表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

2021.5.8 九州大学文藝部 書き出し会

神隠し行き特急

作者: 皐月メイ

  怪奇現象まとめ


 今回は巷で噂の『神隠し行き特急』の情報をまとめてみました。




八月のある日、男が一人行方不明になった。男は都内在住で三十代半ばの会社員。二歳年下の妻とは結婚したばかりであり、社内では昇進の話も登っていた。平凡な、されど順風満帆と言って差し支えのない人生である。そんな男が、ある日忽然と姿を消した。


「朝から変わったところなんて一つもありませんでしたよ……いつもと同じようにお弁当を渡して、その日は外回りが多いから夜はお肉にしましょうって笑って、いつも通りに駅に向かうあの人をここの窓から眺めて……そしたらお昼前くらいに会社からあの人が来ないって電話があって……」


 涙ながらに話す男の妻の様子は全く演技には見えなかった。事実、警察の調べでは駅のプラットホームから定刻の電車に乗り込む男の姿が監視カメラに写っていたそうだ。しかし、男が電車から降りた映像はなく、改札のログにも男の定期が駅構内から出ていなことが伺われた。



 翌年の八月、二人の少女が行方不明になった。一人は短い髪をプラチナブロンドに染めた明るい子で、もう一人は長い黒髪を後ろで編み込んだお淑やかな子。九州北部在住の二人は幼稚園からの幼馴染で、同じ中学に通う二年生だった。外見も内面も正反対の二人であったが非常に仲が良いことで知られており、その日も二人で出かけていたところだった。

 当初警察は誘拐事件の可能性を視野に入れて捜査を執り行っていたが、少女たちの足取りは電車の中で途絶えた。車内に乗り込み、降りてこなかった。



 明くる年の八月、一人の老人が行方不明になった。男は七十手前であり、五十代半ばで退職したのちに北海道に移り住み細々と農家を営んでいた。男には息子と娘が一人ずつおり、八月の末ごろに娘夫婦が家を訪れたことで明らかとなった。家に荒らされた形跡などは一切なく、男が妻の形見として大事に持っていた貴金属類や通帳、貯金箱の中身などといった貴重品は全て残っていた。

 警察の調べによると、男は最寄り駅の監視カメラに写ったことを最後に消息を絶っており、また近隣住民からの聞き込みでも直近で痴呆の兆候や不審な様子はなかったとのこと。



 この頃にはネットが次第に騒ぎ出していた。年に一回、八月の同日に電車内で人が消える。被害者に一致する特徴は見当たらず、場所もバラバラ。しかし、偶然の一致とするにはあまりに出来過ぎている。



 四年目の八月、一人の女が行方不明になった。女は北陸在住、二十代のデザイナーであり、彼女の手掛けるメンズ服は若者の間で着実と人気を伸ばしつつあった。都内のオフィスにて会議が行われた際に女が一向にやって来ず、律儀な女が連絡もよこさないのはおかしいということで事件が発覚した。

 女は東京行きの特急に乗り込んだ姿を最後に行方をくらませている。



 この事件を境に、『神隠し行き特急』はテレビのニュースで大々的に取り上げられるようになった。事件当初はどこの放送局もこの話題でひっきりなしだった。しかし、ひと月も進展がない状態が続くとその熱量は急速に下がってゆき、二か月後の特番を最後にテレビからは姿を消した。



 五年目の八月、とある家族三人が行方不明となった。近畿地方在住の三十代後半の夫婦と五才になる息子の三人。女は近隣住民に家族三人で動物園に行くのだと話していた。

 三人は動物園の中に設置されているモノレールに乗ったまま姿を消している。モノレールは一両編成、一周一キロメートル弱の環状であり、その短い間、限られた空間で三人の人間がいなくなってしまっているのだ。それにもかかわらず、同時刻、同車両に乗り合わせていた人の誰一人として気が付かなかった。



 世間は『神隠し行き特急』の話題で席巻された。毎日朝も夜もニュースで何事かが語られ、怪しげな専門家やらオカルトの第一人者やら、様々な人が招かれた。

 しかし、やはり事件自体に進展は見られず、ひと月、ふた月と経つにつれて話題は別のものへと移り変わっていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