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出会いと別れ

 



 ◇輸送機後部付近


 am??:??


 ▪️カレン




『はぁ…はぁ…っ』



 ──私は走っていた。



 裸足で駆けているため、床と足が触れる度にひんやりとした感触が伝わってくる。


 久しぶりの再会で積もる話が沢山あったものの、何から話せばいいのか分からなかったので、軽く疑問に思っていたことを尋ねる事にした。



『そういえば、どうやってこんなパニックを起こしたの?』



 給湯室のボヤ騒ぎについてだった。それについてエマは笑いながら答えてくれた。



「なーんだそんな事?そんなの簡単よ。給湯室で炎の魔法を使ってボヤ騒ぎを起こしたのよ。掃除用のタオルが燃えただけなんだけど、それを私は火事だー!!って大袈裟に騒ぎ立てただけよ。ふふっ」



 エマはそう言った。めちゃくちゃドヤ顔で。



『えぇ……』


「凄いでしょ~うふふ」


『う、うん…あはは…』



 確かに凄い?けど…やりすぎなのでは?

 そう思ったが、私はまた口には出さず、胸にそっとしまい込んだ。うん、しまい込んだ…


 他にも色々話をした。現状の確認や、他愛もない話を色々と…


 走り続けること数分。輸送機後部にある大型の格納庫に到着した。

 私のいた部屋と同様に、大きな箱がそこかしこに積まれている。ほんと、一体何を運んでいるんだろう…



「あの中にはね、大量の武器と弾薬、それに対人戦闘用に作られた装備や防具やらが幾万(いくまん)と入っているの」



 私の心中を察したのか、険しい顔をしたエマがそう言った。



「……見せてあげる」



 そう言って、エマは重なっていない箱を無理矢理こじ開け、中をみせてくれた。

 事実そこにはエマの言った通り、大量の銃器が箱の隅々まで埋め尽くすように入れられていた。

 何故こんなに武器が必要なのか、その理由も話してくれた。



「ここの組織はね、国を相手に戦争を起こす気らしいわ」


『戦争!?一体なんのために…』


「さぁ?私も科学者の1人として組織の一端に加担させられていたけど、詳しい事はよく分かっていないわ……試しに、組織の中枢にアクセスしてみたけど、閲覧権限がありません~とかで見ることが出来なかったわ。本っ当にいやらしい!!」


『国を相手に戦争だなんて……じゃあ、なんで私は実験の道具にされていたの?施設を転々としていたから今回は更に次の段階へ移るんだって考えていたんだけど──』



【実験体、コードNo.0169が脱走。繰り返す、コードNo.0169が脱走】


【加えて何者かが格納庫に侵入した模様。搭乗員は直ちにこれを対処せよ】



 それ以上は知られてはいけないと言わんばかりに、会話を遮るように、格納庫に備え付けられていたスピーカーからけたたましく声が響いてくる。



「くそっ、思ったよりも早いわね……ごめんなさいカレン、もう時間が無いみたい…まだ話したいことは沢山あるのに…! いい?よく聞いて。あなたは決して1人じゃない!絶対にあなたを助けてくれる優しい人がいるわ!」


