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蒼空の上で

 




 ──ある日、俺は、運命と出逢った。





 まだ肌寒さが残る4月下旬の夜。満天の星空の下、空を眺めつつ家の屋上で彼女と肩を並べて会話を交わす。



「ふふっ、本当に私ってあそこから落ちてきたんですよね?未だに信じられません」


『でも、それが事実だったりするんだよなぁ。受け止めるの凄い苦労したんだぞ?』




 ──あの日、俺達が出逢った日の話。




「はい、その節はありがとうございました〜」


『本当にありがたいと思ってる?』


「ええ勿論?ふふっ」


『どうだか…』



 他愛もない話をして2人で笑い合う。

 そして彼女が思い詰めた表情で問いかけてくる。



「ねぇ、智哉さん。私が困っていたら、助けてくれますか?私をまた…救ってくれますか?」



 この問いは彼女自身の運命を左右するものだと痛いほど分かった。もう気持ちの整理はできてる。答えはもう──決まっていた。




 俺は静かに口を開く。




「…………はい!」



 これは俺が手にした、新しい日々の話。



 そして────



 私が手に入れた、かけがえのない人達との話。





 ──────────




  ◇輸送機内部・小型貨物庫


 am??:??


 ▪️カレン





『(ここは──どこ?)』



 耳を(つんざ)く音の中、私の意識は覚醒しました。

 耳鳴りがひどい…今どこにいるのか検討がつきません。


 周囲を確認すると、左右には背丈程ある大きな箱が段々と積み重なっているのが分かります。


 丁寧に積み重なったそれは、倒れないように壁際に密集して置かれており、紐で(まと)めて固定されていました。



 ──ここは、倉庫か何かなのでしょうか。



 さらに見渡すと、天井にはスピーカーのようなものが備え付けられていました。


 加えて前方。そこには、外側から中を覗けるように小さな鉄格子が(ほどこ)されている頑丈な鉄製の扉。


 後方。特に何も無く(かす)かに光が差し込む小さな窓があるのみ。


 そして、自分の身を確認します。


 服装は黒のキャミソールの上に、両肩が空いた灰色の多少傷んで薄汚れているワンピース。胸元には《0169》という番号が書かれていました。


 次に足元。履くものがない素足の状態。


 最後に極めつけは首元だった。見覚えのない黒色のチョーカーが付けられていました。



『んっ……んん…何これ…っ』



 何度か外してみようとしたけど一向に外れる気配がありません。



『……もうっ!』



 私はチョーカーを外すことをやめて、まずは自分が今どこにいるのかを明確にするために窓の外を確認することにしました。


 しかしその時、上下左右様々な方向から突然起こった揺れが私を襲いました。



『……!!』



 咄嗟(とっさ)に身を伏せる。積み重なった箱がガタガタと大きな音を立てて揺れています。



『なんなのこれ…っ!!』



 ──数秒後揺れが治まる。



 すると、スピーカーから慌てふためく声が多数響いてきました。



【気流の乱れが激しい、総員緊急事態に備えよ!!】


【平衡維持がやっとです!少し高度を下げます!!】


【なにっ?給湯室から火事だと!?至急対処せよ!!】


【くそっ!目的地までもうすぐだっていうのに何をやっているんだ!!】



 気流?火事?色々と問題が発生しているみたいです。

 揺れで足がおぼつかない中、窓の外を見ます。

 視界の前にはどこまでも広がり(ただよ)()()()、下の方を覗き込みましたが何も見えません。



『嘘…もしかしてここ…空の上なの?』



 やっと私は理解しました。ここが空の上だと。

 おそらく、次の実験施設へと輸送されている最中なんだと。



『そっか…()()()()に移るのね…その為に私は運ばれてる最中なんだ…』



 膝をつき、曇った表情で呟きます。

 このまま抵抗も出来ずに実験の道具にされ続け、何も出来ずに終わるのだと。そう思いました。



『エマ…っ』



 ──エマ。


 そう、無意識に呟いていました。



 実験の道具として扱われていた私を唯一"人として"見てくれていた、ただ一人の人物の名前を。



「(貴方は自由に生きるべきよ!絶対そう!!髪も綺麗だし、スタイルだっていいじゃない!

