【番外編】⑤『男子生徒のスマホ液晶には、脂がのってます。』
「俺木、鼻を噛むの仕方ないことでしょう。浪前に謝ってよ」
「何でカンケーないオマエが黙り込んでから、いきなり怒るんだよ?」
また、俺木は逆ギレです。わたしは肩を竦ませながら、『共トレ』の降参のように、両腕を肩幅に広げて、手のひらを見せてやります。
「はいはい、俺木が正しいで良いですよー」
「ねえ、朝から、言い合いはやめようよ」
暇つぶしの姫が、机の上でストレッチングをするかのように、前のめりになっています。
わたしと俺木の会話を、“言い合い”と決め付けたのです。暇つぶしの姫は、オンラインゲームのギルドなら、リーダーに向いていない、と分かりました。
暇つぶしの姫は、どうせ、小学生の頃、自分が間違ってないと思って、相手が分かってくれなかったら、泣き出しちゃうような子だったのでしょう!
長く続くギルドは、リーダーは、みなに公平に接するモノです。
わたしは、モテなさそうで御しやすそうな、浪前に、情けとして、声をかけてやりました。
俺木は、一度親切にしたら、後々まで、親切にされて当然、ワガママで、鬱陶しそう、自分の直感を信じました。
「浪前。フレンチの加登さんの料理教室、細かい情報ある?」
「これ」
浪前が、ポケットをまさぐり、スマホを差し出します。液晶には、厨房内側、タイル張りの壁画像が映ってます。
内装工事屋さんのウェブサイトで見かける、施工後の画像みたいにピカピカです。
ごつごつした浪前の指が、スマホの上を動きました。画像がアップになり、汚れがないタイルに四隅をシールみたいなので、貼られた、笑顔でコックコート姿の加登さんの、ポスターがあります。
わたしは、ポスターを外した後を考えてしまいます。奇麗なタイルにネバっとした接着剤が、残らないか心配です。
脂がギラついた液晶に、わたしの荒くなっている息が吹きかかります。
「浪前、スマホ借りて良い?」
「うん!」
脂がのった浪前スマホを、わたしが、パン屋さんで、ドーナツを、トングで摘むように指で、持ち上げます。暇つぶしの姫もわたしに寄り添うように、斜め上に頭があり、画像に見入っています。




