第3話 そして事態は動き出す
「なるほど」
俺の前に座る女医宮里 恵利。白衣が似合うグラマー美人、その上頭も良いという非の打ち所がない女性だ。
彼女は俺の話を聞い内心大笑いしているだろうが表情には一切出すことなく神妙に頷いた。できる女は違うと感じせずにはいられない。
「なにか最近辛いことありました?」
彼女は迷うことなく俺の妄言と断定したようだ。天啓の可能性などこれっぽちも信じていないのがよく分かる。
「どうなんでしょう。第三者が客観的に見れば、仕事も辛く、女性にもモテない。こんな負け犬の底辺の生活でもずっと続けているとこれが普通になって辛いとも感じなくなっているのですが」
負け惜しみではない。
人間とは慣れる動物で諦めが肝心と釈迦様も言っている。
俺のような人間が普通の生活を望めば、それこそ寝る間を惜しんだ人の数十倍の努力が必要だろう。特に彼女を作ろうと思えば人の数百倍の努力が必要だ。普通の生活を諦めきれず夢見て努力をしていたら、それこそ俺は壊れていただろう。
最初の内こそ悔しくてしょうが無かったか、徐々に川に流れ削られる石のように丸くなっていた。
「なるほど。そうやって心を守ろうと表面上は平静を装っても無意識下の深層心理では諦めきれずにいるというのは良くあることです。
つまりあなたの深層心理は女性を無理矢理にでも犯す為の言い分けを用意したわけです。良く踏み止まりましたね」
あっという間に俺の心の中を分析してしまう宮里先生。
そうか俺はそんなにも女を抱きたかったのか、ならしょうが無い貯金を叩いて久しぶりにソープランドにでも行くか。ちょっと痛い出費だが犯罪を犯すよりはいい。
「まずは軽めの精神安定剤を処方しましょう。それで妄想が収まらないようでしたら徐々に薬を強くしましょう」
「分かりました」
神妙に頷きはしたが、そんなことに金を出すよりソープランドと思っていた。
「ふう~」
誰が待っているわけでもないボアパートだがそれでも我が家。帰ってくればほっとする。
まずはビールを冷蔵庫に入れてシャワーを浴びてくる。シャワーを浴びさっぱりしたところでTVを付けビールを開ける。そして卓袱台の上にコンビニで買ってきた風俗雑誌を広げる。
折角行くんなら好みを抱きたいからな。
なんて最新の店の情報を見ているとTVからニュースが流れてきた。
『OLの西条 綾音さんが路上で何者かに背中を刺され倒れているのが見つかりました・・・』
缶ビールは手から滑り落ち絨毯を濡らしていく。でも動きになれない。
ニュースに流れた被害者の写真、それはあの日電車で見た彼女であった。
「嘘だろ?」