第11話 囮
そこには西条 綾音っぽい女性がいた。
ショートの上から黒髪のロングストレートのウィッグを付ける。
化粧は残っていた物と写真から独自に頑張って貰って同じメイクをしている。
躰付きはまあ。大きいのを小さくするのは大変だが小さいのを大きくするのは比較的簡単にできる。本人曰く数年後には自然に追い付くそうで、敢えてプライドを傷付けるようなことは言わないでおく。
「うん、これなら遠くから見れば西条 綾音に見える」
近くで見るとやはり顔立ちは少し幼い感じがするが、却って好みかも知れない。
「お姉ちゃん」
姉に変装した茜は姿見に映る自分を見て一瞬悲しそうな顔を見せたが、直ぐに綾音さんが憑依したかのような怒りに染まった顔に変わった。
「これで暫くお姉ちゃんと同じようにお姉ちゃんのマンションから会社に通えばいいのね」
「ああそうだ。ストーカーがどこで綾音さんに接触したか分からないが、普通の友好関係なら警察が洗っているだろう。だから俺達は綾音さんが通勤時にストーカーに目を付けられたと睨んで行動する」
簡単な話だ。茜さんに綾音さんに変装して貰って綾音さんと同じように通勤電車に乗って貰う。
もしストーカーが事件後も何食わぬ顔で同じ生活サイクルを送っていたら、警察に目を付けられないためにしている可能性は高い、どこかで必ず綾音さんと接触する。そして綾音さんと同じ女性を見たら絶対にアプローチしてくる。警察が動いていようが我慢出来るはずがない。なぜなら我慢出来る理性があるならストーカーなんかやっていない。
「お姉さんのマンションの契約は後三ヶ月残っています。ですので期限は三ヶ月とします」
「分かった」
「最後の確認ですが、これは危険な囮ですよ。最悪お姉さんと同じ結果になる」
「危険は承知よ。そして同じ結果にはならない。最悪でも差し違える」
茜さんの目はぞっとするほど殺意に染まっていた。こりゃ裁判で言い逃れは出来ないだろう。
最悪俺も共犯?
人でなしだが、茜さんが言った差し違えて貰えば俺に被害が及ばないかも知れない。
現状茜さんを見ても俺のギフトは発動していない。だがそれは茜さんが死ぬ運命ないと言う意味ではない。俺が抱いたところで運命が変わらないだけかも知れない。
今回の作戦の肝は囮捜査が空振りに終わり、稼いだ時間で茜さんの怒りが風化すること。綾音さんには悪いがそれが一番のベスト。
復讐は何も生み出さない。
犯人捜しは警察に任せればいいんだよ。
「では囮作戦開始します」