プロローグ とある男子高校生の場合
一対の机と椅子しか無い真っ白い景色がどこまでも続く世界に、2人の美少女が対面していた。
片や男子高校生の制服に身を包み、黒髪で黒目、右目が前髪で隠れており、髪は首辺りまで伸ばしている。目は驚きによってからパチパチ瞬かれ、口は金魚のようにパクパクしている。
片や白を基調とした鎧に身を包み、その赤い目で鋭く対面する少女を見る女性。頭の上には一輪の輪っかが浮いている。先の少女とは正反対に驚きや動揺の仕草は見受けられず、美しい銀髪を肩まで伸ばしている。
「東雲優希さん。この度は貴方に頼みたいことがあって召喚させていただきました」
「今日の家事まだ終わってないんだけど!!」
「はい?」
「だから、料理もお皿洗いも終わってないんだってば」
「そこ!?いきなり真っ白い世界に来させられたのにそこ考えます?」
「やかましい。僕にとっては一大事なんだよ」
「大丈夫です。現実世界では時が止まっていますから」
「なら良いけど。で?ここは何処で貴方は誰なんですか?」
「ここは私の部屋で、私は異世界コポルゲニアを統治する女神、アテナです」
「…女神?」
「はい、そして今回優希さんをお呼びしたのは、貴方のいる世界とは別の世界であるコポルゲニアを救って欲しいのです」
訝し気に聞く優希に対して
「え?普通に嫌ですけど…そもそも家族の面倒を見ないといけないので、別の人にお願いしてください」
「…貴方は勇者として選ばれました。とてつもない力を持って復活した魔王を討伐して欲しいのです。沢山チートありますよ」
「話聞いてください。勇者とか言われても僕は家族の面倒見ないといけないんです。別に僕じゃないといけない訳じゃないでしょう?」
アテナは机の上に置いてある一枚の紙を掴んだ。その紙には優希の生い立ちやプロフィールが書かれていた。
「…貴方じゃないとダメなのです」
「え?」
「だから、貴方しか勇者の適性がある人が居ないのです」
アテナは苦々しい顔をしながら机の上にある一枚の紙を見た。本来なら天高く積み上がっているはずであるが、何故か今回の勇者と聖女は1人しか候補者がいなかった。
「アテナさんが魔王を倒すってのは出来ないんですか?」
「私は心苦しいことに、基本的に現世に干渉することは出来ないです。出来ることといったら、聖女と勇者の適性ある人間をこの場に呼び力を与えるくらいしか…」
「魔王を倒したら何かあるんですか?」
「これまでの勇者は一つだけ願いを叶えて差し上げることになっています」
「…はぁー、わかりました。やります、勇者」
優希は重い溜息を吐いてそう言った。
「本当ですか!?ありがとうございます!!それでは今から転移を始めますので動かないでくださいね」
魔法陣が優希の足元に出現する。その魔法陣は今にも発動しそうなくらい光り輝いた。
「え?早すぎないですか?もっとなんか感傷に浸りたいんですけども…」
「それではご武運を…あ、あとちょっと手違いがあって聖女が自分のことを勇者だと勘違いしてるから、誤解を解いて一緒に魔王を討伐してきて下さいね」
「え?ちょっと待っ」
光に包まれて消えていく優希を見てアテナはそっと微笑んだ。