『え?急に何を言ってるのエマ…?』



 確かに、私にはエマがいるから1人じゃない。

 でも、その次の言葉が引っかかった。〝私を助けてくれる優しい人〟ってどういう事だろう……


 私が疑問に思っている間に、エマは壁に設置されていたスイッチを起動し、格納庫の大きな貨物扉を開けた。

 扉が大きな音を立てて開いていく。

 外と内を(へだ)てていた一枚の壁がなくなったことにより、冷たい風が勢いよく吹き込んでくる。

 それと同時に、閉じ込められていた部屋からは、微かにしか感じられなかった太陽の光が、格納庫の全面に燦々と差し込んでくる。


 目を覚ましてから結構な時間が経ったみたいだ。

 誤って落ちないように慎重に外を見る。




 ──そこには雲ひとつなく、どこまでも続く、蒼い蒼い空が広がっていた。




『……綺麗』



 空を見たなんていつぶりだろうか。ずっと施設の中で過ごしていたため、しばらく空なんて見ていなかった。空ってこんなにも綺麗だったんだと再認識した。


 そして、数千メートル下には高層ビル群が立ち並び、少し外れたところには住宅街や学校施設のようなものが立ち並んでいるのも見て取れた。

 そういえば…逃げる算段は付いているとエマは言っていたけど、その脱出方法を聞いていなかった。

 後ろに振り向きエマに問いかける。


『ねぇエマ!逃げるったってどうすれば!?脱出用の飛行機なんてどこにもな──「もちろん飛び降りるのよ?」』



『………ん?』



 ははは、まだちゃんと目覚めてないんだ私。飛び降りろって聞こえた気がするな。流石に冗談でしょ。

 もう一度私は問いかける。



『えっと……これからどう逃げるの?』


「だから、ここから〝飛び降りるの〟 fall in down?」



 いや、英語で言わなくても分かるし。ていうか、やっぱり飛び降りろって言ってたし!?

 嘘でしょ!?私に死ねって言うのこの人!!!



「何言ってるのカレン?私、飛行機があるとか()()も言ってなかったでしょ?」


『いやいや、そうだけど!?そうなんだけど!!?でもダメだよ、私死んじゃうよ!!』



 涙目で私は必死に訴えた。



「大丈夫よ!!私に任せなさい!!」


『いや、考え直してよ!!!!!!』



 私の必死の抵抗もむなしく、エマは自信満々に胸を張って 言いきった。本気で私を落とすつもりだこの人。もう本気で〝張れる胸無いじゃん〟って口に出して言ってやろうか……



「落ちる前に私が魔法をかけるから!一定時間付与された対象の重力効果を、ある程度まで軽減してくれる魔法をねっ☆ 100%軽減とまではいかないけど(ボソッ)

 効力はもって3時間。地上が見えているとはいっても、地上に着くまで効力が持つかどうかは保証出来ません!………てへっ☆」


『もう怒っていいよね!!!?ねぇ!!!?』


 いやもうほんと!助けて貰ったのは嬉しいけど、なんかこう、他に方法はなかったのかな!!

 舌を口角に挟んで片目を閉じながら言ったよこの人。



「でもでも!その魔法の効果でゆっくり落ちていくはずよ!大〜丈夫!落ちていればイヤでも人の目に入るし、誰かが助けてくれるって!!」


『大丈夫って言われても………やっぱり落ちるのは変わらないんだね…………はあ…』



 呆れて私はそう言う。

 すると、数多の足音と共に、十数人の武装した衛兵達が扉を突き破り押し寄せてくる。



「動くな!!貴様だな?火事だと偽り機内を混乱させた元凶は!挙句の果てに逃亡者の手助けをするとは、どうなるか覚悟は出来ているんだろうな?さぁ、コードNo.0169を引き渡せ!!」



 衛兵の一人が言い放つ。



「嫌よ。私は、私自身がこうするべきだと思ったからこうしただけ。だから私はカレンを……娘同然で、大切な一人の女の子を、助けることを選んだだけ。あなた達なんかに渡してたまるもんですか!!」


 エマは、私の視界を遮る形で前に立ち、衛兵に向かって言い放った。

 悩む間もなく、開口一番で私を引き渡すことを拒否したのだ。



『………エマ…私…』



 私は自然と大粒の涙が出てきた。

 私の事を娘って言ってくれた。それがどれほど嬉しかったか……



「この子は実験動物なんかじゃない。一人の女の子なの!この子の未来を、あんた達なんかが勝手に決める権利なんてない!」


「…くっ、余程死にたいみたいだな……総員かまえろ!!」



 一人の衛兵の掛け声により、多数の銃口がエマへと向く。

 しかし──エマは逃げなかった。


 寧ろ、受けて立とうと言わんばかりに──




「望み通り蜂の巣にしてやる……総員、撃てぇ!!」


『エマっ!!!!』


「………()()()()()()



