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英雄志願  作者: 田中
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女神の祝福

 異形の神レミアルナ。彼女は(ゆう)に力をくれると言う。

 それは恐らくゲームではスキル等と呼ばれる特殊能力のような物だろう。


 しばし悩んだ後、悠は口を開いた。


「えっと、お気持ちはありがたいんですけど……要らないです」

「そう、要らない……何で!?」

「癒しの力とか読心とか色々、考えたんですけど……そういうのあると逆にそれに頼って袋小路にハマりそうで……」


 レミアルナはポカンと悠を見た後、唐突に破顔した。


「アハハ、貴方、ホントに変わってるわねぇ!」

「そっ、そうですか?いや、僕もシチュエーションが固定ならそういうの欲しいですけど、これだけ変わると選びようが無いというか……」


「うん、貴方の事、気に入っちゃった」


 そう言うとレミアルナはソファーから立ち上がり、悠の傍らに立つと複数ある右手の一つを差し出した。

 悠が彼女の顔を見上げるとレミアルナは満面の笑みを浮かべている。


 少し戸惑いつつもその手を握り返すと、レミアルナは悠をソファーから立たせその無数の手で包みこんだ。


「えっ、あっ、あの!?」

「感謝と祝福を……願わくば貴方の同胞がやがて私達の新たな仲間となりますように……」


 悠を抱きしめたレミアルナは彼の額に優しく唇を寄せた。

 額から暖かい何かが流れ込み悠の中を満たしていく。


 やがてレミアルナは悠を解放しそっと離れた。


「遠い異界の友人、川口悠、今回は手伝ってくれてありがとう。貴方の道行きに幸多からん事を願ってるわ」

「はぁ、ありがとうございます……」

「フフ、気が向いたらまた手伝って頂戴。名前を呼んでくれたら繋がるから」


「分かりました……ていうか、一体何を?」

「ん? ちょっとしたプレゼントをね……きっと貴方の役に立つわ」

「プレゼント……?」


 何だろうか……能力は断ったし、移動先に有効なアイテムを毎回出現させてもらえるとか?

 首を捻る悠に異形の女神は微笑みながら手を振った。


「じゃあね、応援してるわ」


 青い肌の神の姿はシャランと金の輪を響かせつつ薄まり、悠の視界は薄暗い石造りの裏路地へと変化した。


「……神様か……腕は多かったけど美人だったな……凄くいい匂いがしたし……」

「何言ってんだお前、女の事考えてる場合か。今は仕事に集中しろ」


 目の前の中世庶民風の服を着た男は呆れながら小声で悠に言った。


「……どういう状況?」

「はぁ?お前ホント大丈夫か? ……薬でもキメてんじゃねぇだろうな?」

「それは無いと思うけど……いや、確認しておこうと思って……」


「チッ、組織も質が落ちたもんだぜ……いいか、仲間が今から其処の屋敷に忍び込んでターゲットであるガキを消す。俺達の仕事は陽動だ」

「ガキを消す? 子供を殺すの!?」

「デカい声出すな、このバカ」


 男は悠の口を塞ぎ周囲に素早く目配せした。


「ついてねぇぜ、こんな素人と組まされるなんてよぉ……本命はあの屋敷の主だが、そっちは警戒が厳しいんだ。だから警告として息子の方を始末する……テメェも聞いてただろうが?」


 男は周囲に気付かれていないと確認すると、悠の口を塞いでいた手を放した。


「……その主って何者?」

「必要なのは何を為すか、それだけだ。それ以上の情報は必要ない。そう教わらなかったのか?」

「うん、初耳だ」

「誰だよ教育係はよぉ……」


 呆れて額に手を当て大仰に肩を竦める男を悠は真っすぐに見つめた。


「……そんな目で見るな、妹を思い出す……ふぅ、館の主はローヌ伯爵、王の意向を無視して領地に学校って文字や算術を教える建物を作ってる野郎だ」


「へぇ、いい人なんだね」

「フンッ、んな物なんの役に立つんだよ」

「えっ?だって文字が読めれば色々知れるし、計算が出来たら便利じゃないか?」


「そんな事はお貴族様や商人だけが出来りゃいい事だろ? 平民は手に職付けりゃいいだけじゃねぇか」


 なるほど、今回の世界は上と下が完全に分断されているようだ。

 何で読んだか忘れたが、上の人間は民衆が賢くなるのを嫌った筈だ。

 理由はその方が支配しやすいから。


 本来のターゲットであるローヌという人物は、貴族でありながらその仕組みを崩そうとしているみたいだ。


「ちなみだけど、依頼主って誰だっけ?」

「んな事知らねぇよ。俺たちゃ上役に命令されただけだろうがよ」


 レミアルナは知的生命体を創造者にする事が仕事だと言っていた。

 その為には文明の発展が不可欠だと……。


 自分をここに送り込んだ神……ええっと……名前が出てこない……喉元まで出かかっているのに……何だっけ……。

 ……まぁ、事務員でいいか。


 恐らくだが彼も望む事は同じ筈。

 であるなら、今回のミッションはそのローヌという伯爵の息子を守る事では無いだろうか……。


「うん、決めた」

「決めたって何を?」

「ねぇ、今回参加してるのって何人だっけ?」

「お前よぉ……、二人一組で十組。二十人だよぉ……ホントあり得ねぇ、こんなバカと組まされるなんて……」


 ため息を吐き首を振る男の背後に素早く回り込むと、悠は彼の首に腕を絡め頸動脈を締め上げた。


「グッ……おま……何を……」

「ごめんねぇ、多分だけど伯爵の息子を守るのが今回のクリア条件だからさ……」


 悠は男の意識を奪いそっと建物の壁に背にする形で座らせる。

 その後、路地裏を抜けだすと夜の闇の支配する街に向かって身を躍らせた。

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