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英雄志願  作者: 田中
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相乗り

 座っていた椅子が(ゆう)が腰を浮かせた事でガタッと音を立てた。


「はぁ……十代の男の子だけあって想像力が豊かだねぇ」

「あっ、アンタが変な事言うからだろ!」

「中に入りたいと言うのは、君の魂に相乗りさせて欲しいって意味だよ……君も知っての通り我々創造者は上から直接的な干渉が禁止されてるからね」


 悠はダバオギトの言葉に眉根を寄せた。

 魂の相乗りとはどういった状態を指すのだろう。


「説明するよりも実際にやった方が分かりやすいかな? ほら私、説明下手だし」

「だからフランクに心を読まないでよ! それにホントに説明下手だったの!?」

「まぁね」


 苦笑を浮かべ、ダバオギトは立ち上がると姿を変えた。

 七三に分けられていた髪が長く伸びて揺らめき、眼鏡もアームカバーも消え体は白くゆったりとしたローブの様な物を纏った姿に変わっていく。


 一番の変化は体が少し透けて淡く輝いている点だろう。

 確かに今の姿であれば神様と名乗っても納得できるかもしれない。

 取り敢えず事務員姿よりは格段に説得力は高い。


「君、相変わらず失礼だねぇ」

「だから心を読まないでよ……はぁ、もういいよ。で、相乗りって?」

「じゃあやってみようか?」


 ため息を吐いた悠にダバオギトは歩み寄ると、そのまますり抜ける様に体を重ねた。

 と、吸い込まれる様に彼の体は悠の中に消える。


「わっ!? 何処にいったのさ!?」

“だから君の中だよ……ふむ、中々居心地がいいね。単純で”

「声が頭の中で……って、これっていつもと同じじゃないか!?」


“全然違うよ。いつもは君の表面的な思考を読んで、そこに言葉を流し込んでいるだけだ。今は君の魂に同調しているから感情や思考、記憶なんかも感じとれる。逆もまたしかりだ”


 感情や思考、それに記憶……思った事や思い出した事が分かるという事だろうか……。


「……それってプライバシー駄々洩れって事?」

「そうだね! でもお互い様だし……別にいいだろう?」

「お互い様だし、じゃないよ!! これに何の意味があるんだよ!?」


「この状態なら私の力をほぼ百パーセント君に貸す事が出来る。シャバトマとも互角に渡り合える筈だよ」

「……いいの、それ? 直接関与は駄目なんじゃないの?」

「一応君を介してだから、直接じゃないよ」


 悠の脳裏に屁理屈、詭弁といた言葉が浮かんでは消えた。


“まぁそうなんだけど……悠君、レミアルナが上に掛合っていると話しただろう”

「うん、聞いた」

“上が動けばすぐにでも問題は解決する”


「じゃあ、任せてもいいんじゃない?」

“上の解決方法は恐らくあの星系の抹消だ”

「抹消!? 全部消してしまうって事!?」


 心の中でダバオギトが頷きを返した様に悠は感じた。


“創造者を罷免され追放されたシャバトマごと、あの星の周辺は無かった事にされる……私はそれだけは回避したいんだよ……悠君頼む、助けて欲しい”


 魂の相乗り、それの所為だろう。

 ダバオギトの願いが真摯である事が悠にダイレクトに伝わった。


「……分かったよ。僕も風花や坂野……ついでに加賀達が消えちゃうのは夢見が悪いからね」

“……ありがとう”


 悠の心にダバオギトの感謝の気持ちが波紋の様に広がる。

 それは暖かく優しく、悠は訳も分からず泣きそうになった。


“……悠君、止めてくれないか。君が泣きそうになると私も釣られるだろう”

「なっ!? 元はと言えばあんたの所為だろ!」

“ふぅ……こんな感情は久しぶりだ……さて、それじゃあ戻ろうか。少し体を借りるよ”

「ちょっとまっ」


 悠が言い切る前に体が意思に反して動き、周囲は光に包まれた。




 視界は切り替わり目の前には左手を掲げたシャバトマが静止した状態で立っていた。


「止まってる……どういう事?」

“創造者に上から与えられる力の一つだよ。管理している星の時間をある程度操る事が出来る”

「じゃあ、僕がループしてたのは……」


“そう、この力を使ってやった事だよ。凍結なんかもこれの応用だね。まぁ私達は基本見守る事しか出来ないから止める、進める、戻すの三つしか結局出来ないけどね”


 なるほど、直接介入が出来ないのだから歴史の変更は不可能だろう。

 つまり同じ時間を動画を観る様に再生したり早送りしたりする事しか出来ないのか。


“そのとおり!”

「なんかそれ、段々慣れてきたよ……あのさぁ、コイツをこのまま殴っちゃ駄目なの?」

“時が止まった相手を殴ってもダメージは与えられないよ。なんせ時が止まってるからね”


 ダバオギトの言葉と共にイメージが頭の中に流れ込む。

 時間が止まっている物体はエネルギーの影響を受けない。

 例えばゴムボールの様に柔らかくても、ゴムの形が変化しないから握り潰す事は出来ないのだ。


「ザ・ワールドは出来ないんだね……それで、アンタの力を使えるって具体的にはどうすればいいの?」


 心を読まれる事に諦めを感じつつダバオギトに尋ねる。


“やりたい事を考えてくれればいい。何しろ今、君と私は繋がっているからね”

「繋がってるって……なんかやだな」

“私だって嫌だよ。さっさとシャバトマを止めて離れようじゃないか”

「だね」


 悠は力を使おうとしているシャバトマを見て作戦を考えた。

 ダバオギトが協力してくれたのか、どんな力が使えるのかに意識を向けるとやれる事が元から知っていた様に分かる。

 悠は創造者の力で出来る事を踏まえた上でルートを構築した。


“君、これを本気でやるの?”

「最高の結果を出す為だよ」

“はぁ……了解だ”


 ダバオギトの返事を聞いた悠は気合を入れる為、勢いよく右拳を左手に打ち付けた。

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