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~アリス帝国の逆襲~
勇者は歴史の奴隷である。国の流れを変えるため、庶民の意思を汲むために、新しい宗教を興すため、旧い戒律を破るため、彼らは時代に要請されて現れて、人々の意思によって追放される。そこに救いはなく、誉れもなく、ただ、歴史を変えたという事実だけが教科書に名を刻ませる。もし、彼らが違う時代に生まれたら、もし、彼らが違う国に生まれたら、勇者は奴隷に、英雄は病院に連れ去られていただろう。
しかし、幸運なことに――あるいは不運なことに――ここにも一人、時代と庶民に要請された哀れな生贄が誕生した。その名をアリス。のちに、大奴隷商人となる女傑、アリス・フォン・ベッテンバルクその人であった。
ーーああ、神様。今すぐ私をもとの世界に戻してください。あの暖かい、豊かなぬるま湯の世界へ。