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第9話 神を信じる

「うっう」

 覚醒する痛みと共にうっすらと目を開けていくと天井が見えた。どうやら部屋の中で乱暴に敷かれた布団の上で寝ているようだ。

「うごっ」

 体を起こそうとすると痛みが走ったが起き上がれないほどでは無かった。以前腰をやった時の方がやばかった。

「あっ起きたんだ」

 盥を持っている茜さんがいた。起き上がったときに濡れタオルが落ちたようだから茜さんは看病をしていてくれたようだ。

 これは感謝すべきなのか?

 看病してくれたのは茜さんだが、俺をボコボコにしたもの茜さんだ。自作自演?

「起きたんならおかゆでも作るから、もう少し横になって待ってな」

 それだけ言うと茜さんはキッチンの方に行ってしまった。そしてスマフォを弄って時間を潰していると茜さんに呼ばれたのでDKに行くとテーブルの上にはほかほかの湯気を上げている卵おかゆと焼鮭、味噌汁が置かれていた。

 おかゆのゆで加減、焼き鮭の焼けた色合い、こう言っては何だが荒っぽい感じの茜さんが作ったとは思えない出来であった。

「美味しそうですね」

 女性の手料理なんて母以外で始めてだった。

「席に着けよ。一緒に食べよう」

 茜さんはちょっと照れたような顔で言うのであった。


 血縁以外の女性と初めての二人きりの食事に感動をしつつ気付いたら終わっていた。

 この感動に比べたらこの程度の暴行なんて安いものだ。俺はきっとこの日を俺は生涯忘れないだろう。

 余韻に浸りつつ食後のお茶を飲んでいると、意を決したような顔をした茜さんが口を開いた。

「私考えたんだ。

 その力はやっぱり神様からの贈り物だと思うんだ」

 そうかな~神様にしては気が利かない。もどうせなら俺がモテるギフトもセットでくれなければ意味が無いじゃ無いか。

 救えるのに自分がイケメンじゃ無いために救えないもどかしさ。

 俺みたいに振り切ってモテないと割り切れなかったら自責の念で潰れてしまう。

 自分を苦しめるために悪魔がくれた能力なんじゃ無いかと思う。

「お姉ちゃんみたいに運命に弄ばれる女性を助けよう」

 見れば分かる気乗りが全くしてない顔をしている俺など無視して茜さんは天啓を受けた聖女のように断言した。

「ちょっちょまってよ。

 俺これだよ。

 茜さんは10万払えば俺に抱かれてくれる?」

 ズバリ高級ソープ一括払いだ。

「冗談じゃないわ」

 あっさり刹那の思考の間もなく憤慨したように返答された。

「でしょ」

 当然の回答が帰ってきて悲しいような安心したような。

「でも死ぬくらいなら抱かれていいと思える。天井の染みでも数えて犬に嚙まれたと思うわ。

 私だってやりたいことまだまだ一杯あるもの」

「死ぬくらいならね」

 俺ってそこまで女性に生理的に受け付けられないのか。

 分かっちゃいたけど何かが砕けたような気がする。

「でもそれは茜さんが俺の能力を信じてくれたからでしょ。普通の女性は俺の能力なんて信じてくれないよ」

「それなら私と同じように・・・」

「そもそも俺自身俺の能力をまだ信じていない」

「それってどういう意味?」

「神にこの能力を送られたときに漠然とそうだと分かったけど。実践したことが無い。

 死の運命にある女性は分かるけど、抱いたら本当に助かるかなんて分からない」

「嘘を吐いたの?」

 茜さんの目が剣呑に細められる。冗談でもうんと答えたらその場で撲殺されるだろう。

「嘘じゃ無い。

 確かにそう思っているけど、確かめられたことが無いんだ」

「それはこれから証明すればいい。私も協力するし」

「そもそもだけどこの力を客観的に証明することが出来ない」

「えっなんで抱いて死ななければ証明できるじゃ無い」

 茜さんは分かってないようだ。

「俺が死ぬ運命の女性を見付けて、それを証明までは出来る。何もしなければその女性が死ぬんだから。

 ここまではOK?」

「うん」

「そういったことを大々的にやって2~3人予言して的中させれば、一躍時の人となって死ぬくらいなら抱かれたいと思う女の人が現れるかも知れない」

 もっとも俺が分かるのは俺が抱けば、なぜか死の運命から逃れられる人であって、抱いても助けられない人は分からない。

「そして、その女性を俺が抱こう。そして死ななかった。

 でももしかしたら俺が抱かなくてもその女性は死ななかったんじゃないかと疑う人は出てくるだろう。そして、俺はそのことを科学的に反論できない。だって第三者には絶対に分からないんだから」

「別に疑われるくらいいいじゃ無い。それで女性が助かるんだよ」

「そうかな?

 人はそんなに甘くないよ。

 助かった女性だって、最初こそ感謝しても時が経てば騙されたと思い出すかも知れないし、そういう風に唆す人だって出てくるだろう」

 だろうじゃない、絶対だ。世の中には人の足を引っ張ることを正義と信じて人生を捧げる人がいる。

「結果俺は訴えられて社会的に死ぬ。下手をすれば刑務所。最悪刺されるかも知れない。

 どっちにしろ碌な末路を迎えられない」

「それがどうしたの?」

 茜さんは心底不思議そうに首を傾げて聞いてきた。

 えっ茜さんってここまで丁寧に説明しても分からないような残念な子なの? そう言えば思い込みは強かったような。

「へっ? いやだからたかが女性を少し抱けた程度でそんな末路を迎えるんじゃ割に合わない。どうせ好かれて抱くわけじゃないんだから、ソープにでも行けばいいんだし」

「だから、それがどうかしたのか?」

 茜さんは自然に言う。

「命よ。人一人の命は地球より重いのよ。その命がそれが助かるなら、その程度のことなんか大したことじゃ無いでしょ」

「冗談じゃ無い。

 いや確かに、助かる女性が恋人とか家族とかならそう思えるかも知れないけど、見ず知らずの女性のためになんで俺が人生を投げなければならないんだよ」

「その為にその力を神から与えられたんでしょ。喜んで捧げましょう」

 うっ、茜さんは本当に俺の人生が台無しになることなんか何でも無いことの言うし、本当にそう思っている。

「そもそも話しが戻るけど女性が承諾しないでしょ」

 なんとか俺は損得でない反論を言えた。

 そうだ。そもそも女性が承諾しないから無理なんだ。

「尊厳より命よ。強姦をしてでも助けましょう」

 茜さんは当然と言い切った。

 その顔を見て確信した。

 くっ狂っている

 大好きなお姉さんを亡くし目の前で女性が死んだことで狂ってしまったんだ。

 女性を助ける使命を授かったと縋らなければならないほど追い込まれ狂ったんだ。

 なんとかしないと俺の人生は終わる。



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