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蒼空から、ここから。

 



 ◇第3魔導学園高等学校・正門前


 ■蒼井 智哉


 am11:00





 ホームルームが終わり下校の時間になった俺達は、妹の恵との約束通り正門前へと向かう。

 目的地に見知った人物達の姿を確認することが出来た。恵と祐樹、それと父さんと母さんだ。

 こちらに気づいたのか、恵が右腕を高く上げ大きく手を振っている。しかたないので手を振り返してやる。



「お兄ちゃーん!こっちこっち!早くー!」


『今行くー』


「ふふ、恵ちゃん本当に元気だねー」


『元気なのが取り柄だからなあいつ』



 時間ぴったりに着いたはずなのに俺達が1番最後に合流する形となってしまった。解せぬ。



「恵ちゃんー」



 隣で歩いている亜希も右腕を高く上げ、恵と同じように大きく手を振った。



「あー!亜希姉ぇも来てくれたんだ!嬉しいなぁ!」


「うん、智くんに是非って誘われたから来ちゃった。私も一緒に撮っていい?」


「もちろん!ウェルカムだよー!」


「良かった。ありがとう」



 やはり連れてきて正解だったようだ。すごく喜んでくれている。よかったよかった。

 そう思っていると、祐樹が含みのある笑みを浮かべながら近づいてきた。



「兄さんも隅に置けないね。どんな手使ったの?」


『どんな手って、どういう事だよ』


「だって、いつも退屈そうにしてる兄さんが女の子(亜希姉)を連れてくるなんて……」


『よし、後で覚えとけよ我が弟よ。今流行りのスマ〇"ラでコテンパンにしてやる』


「ははっ、覚えとくよ。でも兄さん、僕に勝てたことあったっけ〜?」


『…………うるせぇ』



 分かりやすく挑発してくる祐樹。

 なんなの、どうしたのこいつ。

 なんやかんや女子同士、男子同士での会話がひと段落ついた所で、当初の目的である記念写真の撮影が始まった。撮影は父の昌伸が担当する事になった。



「ほら、並べー。恵は勿論真ん中な」



 父の指示のもと並んでいく。



「じゃあ撮るぞー。さん、にー、いち」



 カシャッというシャッター音が警戒に鳴り響く。父がこの為にと結構お高いカメラを買ったらしい。すごい張り切りようだ。



「やー、ちゃんと現像して部屋に飾らなきゃ!」



 撮り終えた後にそう言う妹の恵。相当嬉しかったんだな。その後、同じように記念撮影をしている人に頼んで全員写って写真を撮ることも出来た。



「恵ちゃん、すごく嬉しそう」


『あぁ、良かった。亜希も来てくれてありがとうな』


「ううん、お礼を言うのはこっちだよ。誘ってくれて嬉しかった。ありがとう智くん」



 亜希も恵同様とても嬉しそうだった。



 写真も撮り終え、皆で帰路につく。

 恵は入学式後の教室であったことを俺達に話してくれた。なんと、俺の予想通りもう友達が出来ていたのだ。こやつ侮れん。



 祐樹は途中「欲しい本がある」と言い残し、皆と別れて一人で書店へと向かっていった。



「あ、そうだ。今晩の夕食のお買い物をしなきゃ」



 母さんが思い出したように言う。



「そうだな、まだ何も買っていなかったな」


「ええ、それに今日は恵の入学祝いと、智哉と祐樹の進級祝いだから張り切ってお料理しなきゃ」


「やった!私唐揚げがいい!!」


「分かったわ。今晩は唐揚げパーティにしましょう」



 めぐみの提案で、今日の晩御飯は唐揚げとなったようだ。いいよね唐揚げ。俺も好きだ。



「そうだ、亜希姉ぇもおいでよ!」


「え、いいの?」


「全然いいよー!ね、いいよねママ?」


「勿論よ。亜希ちゃんさえ良ければ今晩はうちに食べにおいで」



