ラベルの貼ってないDVDを、学校で渡してたりしたら、周囲から、お色気系DVDをゲットしたと、勘違いされそうです。
「よその家のお嬢さんに何かあったら大変」
自分の娘はスルーかとは、聞き返しません。どうも、母はネエネエ先輩を、買い被っているようです。母が警備会社からリースの、リモコンでセキュリティーをオンにしています。
『共トレ』全年齢サーバー、推奨警備会社で契約しています。
母は、ネエネエ先輩に、リビングのテーブルで、空いている席に座るよう促しています。
「お手伝いできることがあったら、言ってください」
「娘の大事なお友だちだから……、お客様は座っててね」
ネエネエ先輩、まだ、自分の価値を高く見せようとしています。母も、娘の大事な友だちだから、と失言して失礼な気もします。
ネエネエ先輩も、コンビニのバイトや、撃ち合いゲームで、大人の世界に慣れているのでしょう。もし、打算的で抜け目がないタイプで、小賢しい人なら、距離を置きます。
「遠慮は無用。好きな飲み物教えてね」
母がコップやマグカップを、戸棚から取り出しています。
「わたしは、オレンジジュースかホットコーヒーか……」
「お客様が先でしょう?」
わたしはネエネエ先輩と斜向かいで、玄関に近い席に座ります。肩越しに見える母の背中は、まるで、ネエネエ先輩がしっかりしてて、わたしが子ども染みていると語っているようです。わたしは自宅でノンビリしただけなのです。
「すみませんが、オレンジジュースをお願いできますか?」
あるって知ってるのに、お願いできますか、です。はっきり言い切らず、遠慮してます、と猛烈アピールです。母がトレイをもって来ました。わたしは、椅子に座り、足をぶらぶらさせながら待ちくたびれ気味です。
わざわざ、お皿の上にナプキンを敷いて、コンビニサンドイッチを並べてあります。お皿は二つあり、わたしとネエネエ先輩に差し出します。
「わ、おいしそうです」
世渡り上手な、ネエネエ先輩は両手を胸の前で軽く開いて、口の端を上げています。わたしと、ネエネエ先輩の前に、オレンジジュースで満たされたコップも音を立てないよう、置かれます。
わたしは、手前のサンドイッチと、ネエネエ先輩の前にあるのを、見比べます。サンドイッチに挟まれた具は両方一緒で、しかも三個のサンドイッチを、二等分したようです。母の現実における得意技です。
推論ですが、均等に分け切れなかったサンドイッチがあれば、あとで母がこっそり食べるでしょう。
ネエネエ先輩の嫌いな物や、好きな物を前もって把握しなかった。母としては、珍しい初歩的なミスです。ミスは誰でもあります。大事なのはミスをしたあと、どう対応するかでしょう。
残しても良いようにして、また、二人が別の食べ物で不公平にならない配慮でしょう。
「先輩、嫌いな物があったら遠慮なく言って、食べる前に、わたしにください」
まだ知り合って数日のネエネエ先輩が、残したのを食べるのは、不潔な感じがしたからです。
「好き嫌いないの」
「偉い!」
母がキッチンから口を挟みます。シンクに腰を預けながら、マグカップで湯気の立つモノを飲んでいます。ホットコーヒーでしょう。わたしが、ネエネエ先輩をお客さま扱いして、下座に座ったのと対照的な態度にムッとします。
この場で一番偉そうな態度をしながら、ネエネエ先輩を褒めてます。わたしも好き嫌いはないので、とりあえず、サンドイッチを口に運びました。
「うん、近所のコンビニサンドイッチの味がする!」
おいしくて、わたしは声を出しました。慌てて手で口を押さえます。ネエネエ先輩は、わたしをスルーして、サンドイッチを食べています。
「お母さんね、習い事教室で、ケーブルテレビ局の取材があったの。別のコーチが生徒さんと『共トレ』21歳以上サーバーに参加する模様を映してもらうはずだったのね。別のコーチさん、熱でお休みして、急遽代理で出演したの。美容院寄ってから行って大変ごめんね、晩ご飯なくて」
