブラは屋敷裏へと足を進める。王都とはほぼ無縁の過疎地ともあり、森林や耕作放棄地がとにかく広がっている。ここ一帯が、ジータの所有だそうだ。
「元々は領家の別荘だったらしいが、屋敷から使われなくなって、こっちも1年前に何も無くなっちまったと。それなりに耕せば、まだ使えそうだが・・・って、あんちゃん?どうした?」
リブラが注目したのは、畑近くにあったオンボロの小屋。潰れかけた戸をこじ開ければ、そこには雑草で覆われた倉庫が広がっていた。
「す、凄い・・・こんなにたくさんの農業道具、見たことない!これがあれば・・・・・・!!」
この時、自給自足をそれなりにしていた“農家”の血が騒ぎ出したようだ。
読んでいただきありがとうございます!
楽しんでいただければ幸いです。
「中」は明日夜に投稿する予定です。