 十数人の衛兵から放たれた大量の銃弾が一斉にエマに襲いかかる。

 格納庫内に無数の銃弾の雨が降る。


 耳を(つんざ)く爆音と硝煙と鉄の焼ける匂い。

 が……音はするのに、一向に銃弾が横切らない。

 衛兵もその異変に気づいたのか、かなり動揺しているようだ。



「なっ…そんなバカな、確かに命中したはずなのに何故…!」



 右腕を前方に突き出し、手の平を敵の方へ向ける形で()()()()()()()()




「──高位(こうい)防御術式(ぼうぎょじゅつしき)我を守護せし(パラディオン)神聖なる領域(サンクチュアリ)




 エマの目の前には、半透明な壁が右手の平を中心として張られており、何発もの銃弾が一つも反射することなく、エマの展開した魔法によって()()受け止められていた。




『……凄い』


「ふふっ、でしょ?」



 エマが右手を横に()ぐ動作で術式を解除すると同時に、ばらばらと音を立てて銃弾が床へと落ちる。



「次は──私の番かな」



 エマはそう言うと、自身の右腕を左から右へと大きく薙いだ

 すると、途端に床から炎の壁が生成される。

 炎の壁は私とエマを守るように衛兵達の前に立ちはだかった。



「くそっ……貴様、研究者でもありながら魔導師(マギア)だったのか!」


「はーい、ご名答~」



 ──魔導師(マギア)


 それは己の中に流れる魔力や、空気中に存在する魔素(マナ)を駆使し、〝魔法〟という超常現象を起こすことが出来る者達の総称だった。エマはその一人だという。



「言ったよね。大切なこの子は、絶対に渡さないって」



 エマは私の方に振り向き、両肩に手を置いた。



「さぁ、行ってカレン。まだ見た事のない沢山の世界があなたを待ってるわ!いっぱいいっぱい、その目に焼き付けてきなさい…!」


『うん、うん…!行こう、エマも一緒に!』


「……ダメよ、私は行けない」



 エマは左右に首を振る。



『なんで……なんで!!!』



 私はエマの両肩を掴み揺さぶる。

 それでも、エマは何も言わず笑うだけだった。

 でも、その目には涙が(にじ)んでいた。それに気づいた私は揺さぶるのを止めた。



「……その代わりと言っちゃなんだけどね、ほいっと」



 エマが右手で私の首につけられていたチョーカーに触れた瞬間、パキッと音を立ててチョーカーが壊れたのだ。


「そのチョーカー。実はね、万が一あなたが逃げてしまった時の為にって発信機の役割があったの。それと同時に、他者にあなたが利用されるようなことがあれば、機密保持の為の保険としてあなたの命を奪う役割もあったの。それを今、解除したわ。正真正銘…これからあなたは自由よ」


『私は……私は、エマのいない世界なんてヤだよ…』


「……あなたなら大丈夫よカレン。だって、ちゃんと1歩を踏み出せたじゃない!生きたいと願う気持ちがあればそれで十分よ!」


 大切な人との会話の時間も終わりを告げようとしている。これで最後かもしれないと思うと胸が苦しい。



 胸が痛いよ…



「こんな別れ方でごめんね……大好きよカレン」


『あぁ…あぁぁ……うぅ』


「またね、私の大切な子…」


『エ……マ………』



 エマが私の頬に触れた瞬間、何かを囁いたのが聞こえた。のちに私の意識は深く深く落ちていく。


 最後に微かに覚えていることは、突然の眠気に襲われたあと、空をゆっくりと落ちていく感覚。そして、ワンピースのポケットに何かを入れられた感触だけだった。

 意識が飛ぶ寸前のことだったので、何を入れられたのかを確認する余裕もなかった。


 私は、エマがあの後どうなったのか、知る由もなかった──



 to be continued

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