かーっと、わたしの顔が熱くなります。ネエネエ先輩の前で、“お母さん”って言うな。私って言ってよ。普段、わたしが、ネエネエ先輩には”母”と口にしているのに、普段、家で“お母さん”って呼んでるのバレたからです。
「テレビ局の取材ですか?」
ネエネエ先輩は、目をゆっくり限界まで開いています。どうも、演技でなく、本当に驚いたようです。
「そうなの。習い事教室の取材があって、eスポーツ教室も取材されたの。何度も放送されるから、ケーブルテレビの88チャンネルで何度も放送されるの」
「見る! 見るよ!」
わたしが母に返事をしました。言われてみれば、髪の毛は美容院行ったばかりでバッチリ決ってます。仕事前に美容院寄ったのが、分かります。
急な代理だったはずです。予約なしでも、オーケーの美容院さんで、カットしてもらったのでしょう。
最近は塾や習い事は、競合他社さんも増えてます。通販番組のように、一社提供で、情報番組として放送されそうな気もします。番組前半と後半のCMを見てみたいです。母の勤め先の習い事教さんのCMが流れそう。
「先輩、ケーブルテレビ契約してますか?」
「私の家、ケーブルテレビじゃないの」
「たまにお友だちご紹介キャンペーンで、通常より、割引きで新規ご加入キャンペーンを……」
わたしは地元のケーブルテレビ局が月額いくらぐらいからか、教えようとしたのです。口を挟んだのは、母でした。
「録画して娘に渡すから、良かったら見てね」
「はい、楽しみです、勉強になるので必ず見ます。いいなケーブルテレビ」
ネエネエ先輩は俯いてから、お嬢さまを、羨むような、笑顔をこっちへ向けています。母は、うちはうち、よそはよそ、と言いたげな、冷ややかな目でした。
著作権関係の法律で合法か違法かは知りません。わたしは違法なDVDの運び屋代わりか、言葉はオレンジジュースを飲んでいたので、発せません。やっと飲み干しました。
学校で、二年生の教室が人の多い休憩時間に、目立つように行ってやりたいです。ラベルの貼ってないDVDを、渡して気分です。ネエネエ先輩は、周囲から、お色気系DVDをゲットしたと、勘違いされそうです。
ネエネエ先輩は、わたしと違ってDVDを見て、つまらなかったとか、言えない立場でしょう。少し気の毒です。
「先輩、母の出た番組は、無理に見なくても、時間があればで構わないです。お代わりして良い?」
空になったコップを片手に、わたしは立ち上がり、冷蔵庫を開けます。長方形の紙パックのオレンジジュースを持つ手を、母が横目でチラッとわたしの手を見ています。
ネエネエ先輩にもお代わりを出しなさい、と悟りました。
「先輩、お代わりはいかがですか?」
「ありがとう。でも、もうお腹いっぱい。飲めない」
解答は拒否でした。遠慮なく、わたしは、自分のコップに、オレンジジュースを注ぎます。ジュースを半分程飲んで、母に疑問をぶつけます。
「コーヒーだけで、何も食べないの?」
「生徒さんと、朝ごはん、食べてきたから」
うそっぽい。時間として無理がありそうですが、習い事教室も、ケーブルテレビの取材があったら、生徒さんとコーチには、朝の軽食くらい用意しそうです。
どうやら、自分のサンドイッチを買い忘れたか、コンビニさんの棚にあるのが運悪く少なく、あるだけの数を、買ってきたかでしょう。おそらくは、後者でしょう。娘の感です。
ネエネエ先輩が、遠慮するので、自分の分もしっかり買うはずです。済ませてきた。この一言で丸く収めたのです。
「先輩、どうぞシャワー浴びてください。服は脱いだ直後に洗濯して、その間に乾燥させれます。洗濯乾燥機が、高価で高性能なんです。でも、どうか、わたしの家がお金持ちと、誤解しないでください」




