わたしは、撃ち合い部顧問の新美先生に質問をしました
「高校生だから、将来の参考になるかもしれないので話します。私は愛知県で、伝統のある大学に入学しました。しかし第一志望の大学でなかったのです。第一志望は、赤沢学園大学の、関東キャンパス教養学部でした。幸運なことに、三年次の編入試験があり、編入試験を受けて第一志望の赤沢学園大、関東キャンパスの教養学部に入れました」
赤沢学園、聞いたことあるります。うちの高校、赤沢学園第二高校だ。
「先生、赤沢学園大学と、うちの高校って関係あるんですか?」
「あります。同じ学校法人グループです」
うん。赤沢学園は、全国チェーンでなくて、全国に学校を多く運営しています。学校法人グループです。その一つが、赤沢学園第二高校。この学校です。
「先生、うちの校名に“第二”ってついてますが、第一と第三はあるんですか?」
「あー、今は第一と第三は、校名変更しました。前は、他の県に、第一と第三があったそうですが、第一は、赤沢学園大学付属高校に、校名がかなり前に変わりました。第三は、今は愛知赤沢学園大学高校ですね。一昨年までわたしは、愛知赤沢学園大学高校で常勤講師でした。去年、赤沢学園第二高校に、教諭として赴任しました」
ややっこしいし、遠い系列校っぽいのなど、関係ない。生徒のわたしにとっては、別の惑星と同じです。聞くんじゃなかった。ネエネエ先輩が、明るい表情をして、手を上げます。
「監督、私が質問しても良いですか?」
「どうぞ」
「監督は控えの選手として、隊長つまり、社会人チームの監督から、学生で、3射に任命される実力があったそうですが、一日何時間くらい『共トニック』のトレーニングしたんですか?」
「それは良い質問です」
本音が出た。それは、です。さっきのは、悪い質問だったんだ。立ち上がった、ネエネエ先輩は、背筋を伸ばして、豊かな胸が突き出すようにしてます。高二でもう、男性教師に色気で取り入ってる術を、持っているようです。
「そうですね、『共トニック』『共トレ』を最低でも、一日八時間は練習してました」
大学で勉強せずに、遊んでいたのか! 口から出そうになった言葉は、喉でとめれました。
「凄いです、私も監督の技術に少しでも近づけるよう、頑張らないと、ねえねえ、そう思うでしょう」
ネエネエ先輩を見上げるわたしに、強い視線で同意を求めています。気圧されたわたしは、軽く頷ました。ネエネエ先輩は、腰を下ろして、スカートの上に手を載せています。
新入部員説明のはず。わたしが主役のはずです。わたしは、腰を浮かせました。
「座ったままで良いです」
やはり、新美先生は、ネエネエ先輩の誘い込むような、仕草しか相手をしてないようです。どーせわたしは、ガキですよ。でも、変な目で見られるよりよっぽどマシです。
「質問です。新美先生は、書道の先生ですよね?」
「高校と中学両方で、国語と書道の教員免許を持っていますが、ここ赤沢学園第二高校で教えてるのは、書道です」
「教員採用試験の勉強は、どのくらいしたんですか?」
新美先生は、笑いながら、後頭部を手でかいています。
「教職課程の勉強はしっかりしましたが、教員採用試験の勉強は、全くしませんでした。タミヤ自動車さんから、内定をもらっていたからです」
タミヤ自動車は、世界的な自動車メーカーです。また、撃ち合い部は、社会人チームの強豪でもあります。うんうん、とネエネエ先輩は、納得顔で聞いています。知ってたな。よく考えれば、去年からうちの高校で、撃ち合い部の部活顧問兼監督なんだから、当然か。
「新美先生、どうして大企業のタミヤ自動車を、お辞めになったんですか?」
ネエネエ先輩が、つぶらな瞳をしかめながら、わたしのスカートを見ています。パンツが見えないようにか、ぎゅっと膝を閉じます。
「赤沢学園から、教員として来ないか、と言ってもらえたからです」
辞めた理由を深く掘り下げてない。言いたくないこともあるのでしょう。
