第2話 天命
最初こそ天啓を受けたと感動し自分は特別な人間に成れたと優越感に浸っていられたが、いつものように毎日毎日電車に揺られて出社しているうちに感動も薄れていった。仕舞にはあれは夢だった、冴えない自分が見た妄想だと思うようになっていき、思い出すこともなくなっていた。
「ふう」
朝の電車にいつものように吊り革に掴まって俯く。これで幾らか体力の浪費を抑えることができる。
だが今日の運転手が下手だったのか、たまたまだったのか、カーブで電車がガクンと揺れ、揺れにつられて頭が上がった。
そして見てしまった。
黒髪のロングストレートでスレンダーとグラマーの間くらいの女性が離れたところでスマフォを見ていた。
如何にも清楚系で俺の好みでいつもの如く無駄な一目惚れしてしまう。
いつもなら美人だ~、でもご縁がありませんでした、あなたの幸せをお祈りしますで終わるのだが、今日は違った。
運命を感じた。
別に前世の恋人だったとかの運命じゃない。
彼女は死ぬ。
理屈じゃない、そう直感した。
あれは夢じゃなかった、本当だったんだ。
つまり彼女を俺は抱かないと彼女は死んでしまう。
早速白馬の王子となって彼女を死の運命から救わねば。
・・・
ってできるわけ無いだろ。名前も知らない始めてあった女性を誘って即日ベッドインできるくらいなら年齢イコール彼女いない歴になってない。
だが今こそ勇気を出して声をかけるべきなのでは?
勇気を出せ。
勇気だ出すんだ。
彼女を救うためだ勇気を絞り出せ。
俺が勇気を振り絞ろうとしていると彼女がふと視線を上げ俺と目が合った、合った瞬間顔を背かれた。
これで俺のなけなしの勇気は霧散した。
なんで神はこんなスキルを俺に与えたんだ?
与えるならイケメンに与えろよ、さもなきゃ俺をイケメンにしろよ。俺じゃこんなスキルを持っていても宝の根腐れだ。
もう俺が彼女を死の運命から救うには、レイプするしかない。
彼女の後を付けて会社と家を突き止め行動パターンを調べる。そして綿密な計画を立てる。
これは犯罪ではない。
彼女を死から救うため、神が俺にレイプをしろと命じたんだ。
謂わば天命。
「はあ~」
溜息と共に妄想を吐き出し馬鹿らしくなった。
俺仕事疲れているのかな?
それとも彼女が出来なすぎて狂ってしまったのか?
俺はスマフォを取り出すと近くの精神病院を探すのであった。