そして日々は続く
黒田達の星をシャバトマから救った悠とダバオギトは、一旦ダバオギトの仕事部屋である真っ白な部屋に戻ってきた。
部屋には異形の女神レミアルナが二人の事を待ち受けていた。
部屋に現れた二人をレミアルナは笑顔で迎え入れた。
「おかえり、悠、ダバオギト」
「ただいまです。レミアルナさん」
「レミアルナ、どうして私の部屋にいるのかね?」
笑顔で挨拶をした悠と違い、ダバオギトは少し不満そうに尋ねる。
そんなダバオギトにレミアルナはニヤリと笑みを返した。
「いいでしょ、私とあなたの仲じゃない。それより良かったわね、想いを遂げられて……ねぇ、どうだった、ずっと好きだった人とのキスは?」
「……感想を言う必要性を感じないな」
「なんていうか、凄く気持ちいいのと、やっちゃったっていうのがない交ぜになった感じでした。あと嫌われないかなとかも混じってましたね」
「悠君!?」
「へぇ、そうなんだぁ……」
同化していた時感じた物を告げ口した悠をダバオギトは睨み、それを聞いたレミアルナはさも楽しそうに目を細めた。
「悠君……何で言っちゃうのさ……」
「別に隠す必要ないだろ?それに僕、レミアルナさんには恩を感じてるし……」
「フフッ、日ごろの行いの差が出たわね……悠、ありがと」
「えへへ、お安い御用です」
微笑み合う二人をダバオギトは憎々し気に睨んだ。
やがてため息を吐くとレミアルナに尋ねる。
「それで、何の用かね?」
「取り敢えず悠にやってもらいたい仕事は終わったんでしょ?」
「まあね」
「じゃあ、約束通り悠を貰ってもいいわね」
「構わんが、悠君の意思も確認したまえ」
「そうね……ねぇ、悠、あなた私の管理してる宇宙にこない?」
「レミアルナさんの宇宙に……?」
彼女の宇宙……それはドラゴンやエルフのリーファランのいた様なファンタジー世界の存在する場所だろう。
心惹かれる物はあるが故郷である地球のある場所を離れてよいものか……。
「……悩むわよね……なんだかんだ言ってやっぱり故郷から遠く離れちゃうのは事実だもの」
「すいません……少し考えさせて貰えませんか?」
「いいわよ。しっかり悩んで決めて頂戴」
「ありがとうございます。そういう訳なんで、暫くここに置いてよ」
悠は二人を置いてデスクの椅子に腰かけていたダバオギトに声を掛ける。
「ここにって……君、居候するつもりか?君、チートでハーレムが欲しかったんじゃないのかね?」
「そうだったんだけどさぁ、なんか違うかなって……それよりいいだろ、少しぐらい置いてくれても」
「はぁ……居座る気なら仕事を手伝ってもらうよ」
ダバオギトはため息をついて悠を見る。
「仕事?だって終わったって……」
「一応、私だって君に気を使っていたんだ。問題を解決してもらった星は比較的君の母星に近い物を選んでいたんだよ」
「そうなの?じゃあ凍結した星はまだあるの?」
「あるさ。君にやってもらったのはほんの一部だからね」
その答えを聞いた悠は目を輝かせ満面の笑みを浮かべた。
「すいません、レミアルナさん。暫くこっちに残っていいですか?」
「いいけれど……あなた、まだ続ける気なの?」
「だって、僕がやったのは地球に似た星ばかりなんでしょ?って事はこれからはス○ーウォーズ的な変な宇宙人とかも……」
「そりゃあ見た目は全然違う者も多いけど……やっぱり君変わってるね……」
「凄いぞ……まるでスペースオペラの主役みたいだ……」
両手を握り武者震いする悠に二人の創造者は肩を竦めて笑みを交わした。
深い森の中、ヌイグルミの様な茶色い毛並みの生き物(熊と猿を足して割った様な容姿)が粗末な槍を手に樹々の間を駆け抜けていた。
その生き物が走り抜けた数秒後、その樹々をなぎ倒し鮫に似た頭部と昆虫に似た足を持つ巨大な獣が後を追う。
「なんか想像してたのと全然違うんですけどぉ!!!」
「キシャアアア!!!」
巨大な獣の咢を躱し森から抜け出す。
空は高く中天には陽光が輝き緑の草原を照らしている。
心地よい風が吹き抜け草を揺らした。
ヌイグルミを追い森から飛び出た獣は陽光の下で顔に並んだ六つ目を眇めた。
動きの止まった獣に周囲から無数の槍が撃ち込まれる。
「シャアアアア!!!」
「トウッ!!」
掛け声と共に樹上から飛んだヌイグルミは鮫の頭部を手にした槍で貫いた。
獣の足がふらつきドウッと音を立てて地面を揺らした。
「凄い!?ホントに倒した!!」
「見直したぞバム、お前は村の勇者じゃ!」
「凄いよバム!」
「良くやった!お前は英雄だ!」
槍を突き立てたヌイグルミの周囲に似た様な者がワラワラと集まる。
「えへへ、そう?似た様な場面は一回あったから……上手く出来て良かったよ」
周りに集まったヌイグルミ達に答えながら悠は思う。
なんて言うか○ークや○ロみたいのを想像してたんだけどこれってイウォー○……まっ、いっか。
悠は周囲のヌイグルミの笑顔を見ながら苦笑すると、拳を高く掲げた。
ワッと歓声が上がる。
主人公になりたかった少年悠は、その時、確かにまごうことなく主役であった。
真っ白な部屋で事務員の恰好をした男が笑みを見せる。
「……ホントに逸材だったなぁ……まさかああいう状況を楽しんでやれる人間がいるとはねぇ」
“ちょっと、悠はまだ続けるつもりなの?”
「レミアルナか……悠君からはまだ止めたいとは言われて無いからねぇ」
“はぁ……ずっと待ってるのに……”
「まぁ、気長に待ちたまえ……さて、次は……」
男は新たな星をホクホク顔で選択する。
ごく普通のオタクな少年の戦いの日々はまだ暫く続きそうだが、彼の物語はここで一旦終わろうと思う。
それではまた、いつかどこかで。
最初に状況を羅列しそれに合わせ書くという実験的なお話でしたが、何とか破綻せずに書き終える事が出来た様に思います。
最後までお読みいただきありがとう御座いました。
次回作もお読みいただけると嬉しいです。