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 後悔はしてない、反省はしている。

 森の中を小さな黒い影が駆ける。縦横無尽に動くそれは、その性格な姿を捉えられない程に早かった。しかしそれを追跡する影が四つ。


 「くっ……しつこいっ!」


 少し高い少女の声は、明らかな焦燥がこもっていた。


 幹を蹴り、枝を跳ね、地を這い駆ける。

 獣の如き敏捷さをもって、人外じみたその動きを可能にしていた。しかしそれを追う影も、異様な動きでそれを追っていた。


 「速すぎる……使いっパシリのくせに!」


 悪態をついても、現状は変わらず、それどころかどんどん距離が近づいていく。追う影は何かを飛ばし、小さな黒い影を襲う。

 しかし小さな影は、草むらに一瞬隠れ、木々の間を縫い、上手く的を絞らせない。


 「あぁもうっ! 本当に鬱陶しい!」


 追っ手が一人か二人であれば、何とか撒く事もできたかもしれないが、残念な事に今回の追っ手は四人組。どうあっても撒く事はできないだろう。

 しかし()()を果たすまで、倒れる訳にはいかない……


 (この姿も……もってあと数分ってところね、それまでにコイツらを何とかしないと)


 縦横無尽に駆け回り、何とか逃げているが、それも時間の問題。撒けぬなら……殺すまで。

 枝に着地すると同時に、方向転換し、追ってきていた影の首に噛み付いた。


 「!?!?」


 されど影は悲鳴を上げる事なく、まるで闇に溶けるかの如く、消え去った。しかしそれに全く動揺する事なく、残りの影達が攻撃を仕掛けてくる。ひらりとそれをかわし、首に爪を立てる。


 「これで二人目!」


 残り二人なら逃げ切れる。そう判断して一目散に逃げ出す。

 しかし、目の前に別の影が現れる。


 (五体目!? まさかずっと隠れてたの!?)


 影が伸ばした爪が小さな影の脇腹を抉り、血が舞う。


 「くぅっ!」


 咄嗟の反撃で腕を爪で切り落とし、そのまま逃走する。一人隠れていた以上、まだ他にも隠れている可能性がある。ならばここで意地を張るのは無謀でしかない。

 そう判断して駆け出す。


 森の木々の隙間から、月の光が輝く。

 目の前には()()()()下には川。川の深さがどれぐらいあるかは分からないが、この怪我をした身体で十メートル以上の高さを飛び降りれば、無事では済まない。

 しかしすぐ後ろからは三人の影。正しく前門の崖後門の影といったところ。

 飛び込まねば、死ぬ。

 チラリと首元に架けられた雫型の青い宝石のネックレスを見る。これの加護に縋るしかないだろう。


 「……一か八かね、部の悪すぎる賭けだけどやるしかないわ」


 意を決して飛び込む。

 数瞬の浮遊感の後、全身を叩く強烈な衝撃を感じ、意識が暗闇に吸い込まれた。









 場所は変わって神秘深い森の中、朝の眩しい程に輝く日の光を浴びて起床する青年の姿があった。

 起きた青年は昨日のうちに狩っていた鹿肉を食べながら、本を読んでいた。青年が居るのはボロボロに風化した森の中にある小さな村。その中でも最も大きな建物の中だった。

 この建物には数え切れない程の大量の本が収納されていた。本はいくつもボロボロで、ろくに読む事すらできない本がほとんどだったが、そもそも青年は字が読めなかった。それでも少年は挿絵から何となく内容を理解し、知識を蓄えていた。狩のやり方も、自身の実体験と照らし合わせて、理解していた。


