運命の交差点
十二月終わりの大晦日。
俺は一人電車に揺られながら実家に向かっていた。
両親の顔を見るのは六年ぶりのことだ。
大晦日ともあり親子連れの家族で車内は一杯だった。
大きな荷物を持っていたりと俺と同じく帰省する家族なのだろう。
志望していた大学に落第した俺は、高校卒業後に就職をするために地元から三時間ほど離れた都会にあるアパートに引っ越しをした。
父は普通の会社員ということもあり、そこまで裕福な家庭ではなかったので留年はせずに大学は諦めた。
そんな両親とは電話越しで何度もやり取りはしていたのだが、さすがにそろそろ顔を見せろと言われこうして帰省することにしたのである。
「この風景も懐かしいなぁ」
電車の窓を横切る風景を見ながらそう呟く。
地元を離れてから六年も経つのだからそう感じるのも無理はない。
地元の駅に着くと大きなリュックを背負い下車する。
暖房の効いた車内とは違い外はかなり寒い。
「さぶっ」
身を丸めながら駅を出て実家へ向かう。
駅の周りはすっかり変わり賑やかになっていた。
だが、少し駅から離れていくと俺の知っている風景へと戻っていった。
そして一つの交差点で立ち止まる。
この交差点にはある思いがあったからだ。
それは南条茜と初めて出会った場所だった。
中学の入学式の時にうちとは反対側の通路からやってくるのを見かけたのだ。
そしてその時に一目ぼれをした。
初恋だった。
だが告白する勇気がなく、気持ちを伝えられないまま卒業となってしまった。
高校も別となってしまったので中学を卒業してからは一度も会ってはいない。
今では地元にいるのかも分からない。
だからもう会うことはないのだろう。
あれから十年近くなるというのに気持ちを伝えておけば良かったと後悔する。
いつも彼女が通学していた反対側の通路を見る。
しかし、通路には人影一つない。
「やっぱ、奇跡なんて起きないよな」
そう呟いて実家へ向かおうとしたとき――。
「あれ、もしかして佐々木君?」
聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。
声がした方を振り向くとそこには黒髪の女性が一人立っていた。
南条茜だった。
約十年ぶりに初恋をした交差点で初恋の相手と再会をしたのだった。