 二人揃って亜希をお誘いする。

 そして何故か亜希がこちらを向いて来た。



「と、智くんはどう?お邪魔してもいいかな?」


『ん?俺か?断る理由なんてないだろ?全然いいよ。家なんてすぐ隣なんだし。逆に亜希が嫌なら仕方ないけど』


「嫌じゃないよ!寧ろ嬉しいよ!」



 断る理由なんて無いに決まってる。何度も言うが、亜希とは幼い頃からの付き合いなのだ。

 家族同然の関係と言っても過言ではない。

 今更否定するのもおかしな話だ。



『なら、決まりだな』


「……うん!」


「では、おば様、恵ちゃん、今日はご馳走になりますね」


「やったー!」


「遠慮しなくていいからね」



 こうして、亜希も一緒に食卓を囲むことになった。パーティってくらいだから大勢でやる方が楽しいもんな。

 よって、母と父。二人の手伝いということで恵の三人がスーパーへと買い出しに向かうため別れることになった。

 結果、残ったのは俺と亜希の二人だけになってしまった。

 目的地は一緒なので変わらず歩いていく。




 am11:20




「楽しみだなぁ、智くんたちとご飯」


『だな。俺も楽しみだ』


 何気に2人で帰るのは久しぶりな気がする。



『ほんと変わらないな……』



 俺は思い詰めたように、亜希には聞こえない程度の声で小さく呟いた。

 変わらない日々が続いていく、その方がいいのかもしれない。何事もなく平穏に日々が過ぎていくことがいいのだろう。しかし、なんの面白みもないじゃないかと思う自分もいた。


 そう思うようになったのは最近の事だ。そこからよく空を見上げるようになった。何処までも広がるあの蒼い空を…


 そしてまた空を見上げる。もう特別なことではない。

 でも──そこで見た光景は普段とは違う、表現し難い常識を逸脱したものだった。



『え……?』


「智くんどうしたの?」


『あ、いや…』



 思わず足を止めてしまう。

 足を止めた俺を見た亜希も足を止める。

 最初は見間違いだと思った。だが、空に浮かぶ()は徐々に大きさを増していく。

 違う、あれは()()()()()のだ。(ただよ)うようにゆっくりと。

 やがて、その落下物の輪郭が露わになっていく。


 俺はそれがなんであるかに気づき、息を呑む。




 ──落ちているのは、人だった。




 その人物の正確な高度を目測で測るのは至難の業だ。

 しかも、少しづつではあるが落下速度が上がっているように感じた。

 それでも1つ、確実に分かっていることがある。

 このまま放ってしまえば、いずれ地面に叩きつけられ死んでしまうことだ。


 何故落ちているのか?そんな疑問は後だ。先ずはあの子をなんとかしなければいけない。



『はぁ……ッ!!』


「智くん!?」



 気づけば駆けていた。

 亜希に呼び止められたがそれどころではなかった。


 警察に連絡することも考えた。だが、間に合うわけがない。

 そんな暇があるなら自分が助けるしかない。そう考えたのだ。

 走る間にも点は近づいてくる。



『くそっ、さっきよりも早い……!』



 勘違いなどではなかった。確実に落下速度が上がっている。そこで、一つの可能性を考えた。



『……()()か』



 ──その可能性とは、〝魔法〟だった。



 何者かに魔法をかけられたことで宙をゆっくりと落ちているのだ。

 でも、なんで魔法をかける必要があったのか…


 それも後だ。今は間に合わせることに集中だ。



 そして、俺は……一つの魔法を発動する。






『──加速(アクセル)……10倍(ディーカ)





 刹那──己の速度を10倍化した速度で風を切っていく。




 《加速(アクセル)


