第7話 疑似デート
キャッキャウフフする女子空間。
ここは有名なパンケーキの店。インスタやらなんやらに感化されておしゃれに身を包んだ女の子達が集まって、パンケーキの写真を撮ったり、やっばーいと言ったりしている。
そんな空間に空気に俺は針の筵である。
一人で来たら絶対に入り口で警察に通報されている、今日は茜さんがいるからなんとか存在を許されている。
それでも辛い。
先程からチラッチラッ冷たい侮蔑の視線が向けられてくるのを感じる。
俺がイケメンだったら茜さんと一緒にいることになんの違和感もないが、俺だ。
視線の意味は援交?パパ活? 通報しようかというものだ。
胃が痛い。
胃の痛みを堪えて俺はパンケーキを食べる。
ふわふわで甘いパンケーキがこれほど胃に染みるとは思わなかった。
なんで俺がこんなアウェイにいるかと言えば、もうすぐ死ぬけど俺に抱かれることで助かる女性を探すためだ。
そんな女性はなかなかいない、いないがゼロではない。この能力を授かってから西条 綾音さんの他にも二人くらい出会っている。
彼女達は今も生きているのだろうか?
兎に角見つけるためには女性が多く集まる場所に行くしか無いということで、結果的に女性が集まるスポット巡りを茜さんとすることになる。
「どういた?」
茜さんは怒ったような口調で俺に尋ねてくる。
「いない」
「そう。そろそろここも出ないといけないわね。次のスポットに行きましょうか」
「そうだね」
二人で席を立ち、茜さんはさっさと店をせて俺は会計を済ませる。
「次は?」
店の外で待っていた茜さんに俺は尋ねる。今回のコースは全て茜さんが計画していて俺は付いていくだけ。
「次は水族館。イルカショーとかあって女性に人気なんだって」
次は水族館か。今回の費用は当然のように俺が全部支払っている。早く見つけないと俺の今月の生活は苦しいものになる。
でも死ぬ運命の女性に出会うよりはマシか。俺がイケメンなら助けられる死ぬ運命の女性に会うのは、なんとも精神的に来る。
絶対に助けれないなら割り切れるのに、助けられる可能性がるのが余計に負担を加速する。
そもそも俺が抱くと助かるって何だよ。意味分かんない。例えば綾音さんも俺が抱いていたらこんな男に抱かれる女に価値なんかないとストーカーに見放されて助かったというのか?
「何しているの、さっさと行くわよ」
「はい」
俺は茜さんの後を子犬のようについていくのであった。
今日の最後のコース、夕日の見える丘にいた。
お財布は散々だったが、こんな俺が擬似デートを楽しめたと思えばいい思い出だ。そう思わなきゃやってられない。
「綺麗ね」
夕日を見る茜さんの目は厳しかった。デート気分なんて欠片も感じられない。
「そうだね」
「おねーちゃんはこんなきれいな夕日をもう見れないのね」
「・・・」
「私は絶対に犯人を許さない。その為だったらなんだってするわ」
この子がこんなことをしているのも万が一にも犯人を間違えないためなんだろうな。冤罪逮捕でも犯人を捕まえて手柄にしようとする警察とは覚悟が違う。
彼女は復讐者なのだ。
夕日に真っ赤に染まる彼女の顔は血塗れの顔に見えた。
怖くなって彼女から視線を外した先だった。
「うぐっ」
運命を感じた。
外した視線の先に見えたショートヘアにして友達と楽しそうに談笑している彼女は死ぬ。
理屈じゃない、そう直感した。
正直俺が抱くことができれば助けられるのに、俺がイケメンでないばかりに助けられない。
申し訳無さと情けなさ、そして悲しみに俺は包まれる。
「その顔っ」
茜さんが俺の異変に気づいて顔を鷲掴みにしてくる。
「いたのね。どこにいるの? 誰?」
「あそこにいるショートカットで友達と話している娘」
「分かったわ」
茜さんは俺の顔を放り出すとショートカットの娘の後を尾行しだすのであった。