タミヤ自動車の方がゼッタイ給料良いはず。断れたはずなのに。新美先生が教卓に両手を置いています。
「この学校と、多分、ご縁があったんでしょう。こうして生徒のみんなと出会えたのも、ご縁でしょう。そういうご縁を大事にしたいですね。愛知赤沢学園大学高校と、この学校は、理事長先生同じなのに、学校法人は違うんです。異動は転勤でないんですよ。一回退職して、また採用されるんです。ですから、履歴書の職業欄が長くなるんです。履歴書は法人名から書きます。私の場合は、学校法人愛知赤沢学園大学愛知赤沢学園高等学校退職。高校学校法人赤沢第二高等学校就職となりました。先輩の先生方は、履歴書の職歴欄、長いんです」
話の方向が外れてるような。
担任の先生に、新美先生から聞いたんですが、転勤の度に、学校法人を退職して就職するから、職歴欄が長くなるんですよね。
そんな話したら新美先生、余計なこと話して、と思うはずです。
うーん、新美先生は、うちの高校の系列大学を卒業した。そして、学校法人グループと関係ない大企業に就職した。また、学校法人に戻って来た。ということは、次は企業に就職かも。
「新美先生、企業の社会人チームから引き抜きの話とか、今あるんですか?」
「ねえねえ、新美先生に失礼だよ」
「いえ、生徒に関心を持ってもらえるとは、教員として名誉なことです。何でも聞いてください」
わたしは、遠慮なく聞きます。先生に質問するのは、生徒の権利です。習い事教室で、eスポーツの先生をしている、母も言ってました。
「引き抜きの話は、現在ありますか?」
「ありません」
「さっきの動画で、先生が撃ち合ってる場面、ありませんでした。隊長、つまり監督から好かれていたのは分かります。しかし、部下四人のチームリーダーでも、部下の方、ビギナーっぽい方でした。本当に大学時代、新美先生が強かったのか、証拠になりません。あと植田さんは、今どうしてるんですか? それから、ゲーム内で、タバコ吸ってましたが、『共トニック』『共トレ』どっちも同じゲームの省略名、それはおいておいて、ゲームは禁煙のはずです」
言いすぎ、失礼でしょう、先生に謝って。ネエネエ先輩が、頬を紅色に染めながら、耳たぶに声と一緒に吐息を吹きかけます。わたしの横顔を、じーっと見つめています。やはり、ネエネエ先輩は、わたしに興味があるようです。性的な意味で。
お酒やタバコのことは、実は、母から事情を聞いてます。知らない振りをして、教えたがりの新美先生をヨイショしたいです。
新美先生は、無言ですが、爽やかな笑顔です。今更ですが、かなりイケメンです。喋らなければですが。
わたしの心の中では、”無口ならイケメン先生”にニックネームは決定。
「ははは、証拠って、参ったなー。学生時代の『共トニック』のプレイ動画を見せましょう」
***
新美先生が、教卓の上で、ノートPCを操作しています。新美先生の背後にある、大きなスクリーンに動画共有サイトのトップページが表示されました。
『共トレ』公式チャンネルの動画を、マウスポインターが動いてます。上下に画面が激しく動いて鬱陶しく、て気分悪いです。前もって、動画用意しておいて欲しいです。
「ありました」
スクリーンには、“東日本VS西日本”の試合が映し出されます。本来、『共トレ』に限らず、FPSはプレイヤー視点です。これは観客向けの動画です。
多くの武装したキャラクターが映ります。分かりやすいよう、東日本チームは、迷彩服の上に青色のゼッケンをしています。それぞれの頭上に、選手名やいくつかのバロメーターが、浮かんでいます。
青いゼッケンで横一列に並び、試合開始前に、規律して国歌斉唱をしています。
東日本チームから、頭上の新美と表示された選手を探します。新美先生、顔や体型一緒です。わたしが尋ねます。
「先生、アバター課金して、より、イケメンにしなかったんですか?」