 絶対に男の子が放っておかないわよ?私が保証する!)」



『ふふっ…』



 脳裏で彼女との会話の一部を思い出して私は笑みを浮かべます。


 自由に生きていい。生きるべきだと、彼女はそう言ってくれた。胸奥深くから熱いものがこみ上げてくる。こんな所でへこたれている場合じゃない…



 私は扉に駆け寄った。

 生きたいと、心の底から願ったから。

 足掻(あが)いてやると、何もしないまま終わるなんて嫌だと、そう…思ったから。



 扉をがむしゃらに叩く。誰が来るわけでもない、実験材料の私をみすみすと外に出してくれるわけがない、そんなの分かってる。


 でも、何かやらなきゃ始まらない。


 私は逃げようともしなかったから。

 実験されるのが当たり前だと思っていたから。いや違う、諦めてたんです。

 どうせ逃げられない、逃げても意味が無い。そう思ってたんです。



『でも、今は違う…!!私は生きたいの…私はここじゃない所へ行きたいの!!』



 何度扉を叩いたんでしょう…襲いかかる痛みで叩く手に力が入りません…



 それでも叩きました。何度も、何度も。何度も。

 でも、扉は開くことはありませんでした。



 ──やっぱり諦めた方が楽なのかもしれない


 ──諦めてしまえば痛い思いをせずに済む



 そんな負の感情が頭の中をよぎった。



『お願い…ここから出してよ…お願い、だから……うぅ…』


 やがて、扉を叩く体力も気力も無くなり、その場にへたりこんでしまう。

 遂には涙が零れてくる。やっぱりダメなんだと、そう諦めかけた時でした。


 扉が軽快な音を立てて突如開いたんです。

 何者かが外から扉を開けてくれたようです。


 視界いっぱいにその人物が入り込む。



『あ……あぁ……』



 扉を開けたその人は、頭の後ろで1つくくりにされた印象的な茶髪と、白いワイシャツに所々汚れていた白衣に身を包んでいる。


 スラリと伸びる脚に、丈の長さが(すね)までのズボンにヒールを履いている。そんな学者のような女性が1人──目の前に立っていました。


 頭の中でとある人物と目の前の人物がピタリと重なり合い、私はすぐにその人へと抱きつきました。





『エマっ…!!エマ!!エマっ…!!!あぁ……会いたかった……』





 赤子のようにわんわんと泣きながら彼女の名前を連呼する。

 扉を開けてくれた人物とは、私に唯一寄り添ってくれていた──エマ本人だったのです。



「あらあら、いつからそんな泣き虫になったの?」


『だって…だって私、凄く怖くて…』


「うん……知ってる。だから私が来たの。私があなたを助けに来た」


『助けるって言ってもこの状況じゃ……気流も乱れてるらしいし、それで高度を下げてるみたいだけど……それに、いつまた揺れが来るかわからないし……おまけに火事も起こってるって……』



 エマと再会したことによって多少は安心したのか、私は身に起こったことをつらつらと語ります。

 徐々にではありますが不安に押しつぶされそうになっていた心が落ち着いてきました。



「あのね、その火事ってね、私がやったの。ふふっ」


『……………えっ?』



 エマはにこやかに「わたしがやった」とそう胸を張って言いきった。張れる胸、無いけど……

 口には出さずに心の中に押し留めておこう……



「あなたを助けるために私がやったの!衛兵達がパニックになってる今が好機よ。脱出の手筈(てはず)は整えてあるわ。この先に大型の格納庫があるんだけど……そうね、説明は移動しながらにするわ。時間が惜しい、急ぎましょう」


『う、うん。分かった!!』



 エマに手を引かれ倉庫を出ます。


 助かるかもしれない、生きる事が出来るかもしれない、消えかかっていた小さな希望の灯火が再び灯った瞬間だった。



 to be continued

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