第10話 逃げられない
「でもお姉さんの仇は討たなくていいの?」
渾身の一言を放ち、茜さんの心にクリティカルヒットしたようで茜さんは狂気の顔が揺らいだ。
追撃するにはここしかない。
「そもそもお姉さんを殺した犯人に自分の手で復讐したくて始めたことでしょ。そんな他人のことなんかに構っている暇なんてあるの?
俺が犯人じゃないことは分かったんだし、さっさと探しに行かなきゃ」
正直言うと俺は酷いことをしている。警察でさえ見付けられない犯人を苛烈なだけのただの女子高生が見付けられるわけがない。100%徒労時間の無駄、受験勉強でもした方がよっぽど有意義だ。よしんば奇蹟で見付けられたとして、茜さん自ら手を汚すことになりまだ若い茜さんの人生が終わる。
俺は自分が助かりたい一心で茜さんを地獄に落とそうとしている。女性を救うどころか俺は女性を不幸にすることに加担している。
それでも俺は自分が可愛い。人生終わらせたくない。
それにだ苛烈に燃えさかる火は案外早く消え去るもの。茜さんも犯人を見付けられないうちに頭が冷えるかも知れない。
もしかしたら2人とも不幸から救う絶妙な一手?
「姉さんの敵討ち。でも誰かを救うことは神様から授かった大事な使命」
別に茜さんは神様からギフトを授かってないでしょ。授かったのは俺。
「別にそんな急がなくても俺の能力は消えたりしないよ。でも犯人は時間が経つほど逃げられる可能性が高くなるし、犯罪者の特徴として次のターゲットを探しているかも知れない」
「姉さんみたいに誰かがまた犠牲になるというの?」
茜さんは目を丸くして驚いている。
「快楽殺人者は間違いなく次の犯罪を犯す。今優先すべきは犯人を見付けることだよ」
「そんなの許せない。姉さんだけじゃ飽き足らず他の人まで犠牲にするなんて」
そう言って茜さんが握り締める拳からは血が滴りだしていた。本当にこの娘は苛烈だ。
「許せないよ。だから・・・」
「どうすればいい?」
さっさと次に探しに行くんだと言う俺の台詞を塗り潰して、茜さんの目は真っ直ぐ俺の目を見て問い掛けてきた。
思い返せばこんな風に俺を見てくれる女性なんて初めてかも、っじゃない。ここで未練をきっぱり断ち切らないと、幾らモテない俺でも、モテない俺だからこそこんな苛烈な子は手に余る。
「だから・・・」
「どうしたら犯人を見付けられるかな。作戦を考えよう」
茜さんは完全に俺を仲間だと思っている。
俺はこの綱渡りからもはや逃げられないようだ。