異世界とトラック
異世界、それは人々の憧れ。
古くから人は、異世界を旅する物語を書き、異世界に行く方法を探した。
異世界、それは現実世界とは異なる世界。
魔法に貴族にモンスター。
そして、世界を恐怖に陥れる魔王がいる。
救世主に選ばれた勇者は仲間と異世界を冒険し、ついには魔王と対峙する
ーー将来の夢は、勇者になりたい。
…頭が痛い。
これが脳震盪なのか、脳はグラグラし、呼吸は乱れている。
俺は、地面に仰向けで倒れている。
今日は高校の入学式、そしておそらく俺の命日だ。
入学式の帰路、春雨の降り注ぐ正午、トラックに轢かれた。
「ああ、死ぬんだな」
死にたくないという恐怖より、ついに死ぬのかという安心感が勝ってしまう。
今は雨が降っているはずだが、体は濡れている気がしない。
頭がひどく痛むが、トラックに轢かれた痛みはない。
死にかけて脳が興奮しているせいで、触覚がないのだろうか。
いや、だが背中を雑草かチクチクと刺す感覚はある。
…雑草?
トラックに轢かれたのは大通りだ。草むらなんて近くにはなかったはず…
…ゆっくり目を開いてみる。
目の前は青空が広がっている。
…おかしい。今は雨が降っているはずだ。
…それに、あたりはやけに静かだ。
体は無事に動くので立ち上がってみる。
立ち上がった俺の目の前には草原が広がっている。
遠くの方に中世ーーというかゲームや本の挿し絵で散々見てきたような城壁が見える。
これは夢なのか。それとも死後の世界か。
「…あー」
声を出してみると、情けない声が出る。
声も身長も特に変化した様子もない。
脈もしっかりとある。
だがトラックに轢かれた時の痛みはないし、目の前には草原が広がっている。
俺が倒れていたすぐ近くには通学用のカバンが落ちている。
慌ててスマホを取り出し電源を入れるが、電波は圏外だ。
もしかして俺は今、異世界に立っているのか。
ひとまず、草原に寝そべり、気分が落ち着くまで横になる。
いや、無理だ。落ち着くわけがない。
トラックに轢かれたら異世界に来ました?あり得ない。そんなベタな小説みたいなことが現実で起こるわけがない。
どうせ意識が朦朧としていて、夢を見ているに違いない。
そう思い、フィクションの世界でしか見たことはないが、自分の頬をつねってみる。
…痛い。
...だが、痛いから夢ではないとは言い切れないはずだ。
それかきっとあれだ。ドッキリってやつだ。一般人に急に引っ掛けるタイプの。トラックにぶつかったら異世界転生してましたドッキリ〜!みたいな...。
......。
いくら考えても異世界転生以外の選択肢が浮かんでこない。
だが、いくらなんでも異世界転生を認めるわけにはいかない。そんなことが現実に起きるなんてありえない。おかしすぎる。
だって、異世界なんて……
存在しないのだから。
いつの間にか空はすっかり夕焼け模様だ。
夕焼け小焼けでまた明日。と言いたいがこんな状態で何もせず明日を迎えることはできない。
今日中におうちに帰れないにしても、あったかいご飯かあったかい布団は欲しいところだ。
ずっとここに留まるわけにもいかないし、現状選べる行動はただ一つだ。
ここから見える街へ行こう。もしもここが本当に“異世界”ならば酒場やらギルドやら、なんかそういうやつがあるはずだ。それに、異世界でないならば一晩過ごすとすれば人気のない草原より人の多い街中の方が安心できるだろう。
俺は城壁の方へ歩き出した。
異世界での街といえば、にぎやかな露店、中世の街並み、遠くに見える教会、胸のあたりに紐がクロスしたシャツを着た人々、ーー大体がこんな西洋風のものだ。
そして、その典型的な、と言うのは街に失礼かもしれないが、”異世界“感あふれる景色が目の前に広がっている。
やっぱりここは異世界なのか。いや、まだ分からないと、心臓を激しく動かしつつ、しばらくあたりを見回す。
カーン カーン
遠くから聞こえる鐘の音にハッとした。気がつけばあたりはいつのまにか暗くなり始めている。
この街に来てから何も行動していないので、今後の生活から今夜の宿までまったく何もかも決まっていない。
腹も空いたし宿も確保したい。ここが“異世界”で、ギルド機能や宿屋機能のついた酒場があるなら、そこで休んだり食事したりできるだろうか。一応財布は持っているが、はたしてここで日本円は使えるのか。
酒場の場所を尋ねるべく、俺はすぐ近くで片付けをしている露店の店員に話しかける。
「あの。すみません。ちょっと聞きたいことがあるんですが。」
店員はこちらをジッとみるが返事をしない。
「ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど…」
もう一度店員に話しかけると
「u~y€‘h^j╹)?」
「…え?」
店員は聞いたこともない謎の言葉で答えた。
※トラックに轢かれることで異世界転生する科学的根拠はありません。あしからず。
もしも、どーーーーしてもトラックに轢かれて異世界転生がしたいなら(やめて)自己責任で。




