【番外編⑮】『英語のTHの発音をするように、舌を前歯に当てながら止めたら、舌打ちになってしまいました。』
「え?」
「どうせ、また炊飯する時、百度以上の熱で消毒されるって。ははははっ」
せっかく、マシンガントークで浪前の話を、バリアしたはずなのに、応じたのは、暇つぶしの姫でなく、浪前でした。
いい加減で、不衛生な男! 思わず、浪前を、横目で睨んでしまいました。吊り上がった目を隠すため、両手で顔を隠します。暇つぶしの姫は、わたしでなく浪前に、頷いてました。
「私の家、食器洗い機あるから、手で食器洗いをする勉強になるー」
暇つぶしの姫、保護者の経済力を、自慢しているのでしょうか?
「食器洗い機で、炊飯器の釜洗えるの?」
「うん、うちのは洗えるよ」
いいなー、喉まで出かかった本音を、英語のTHの発音をするように、舌を前歯に当て、止めました。チッと。結果として、舌打ちした微かな音が呼気と一緒に、出てしまいました。
「食器洗いは、ゴム手袋しないと手が荒れたり、冬は手が冷たくなるから、わたしの家も、早く自動食器洗い機買って欲しいな。自動食器洗い機便利そう」
前半のセリフは、わたしは苦労しているんだぞ、食器洗いを手洗いでもできるんだぞ! を強調しました。後半部分はわたしの家も、食器洗い機を買うお金は、いざとなったら、工面不可能ではない。
そして、わたしは、苦労知らずのお嬢さま育ちでないのを、二度、“自動食器洗い機”を、わざわざ早口言葉のように発音して、伝えたのです。
キンコーン!
ホームルームの始まりを告げるチャイムです。音程や長さは、先ほどのチャイムと一緒でも、最初に学校向けに演奏して人が、少し、焦りながら、木琴のバチを叩いてるような気も。いえ、気のせいです!
「またね」「またなー」「まったねー」「またな」
わたしは、eスポーツをしているので、耳が肥えてしまったのです。わたしも席に戻ります。どーでも良いことですが、別れ間際、一番最初に、「また」の音を発したのは、わたしでした。
チャイム音が鳴っても、担任の先生は大抵時間通りには、来れません。教室内に多くあった人の輪は、流れ解散になり、それぞれの席に戻ります。
わたしは、愛想で手をひらつかせてから、“暇つぶし会”と別れます。手を下ろしながら、握りそうになった手を振りながら、自分の席へ両足を速やかに動かし始めます。
自分の前を室内なのにダッシュで横切ってる生徒は、顔なじみの女子生徒でした。わたしは心が急いているので、邪魔に感じてしまいます。お互いさまなのにです。
「ゴメン」
「ゴメン」
どちらからともなく、遺憾の意を表します。
わたしが、立ち止まるのにミスって、つんのめりました。もし相手が、イケメン男子なら、心臓が飛び跳ねるくらいに、高鳴っていたでしょう。
逆に、イヤなことをされたことがある生徒ならば、わざと目を丸くしながら、危なかった、と独りごちしながら、イヤそうな溜息を無意識にしてしまう、可能性までありました。
甲高い小声で、「いたっ」とか言えば、特に男子生徒には、貸しを作る効果は大きいはずです。
でも、互いに、女子生徒同士の場合は別です。あとがうっとうしくなることもあり、面倒なのです。
わたしに落ち度がなくても、ゴメンで、おしまいが最適解でしょう。