 指定した数値分、自分の速度を上昇させる効果がある。

 初歩的な魔法だが、高速戦闘の際には多用されることが多い魔法である。

 基本的に倍加する数値に限界はないが、あくまでも底上げするのは()()()()で、身体までは強化されない。


 要するに、自身に合った数値で使用しないと、急激な不可に耐えることが出来ずに身体を壊してしまうリスクがあるのだ。


 それを智哉はなんと10倍で使用している。


 この値は、仮に100mを10秒で走る人がこの能力を使うとおよそ1.0秒で走り抜けることが出来るという数値である。


 速度換算で秒速100m、時速360kmとなる。

 誰にでも使える魔法だが、設定値次第では破格の魔法と化してしまう。



 現在の智哉の100mの記録は11.43秒。


 秒速にして87m/秒、時速だと約313km/時となる。


 分かりやすく言うと、今の智哉は()()()と同等の速度で走っていることになる。



『うっ……流石に10倍はきついな』



 太ももが悲鳴を上げ出す。だが、日頃道場で鍛えているおかげで耐えられないほどではなかった。


 そのまま10倍速を維持する。


 次第に落下物の全体がハッキリと見える距離になり再度息を呑む。




 ──落下しているのは、少女だった。




 肩甲骨辺りまで伸びる(きら)めく白銀の髪の毛が印象的だった。

 落下している最中なので顔なんて見えないが、その美しく輝く銀髪に一瞬心を奪われてしまった。瞬きする程の刹那の時間。



 ──それが仇となった。



 かけられていた魔法が完全に解けたのか、少女は重力に引かれる形で急速に落下を始めたのだ。


 少女が地面へと迫る。その高度は僅か数十メートル。




『くそっ、間に合わない……!』



 そう諦めかけた時──



(いいの?)


(そんな簡単に折れていいの?)


(助けるって決めたんでしょ?)



『……分かってる』



(なら、諦めるべきじゃないよね)


(行かなきゃ。──今を変えるために)




 心の深く深く、体全身が黒塗られたシルエットのようなものがいた。



 そいつは言う。「諦めるべきではない」と。


 そうだ、俺は助けるって決めた。自分で決めた。



 ──なら、最後までやり切ってやる。



 その僅かな思考を終えると同時──俺は地を蹴り、落下する少女に向かって飛び出していた。





『届……けぇぇぇぇぇえええええええ!!!!』





 少女が地に落ちる寸前、空中で少女の身体を受け止める。10倍速で駆けていた為、受け止めた際にとてつもない衝撃が襲いかかり一瞬だが呼吸が詰まる。


 それでも腕を離すことなく少女を抱えたまま、市街地の通りを転がっていく。

 視界が縦横に回転し続けそのまま数メートルにわたって転がり続ける。



『かはっ……!』



 仰向けの状態で(ようや)く停止し、溜まっていた肺の空気が一気に吐き出される。



『う……うぅ……痛ってぇ…色々痛てぇ…』



 10倍速で人に突っ込んで痛くないという方が無理な話である。転がって擦りむいたのか、両肘からは血が出ている。頬の辺りが酷く痛むことからそこも擦りむいているのだと理解した。


 なんにしろ生きているのが不思議なくらいだった。


 なんとか起き上がろうとしたが鈍い痛みが腰を襲った。



『いっ……てぇ…』



 そして数分後、落ち着いた頃に抱き抱えている女の子を確認する。

 服は廃れており、肌の所々に目立ちはしないものの多少の傷がある。すーすー言っているので眠っているようだ。あれだけの衝撃を受けたのにも関わらず眠っているあたり、これも魔法が絡んでると踏んだ。


「う……うーん…」


『良かった……特に大きな怪我は無いみたいだ……ふぅ…にしても、何で空から…』



 彼女が落ちてきた方向を見る。

 特に何かが飛んでいたり、浮いていたりするわけでもない。

 蒼い空をただただ真っ白な雲が流れていくだけだった。



 ──意識が朦朧とする。そして、そのまま意識は闇へと溶けていった。


 …………。





 こうして、新しい日常に焦がれていた一人の少年が、空から落ちてきた一人の少女と、運命の出逢いを果たす。

 この出逢いによって、少年の望む形で日常が変わるのか、はたまた悲劇の出逢いとなるのか……



 二人の少年少女が紡ぐ魔法の物語が今、始まる…




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