十万年前から愛してる
悠が学校の校庭の西、部室棟の裏へ転移すると程なく風花がそこへ駆け込んで来た。
その後を追う様に息も絶え絶えの坂野が彼女を追って現れる。
「ユウ!!」
風花は悠の姿を見つけると駆け寄って彼を思い切り抱きしめた。
「風花!?」
「バカッ!! 危ない人がいたんなら逃げないと駄目じゃない!!」
「はぁはぁ……ごめん黒田……クラスの奴らに……はぁ……お前の事話して……ングッ……避難する様に言ったら……吉野さん……助けに行くって……」
「爆発みたいのが見えて……私、凄く心配したんだからね!!」
話の流れが見えて来た。
恐らく風花は教室からシャバトマが起こした光を見たのだろう。
その後、坂野がクラスに戻り皆に逃げる様に促した。
その際、悠やシャバトマの事も伝えた様だ。
「何処も怪我して無い!? 危ない人は!?」
「アイツは逃げたよ。爆発は派手なだけで大した事無かった。怪我もしてないよ」
「ほんとう? ……良かった……良かったよう……」
風花は黒田が無事だった事で気が緩んだのか、抱きついたままワンワンと泣き始めた。
「大丈夫……もう何も心配する事は無いよ……」
“……どこか違うと感じていたが、やはり彼女は昔と変わらず優しいな……”
風花の背中に手を回し悠は彼女が落ち着くまで頭を撫でた。
やがて風花は泣くのを止めスンスンと鼻を鳴らし始める。
“選手交代、後は君がやってよ”
“ちょっと、悠君!?”
悠は体の主導権をダバオギトに譲り渡した。
何が出来るか調べた時にその辺の事も頭に入ってきたので、意識の切り替えはお手の物だ。
「あ……」
体の主導権を強引に渡されたダバオギトは戸惑いつつも風花の肩に手を置いた。
抱きついていた彼女を引き離し、真っすぐに風花を見つめる。
「あー、えー……こんな事を言っても君は信じないだろうが……」
「……なに…かな?」
「ずっと……長い長い間……十万年以上、君の事を愛してた……いや、今も愛してる……」
「えっ!? 何!? 十万年!? 愛してる!? えっ、えっー!?」
突然の告白に風花は顔を真っ赤に染めて混乱していた。
「黒田……お前やっぱりヤバい奴だったんだな……爆発騒ぎの直後に告るとか……それってもう映画じゃん……」
“確かに中々無いシチュエーションだよねぇ……”
少し呆れた様子で笑みを浮かべる坂野に悠は思わず同意する。
ダバオギトはそんな坂野にかまわず、風花の頬に両手を添えるとそのまま顔を近づけた。
“あっ、コラ! 何やってるんだ!?”
「えっ、マジ!?」
「えっ、えっ!? ユウ、嘘!? ん~~!?」
互いの唇が触れるだけの淡いキスを交わすと風花の目を見つめ言葉を紡ぐ。
「君が幸せな一生を送る事を願っている……生まれて来てくれてありがとう……」
「ユウ……」
キスの所為で少しボーっとしている風花から離れるとダバオギトは悠に告げる。
“……帰ろうか”
“君さぁ……女の子に無理やりキスとかちょっとどうかと思うよ僕は”
“会いに行こうと言い出したのは君じゃないか?”
“そうだけどさぁ……はぁ……二人はこの後どうなるんだろう?”
“フフッ、二人はどうも相思相愛のようだし、きっと上手くいくよ”
“そうなんだ。だったらいいのか……アレッ、でも待って、それって黒田君の告白を勝手にやっちゃったって事!? ……あと二人の初めてのキスも!?”
“……帰るよ”
悠の思考を遮りダバオギトはやりたい事をやると悠と共に黒田の体から抜け出した。
会いに行こうと言い出したのは確かに悠だったが、まさか告白して口づけを交わすとは……。
“黒田君には悪いと思ってるよ。僕の愛した人と彼女が重なって……抑え切れなかったんだ”
“繋がってたから分からなくはないけどね……黒田君にも一応記憶は残るんでしょ?”
“夢の様な感じだがね”
意識を取り戻し自分のやった事で固まっている黒田と、まだボーッとしている風花、そして二人を口を開けてみている坂野を残し悠とダバオギトは彼らの星を後にした。