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第2章

 偉い人たちは、開戦しても三週間で戦いは終わると言った。しかし、二年たった今も戦いは続いている。

 2曹の俺は、大隊本部に呼び出された。

 部隊本部は開戦前、ビジネスホテルだったらしいが、看板は崩れ落ち、白い壁や廊下は、手入れされず汚れが目立つ。埃まみれの赤いカーペットを泥まみれのブーツで歩いて、隊長室の扉をノックした。

「新美2曹、命令により出頭しました」

 入り給えと、くたびれたような中年の男の声がした。俺は隊長室に入り、扉付近で踵を鳴らし、椅子に座っている隊長に敬礼をする。

「新美2曹。本日付けで、君を3尉に任命し、第5中隊、第2チーム長とする」

「自分は幹部としての訓練は受けておりません」

 俺は開戦前、体育会系公務員の面接で、FPSの大会で活躍しました。自己アピール可能と単純だった。しかし、僅か一か月の訓練を受けて、そのまま前線送りだ。六か月未満はビギナーと呼ばれる戦場でだ。

 続々と寄せ集めの新チームが編成され、上司が次から次へと倒れていった。下から押し上げられ2曹となった。

「人が足りないんだ。君にならできる」

「現在の困難な状況を、打開するための方策は、自分にはありません」

「君の意見を聞いているんじゃない、決定事項を伝えただけだ。3尉としてギャラも増える」

 上官の命令無視も逃亡も重大な規則違反だ。俺は嫌々辞令を受け取り、かつてはアスファルトで舗装されていた――。ひび割れした、でこぼこ道を、屋根のない四輪駆動車を走らせ第5中隊に向かう。テント張りの全然部隊本部にに入るなり、そこの隊長に尋ねた。

「自分の部下は、どこにいるんです?」

「今日、新人が四名送られてくる。それで1チームを編成する」

 部下は全員、簡単なチュートリアルを終えただけ、実戦経験があるのは俺一人だ。はめられたような気分で頭痛がする。

 中隊本部近くの草むらで、寝そべっていると、ぞろぞろとライフルを担え、新品の制服を着た連中がトラックに乗ってやって来る。

 先頭で案内をするのは、かわいらしい迷彩服姿の女性だ。この子はNPCで煙のように消えた。

 俺の部下に、重い足で近づきその中で、一番装備が高そうな奴に声をかけた。

 新米なのに課金しすぎだ。レベルが低いうちは、不要な装備も多い。

「新美3尉だ。お前らが、5中隊の第2チームか」

「敬礼!」

 号令がかかり、全員がチュートリアルで習った通り、否、システム上、階級上位者に自動的に体は、敬礼をする。気をつけまでしている。

「自己紹介は省く。一緒について来い!」

 俺が五人乗りの四輪駆動車を運転する。先頭を走って、砲撃音がする最前線の森の近くで停車した。四輪駆動車から、降りるように命令を出した。

「全員降車」

 昼間でも薄暗いほど生い茂った森の中に、ライフルを構え進む。

 射撃音が大きくなる方向に俺たちは入って行く。味方の塹壕があり、気だるそうな隊員たちが寝そべってた。ここは人が少くないポジションだ。俺たちも配置についた。

「ここを守るのが任務だ」

 言い放ち、俺ももたれかかり、たばこを吹かすが。敵の方角からスピーカーの音がした。

「西日本広域連合に告ぐ。西日本広域連合は先ほど降伏した」

 有名声優さんの声だ!

 戦意を打ち砕くための偽宣伝だろか。しかし、上空を飛ぶ運営の飛行機から、ビラが舞い降りてくる。一枚を拾い上げた。見つめると降伏したと書いてある。手の込んだことをするもんだ。

 塹壕に備えてある無線機から隊長の声がした。我々が降伏したことと、武装解除の命令を聞いた。

 ゲームセット! 終わったのだ。俺は、自分のライフルを地面に何度も叩き付け、壊していた。

「全員ライフルどさくさに紛れて壊せ。主催者さんから、ゲームセット記念に新品をもらえるぞ」

 部下たちが、ライフルを壊し終えたのを確認する。近くにいた部下に、木の棒にベッドシーツをくくり付けた白旗を掲げさせる。東日本広域連合の塹壕に両手を上げながら、とぼとぼ歩いて行く。

