プロローグ とあるシスターの場合
一対の机と椅子しか無い真っ白い景色がどこまでも続く世界に、2人の女性が対面していた。
片や修道服に身を包み、その蒼い目をパチパチと瞬かせながら、可愛らしい口をパクパクさせている。一見、シスターのように見えるがベールは付けておらず、その艶やかな金髪を腰くらいの高さまで伸ばしている。
片や白を基調とした鎧に身を包み、その赤い目で鋭く対面する少女を見る女性。頭の上には一輪の輪っかが浮いている。先の少女とは正反対に驚きや動揺の仕草は見受けられず、美しい銀髪を肩まで伸ばしている。
「シスターエレノア。此度は貴方に頼みたいことがあり召喚させていただきました」
初めに口を開いたのは、白い鎧に身を包まれた銀髪の美しい女性だ。
「失礼ですがどちら様でしょうか?」
遠慮がちにそう聞くのは金髪蒼眼の修道服を着たシスターだ。
「私の名前はアテナ。この世界、コポルゲニアを統治する女神です」
「あ、アテナ!?」
「流石に聞いたことありますよね」
「いや、まったく。御免なさい私、勇者教でして…」
「まったく!?私これでも結構頑張ってるんだけどなぁ」
「それでアテナさんでしたっけ?この場所は一体?」
「私の部屋ですよ、机と椅子しかないけど。女神特権を使って貴方をこの場に召喚しました」
「まさか、アテナさんって本当に神様なんですか?」
「信じてくれましたか?最近は信仰心がない人が多くて、なかなか信じてくれないんですよ」
「私で宜しければ相談に乗りますよ」
「ほんとう?じゃあ…ってそんなことはどうでもいいのです。シスターエレノアよ。世界のピンチですつい最近魔王が蘇りました」
「魔王…ですか?」
「そうです、魔王です。そこで、エレノアさんに魔王討伐のお手伝いをお願いしたくてですね」
「なるほど、そういうことだったんですね」
修道服に身を包んだシスター、エレノアはどこか納得した様子で答えた。
「何がですか?」
「謎が解けました。他のシスターと比べて何故か私だけ光の魔法の適性があるし、魔力も多い、そして身体能力が高い」
「身体能力は知らないですけど」
「…後可愛い」
「容姿も知らないですね。話を戻しますが貴方には資格があります。光の魔法の適性に、膨大な魔力、とてつもない信仰力、貴方こそが今代の…」
「分かりました。魔王討伐頑張ってきます!!」
「早っ!!もうちょっと葛藤とか驚きとか無いの!?命の危険もあるんだよ」
アテナは先ほどまでのお姉さんじみた口調も忘れて、受け入れの早いエレノアに動揺を隠せない。
「アテナさん、キャラ忘れてますよ」
アテナはゴホンと咳払いをして続ける。
「この道には多くの苦難と危険があります。今なら別の方にお願いすることもできますが、本当に大丈夫ですか?」
「はい、幼い時からの夢ですし、憧れでもありましたから」
「では、ご武運を」
神々しい光に包まれたエレノアを見ながらアテナは微笑み、その過酷なる旅路に対して、健闘を祈った。
「はい!!私、『勇者』として世界救ってきます!!」
「…え?」
光になって消えていくエレノアを見ながらアテナは素っ頓狂な声を出し驚いた。
「あの子、聖女なんだけど…」
誰もいなくなった白い空間にアテナの呟きがこだました。