見覚えのある、見た事の無い場所
ダバオギトは画面に見入り暫く呆然としていた。
自分のシミュレーションではピンクの髪の女将軍は復讐者のよって傷を負い、それが原因で死んでいた筈だった。
悠の意識を猫に入れたのは将軍と繋がりを持つ為だ。
今回の保護対象、アーニャという少女は後々、星の歴史を大きく変える発見をする。
しかし、孤児のままでは生き残ったとしても十代半ばで命を落としていた。
アーニャが生き残る為には国の保護が必須だった。
その為には現状でロガを支配している将軍を動かす必要がある。
だから彼女がほぼ無条件で心を許す猫を使ったのだ。
復讐者が銃を将軍に向けた時、シミュレーションでは復讐者を攻撃しても結果として彼女は撃たれ深い傷を負う。
当然だろう、介入者は猫に身をやつしている。
小さな爪と牙では復讐者に致命傷を与え止める事は難しい。
復讐者に脳震盪を起こさせ戦闘不能にするなど完全に想定外だ。
「悠君……君の歩んで来た道が……経験が将軍を命を救ったのか」
ダバオギトは凍結していた星のリストに目をやる。
かつて愛した人はもういないその星は、一人の異能者によって滅びの道を辿る事になる。
どんなに設定を変えてやり直してシミュレーションしてもそれは誕生してしまう。
それも当然だろう。
ダバオギトは星の歴史をやり直し、同じ人間を作ろうとした。
小手先の変化では星は殆ど似たような時間を繰り返すだけだ。
「彼ならあるいは……」
凍結した星にいる女性は勿論ダバオギトが愛した者では無い。
しかし、愛しい人と似た女性が滅ぶさまを見るのは耐えがたい苦痛だった。
諦めかけていたその星の未来をダバオギトは悠に賭ける事にした。
「もし彼女を救えるなら……その時は君に心からの祝福を送る事を誓うよ」
管理者ダバオギトは祈りながら悠を滅びが目前に迫った星に送った。
■◇■◇■◇■
ぼやけていた視界が像を結ぶ。
周りを見渡せばビルが立ち並び、地面はアスファルトに覆われていた。
自分が立っている場所はガードレールの中の歩道。
見下ろした足はグレイのスラックスに革靴を履いていた。
右手を見下ろすとスラックスと同じ色のグレイのジャケットの裾からワイシャツが覗いている。
「地球? 日本?」
悠がそう呟いたのも無理が無い程、目にした風景は自分の育って来た場所に酷似していた。
「どうしたのユウ?」
「えっ?」
同じ響きで名前を呼ばれ思わず声がした方に目を向ける。
黒髪の肩に掛かるぐらいのボブカットの少女がこちらを見て笑っていた。
「どうせまた徹夜でゲームしてたんでしょう?」
「えっ、あの……うん」
「なにキョドってるの?」
不思議そうに悠を見る女の子を改めて観察する。
黒髪にブレザージャケット、プリーツスカート、白いソックスにローファー。
完全に悠の知るザ・女子高生だ。
しかも可愛い。
この肉体の持ち主は可愛い女の子の友人がいるようだ。
それもかなり親し気な。
クソッ、なんだか無性に腹が立つ。
「それより早く行かないと遅刻しちゃうよ」
「あ、ああ」
そう言った彼女に促され、悠は少女の後を追って歩道を歩きだした。
道すがら町中の標識や看板を確認する。
それらに書かれた文字は悠にはまったく読めなかった。
一瞬、事務員が地球に戻してくれたのかと思ったが、どうやら別世界のようだ。
という事はまた厄介事が起きるのだろう。
「ねぇ、変な事を聞くようだけど君の名前ってなんだっけ?」
「はぁ? 幼馴染の名前を忘れるとかありえないんですけどぉ!」
「あっ、きょっ、今日の朝の占いで幼馴染の名前を確認すると良い事があるって言ってたんだよ」
悠は焦りの為、多少早口でまくし立てた。
少女は眉根を寄せると、少し首を傾げ顎に人差し指を当てた。
「占い? テレビの奴? ……私も幾つか見たけどそんなのあったっけ?」
「ねっ、ネットの占いだよ」
「ふーん、それって当たるの? よく当たるんだったら教えて欲しいんだけど」
「いや、どうだろう。十回に一回ぐらいそうかもって思うだけだよ」
「なーんだ。じゃあいいや。えっと、名前だね。風花、吉野風花だよ」
そう言った風花の笑顔はとても眩しかった。