「おう、新美じゃないか? 久しぶりだな」

 東日本広域連合のチーム長は、偶然だが知り合いだ。東日本地方の大学で同じだった植田だった。書面に降伏の、サインと捺印をした俺はつぶやいた。

「植田さん。一試合がこんなに続くとは、思わなかったよ」

「こっちもだよ。去年と違って、西日本広域連合がここまで粘るとはね」

 俺はたばこを吹かしながら考えた。きっかけは、東日本広域連合が、西日本広域連合に試合を申し込んだのだ。

 東日本、西日本と冠はついているが、予選で、どちらでエントリーするかは、各都道府県の代表チームが決める。

 どこからが東日本か、どこが西日本か、線引きしきれないからだ。

 東と西、どちらかに強さが明らかに偏った場合、ゲーム運営のくじ引きで、所属決まる。

 ゲーム内で、銃で撃ち合うeスポーツ、FPSの全国大会とは、主催者さまの、ルールを守って正々堂々と試合するのだ。

 俺は愛知県出身で愛知県内の大学から、東日本の大学に三年次編入した。東日本某県の社会人チームに入団した。

 大学のチームに入らなかった理由は、上下関係などで、気を使いそうだったからだ。

 正直に言おう。3年編入組の扱いは、大学の撃ち合い部で、どうなるか心配だった。

 連敗したりして、人気が落ちることを心配したのだろう。愛知県がeスポーツの予算を増やした。

 愛知県に住民票だけを戻して、地元のチームで活躍できて楽しかった。

 しかし、かつての仲間たちと戦うはめになった。まあ、スポーツの世界とはそういうものだ


***


「2曹や3尉は、一部の日本語サーバーで使われる、キャラクターの階級です。現実の自衛隊では、職責は2曹より、3尉が上となるそうです。現実の陸上自衛隊の編成で3尉が率いるのは、最大約三十人だそうです」

「そうなんですか、勉強になります」

 ネエネエ先輩は、スマホを取り出してメモってます。おじいちゃんが若い頃、平成時代に、自衛隊で勤めてました。数年いたと聞いてます。

 しかし、格好をつけ過ぎた、暗いとても暗いプレイ動画でした。同じチームなら自己紹介しなくても、知り合いでしょう。

 監督をわざわざ隊長と呼ぶし、監督で良いじゃないですか。

 自衛隊の階級は詳しくありません。父は消防署員で、階級制度があるそうですが、わたしはあまり知りません。

 父も祖父も階級自慢しないし、聞かれない限り答える必要はないとか、言ってました。

 新美先生。ただ、自分が幹部さんだったと自慢したいのかな?

 そもそも、『地球共同軍プラトニック』略して『共トニック』『共トレ』に、砲撃あったけ?

 おじいちゃんが若い頃、平成時代に自衛隊で勤めてました。数年間在籍したと聞いてます。

 嫌なプレイ動画でした。もしかして、おじいちゃんが撃ち合い部に反対したのは、こういうプレイ動画を見て、目をしかめたからかもです。

 こんな気の滅入る戦争ゲーム、おじいちゃんなら嫌がるはず。

「私の学生時代、社会人チームの全国大会では、愛知県は西日本でした。高校向けの大会では、中部地方とか、東海地方とか他のわけ方もあります。何か質問はありますか?」

 撃ち合い部、部活顧問の新美先生が、学生時代の自慢話を教壇でしています。

 二十台の男性です。

 わざわざ、大きなスクリーンに新美先生が、『共トレ』を自分のPCパソコンで撮影しただろう、動画が流れています。

 しかも、広い部室で、話を聞いているのは、わたしとネエネエ先輩の二人だけです。

 去年から撃ち合い部顧問になった、新美先生。ネエネエ先輩のよれば、プレイ動画を見るのは、入部希望が受ける洗礼だそうです。

 新美先生は男性で、うちの高校では、書道を教えている先生だそうです。

 中学で書道は、国語の先生が兼ねていました。

 はっきり言って、百人は座って授業を受けれる部屋で、生徒二人だけ。

 机と椅子の無駄遣いです。部費が潤沢なのでしょう。

 私学で儲かってるなら、授業料下げるなりして、別の形で、生徒への還元を望みます。

「ちょっと」

「え?」

 ネエネエ先輩が、眉を寄せながら、わたしを、肘で軽く突いていました。目で、新美先生に、質問して、と大きな目が告げているようです。わたしは手を上げました。

「先生、質問があります」

「どうぞ、何でも聞いてください」

「先生はどうして愛知県出身で、地元の大学に通っていたのに、どうして、東日本の大学に、三年次編入したんですか?」

 ネエネエ先輩は、聞くのそこじゃない、と言いたげな表情でした。微かに俯いています。


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