 青年にとってはそれで十分であり、事足りていた。

そして青年は食事と読書を終え、明日の食料を取るために、森の中に(もり)を片手に入っていった。


 川辺でじっと魚を見つめ、隙を待つ。この川にはそれなりに大きな魚が多い。二、三匹取れば、食料としては十分だろう。そう判断して、青年は銛を構えた。

 しかし川に赤い液体が流れてきた事でその動きは停止する。魚も驚いたのか、赤い液体から逃げ出していく。

 ふと上流に目をやると黒い何かが流れてきていた。鹿の死骸でも流れてきたかと思ったが、予想は大きく外れた。


 歳は12歳ぐらいだろうか、小さな体躯に、武器の一つも持ってない。その上全裸の少女だった。この森で生きていくにはさぞ不便だろうと思ったが、見てみれば身体のあちこち傷だらけで納得した。恐らく森に住まう何かに襲われたのだろう。それが狼か熊かは詳しく傷を見なければ分からないが、このまま放っていたら死ぬだろうとは思った。

 どうするか迷ったが、とりあえずこれを持ち帰り、治療でもしてやろう。そう思い背負ってきた籠に押し込んだ。途中で取った木の実やきのこも入っているが、まぁいいだろう。


 さぁ狩りの続きだ。明日の食料を確保するためにも、続けなくては。流石に山菜類と食べれるかも分からない獣だけでは明日の食料が心配だ。肉は保存できないが、山菜類は倉庫に大量にある。何とかなるが、それだけでは寂しいからな。






 パチパチと何が弾ける音が聞こえる。全身が石のように動かない。

 それでも無理矢理起き上がり、辺りを見渡すと、どこかの家の中、簡素な布を被せられた状態で、目の前には暖炉が静かに燃えていた。


 どうやら助かったらしい。

 それを認識して、身体から力を抜き倒れ込む。まだまだ全身から痛みは引かないが、それでもあの窮地(きゅうち)を乗り切った事が、とても嬉しかった。

そして自分の身体を改めて確認すると、身体中に血が滲んだ布が巻かれていた。

 どうやら私は川に飛び込んだ後、この家の主に拾われて治療されていたらしい。それを理解してこの家の主を探すと、近くのソファーに寝っ転がり、毛布らしき布を被る青年が居た。


 どうやらこの青年に自分は助けられたらしい。そう理解して、お礼を言おうと思ったが、青年はどうも寝ているらしい。起こしてまでお礼を言うのは違うだろうと思い、しばらく待ってる事にした。


 まぁどうせしばらく動けないし……現在地も分かってないのに動き回るのも危険すぎる。とりあえずは情報収集に専念しないとね。

 まずは近くに居る()の保有者を探さなきゃ……あれ? 宝石がない!? あれが無いと器の保有者を探せないのに! こうなったら躊躇ってる場合じゃない!


 「ちょっと! 起きて! 起きてったら!」


 「うん? ……あぁ昨日のずぶ濡れか……やっぱり生きてたな」


 「ずぶ濡れ!? ……まぁそれは今はいいわ! それよりも私が持ってた青い宝石知らない?」


 「宝石? 宝石って確かすげぇキラキラしてて高く売れるやつだよな? そんなもんは見かけなかったなぁ」


 あくまでのんびりと、眠たげな口調で告げる青年に苛立ちが募るが、そんな事を気にしてる場合じゃない。この青年の言葉を信じるなら、宝石は私を助けた時には落ちていなかったらしい。

 となると川に飛び込んだ時にどこかに行ったんだろう。


 「探さなきゃ!」


 「おいおい、そんなボロボロの身体でどこに行こうってのさ」


 「うるさい! 悪いけど大事な物なのよ!」


 後ろから聞こえる制止の声を振り切り、自分でも分かるぐらいよろよろとした足取りで外へと飛び出す。

そして数歩歩いた所で、ピタリと足を止める。


 「……ねぇ」


 「うん? どうしたよ」


 追って来ていた青年に声をかける。これだけは聞かなければならない。


 「……私を拾った場所って何処?」

 

 「……教えると思うか?」


 私は数十分の口論の末、部屋に戻される事になった。

 まぁ何となく近くにあるのは分かるから、大丈夫だと思うけど……なるべく早く回収したい。







 少女はまた眠った。まぁあれだけボロボロになってたんだから、しばらく眠っていて貰わないとな。また倒れられても困る。


 それにしても青い宝石ね……多分溺れた時に落としたんだろうけど。この森にある川は流れがそれなりに早い。早々見つからないかもなぁ。






 二話は19時投稿です。

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