異世界と言語
「qws¥:v-/m,jh・g?」
店員は再び俺に話しかけるが、俺は何を言ってるのか理解できない。
向こうも同じようで、困った顔でこちらを見ている。
試しに隣の店員にも話しかけてみるが、こっちも何を言っているのか全くわからない。
いや、そりゃそうだ。ここは西洋風の街だし、店員も西洋人のようだ。ならば日本語が通じないのも頷ける。
そう思い、たどたどしい英語で話しかけるが、店員はそれでも俺の言語を理解してないようだ。
その後、フランス語やスペイン語、中国語などのギリギリ知っている挨拶をしてみたがどれも通じなかった。
まだ、店員が俺が知らない言語を使う人物だった可能性がある。俺は店員にジェスチャーで感謝の意を示して、今度は道ゆく人に話しかけてみることにした。
しかしと言うべきか、やはりと言うべきか、道ゆく人に俺の知りうる全ての言語は通じなかった。俺の言葉を聞いて、困惑した顔を浮かべるか、はたまたからかわれていると感じ怒りを露わにするか、しまいには俺の話を無視して通り過ぎて行った。
一抹の希望を残しながら周囲の話に聞き耳を立てるが、聞こえてくるのはやはり未知の言語である。
ここは異世界なのかもしれない。
またこんな考えが浮かんでくる。いや、だから異世界は存在しないって決まっている。
...本当に?
そんな研究結果があるわけでもないし、現に俺は異世界のような場所にいるし...
それにトラックに轢かれてヨーロッパに転移することもありえない。
じゃあここは異世界なのか?
思考を巡らせながら、周囲を見渡し、違和感に気がつく。
道ゆく人が誰も、スマートフォンを持っていないのだ。
さらに、電光掲示板もなければ、車も見当たらない。
俺が最初にいた場所も見渡す限りの草原で、しっかり舗装された道路なんて見つからなかった。
じゃあ、仮にここが異世界だとしよう。
ならば、だったらなぜ!言葉が通じないのか!
普通こういうものは不思議なパワーとかでどうにかなるだろ!
そんな不平を訴える相手もいないのでただ一人、途方に暮れながら街をひたすら歩き続ける。
結局、ここがどんな世界かを知るどころかまともな会話もできず、日も落ちきってしまい、夜になってしまった。
さっきから考えすぎで頭痛がするし、ここに来てから何も口にせずにひたすら歩き続けたのでクラクラする。
最初の草原に戻る気も起きず、ひとまず町外れの路地裏で休むことにした。
日没が六時だとすると今はおそらく七時ごろだろうか。街中を歩く人はもうほとんどいない。
まぶたが次第に重たくなってくる。
四月とはいえ外で、さらに見知らぬ街の路地裏で寝るのは危険だ。どうにか起きておかないと。
およそ三十分に一回鳴る鐘の音で自分が寝落ちしかけていることに気づく。
眠ってしまわないように、ひたすら考え事をして時間をつぶす。
これからどうするか。話が通じそうな人を探す?ギルドを探す?城に乗り込む?
言葉が通じない。そこからどうすればいいのか?
不安に押しつぶされそうだ。それでも眠ってしまわないように思考を続ける。
ここは本当に異世界なのか?そんな訳ない。異世界は無いんだから。なんでそう言い切れるのだろう?
眠気が限界に近づいてきた。この山を超えれば眠気は当分訪れないはずだ。
なぜここに来てしまったのか。トラックに轢かれたから?なぜトラックに轢かれたんだっけ......。
確か......俺は......。




