中二の子は、これから危険なマジックをされる側の人みたいで、可哀想でした。
タイル張りの浴槽で声がエコーします。注意したのは母でした。
ギルドNPCの向こう側に浴槽で顔だけをこっちへ向けています。わたしも、湯船で足をつき、水面を揺らしながら、ぼたぼた全身か湯の飛沫を、湯面に零します。
カサカーのギルドNPCたちは、止めたのをわたしの母だと知っているので、ポーカーフェースを貫きます。
湯船の中を歩いて、ネエネエ先輩と中二の子に到着です。考えてみれば、湯船を出て歩けば良かったです。
太もも近くから水滴が垂れてしまい恥ずかしいですが、ネエネエ先輩はスルーしてくれました。
浴槽から、早く出たい、早く出たい、その一念で水の圧力に、太ももは、逆らったのです。
気持ち良さそうに両目を瞑る、ネエネエ先輩の顔だけに視線を固定します。出たいですをアピールします。中二の子、目が吊り上げながら、横目で母を見ています。
中二の子の湯船にある手を見れば、揺らぎながらも、十徳ナイフを持っています。
読唇術を覚えたばかりの人のように、唇が小さく動いています。やや自身の膝に首が曲り、呼気で水面の一部だけが平らになってます。
「あの、その。お姉様とご母堂様が、もしもですが、敵対すれば、私はお姉様に絶対服従します。も、もし必要ならご命令を」
「しまっておいて」
わたしは伝えました。中二の子はコクンと頷いて両足を、もじもじ動かしています。
「ねえねえ、中二の子さん、慣れてないから、そろそろ出ようか? 泳いだのも中二の子さんに、『お風呂恥ずかしくないよー』って伝えたかったんでしょう」
ネエネエ先輩の声、合唱で無理に高音を出してる人のように、多少裏返ってます。
わたしは、『共トレ』で母が怖いのです。母と戦っても勝算が低いからです。
中二の子に背を向けながら、母を見れば、ほかのプレイヤーさんと笑って話しています。安堵しましたが、中二の子、どこから、十徳ナイフを取り出したのでしょう。
裸なのに、十徳ナイフを、隠せる場所ってどこだろう? 胸の谷間? あ、髪の毛かも、でも、おかっぱみたいなショートヘアに、隠せたかもです。
怖いお姉さんは、浴槽の壁のもたれて、両手を広げていますが。顔が笑っています。声を押し殺しながら、中二の子を褒めるように、にんまりしています。
浴室に武器を持ち込むのは、ルール違反ですが、一部プレイヤーから、無法地帯と呼ばれる21歳以上サーバーは、運営さん、浴室まで手が回らないのです。
「先輩には、いつもわたしは見透かされちゃいます」
ネエネエ先輩の勘違いですが、中二の子を気遣った人扱いされて、その場全員からの高感度アップです。
湯船を上がって、たらいで、お湯をかける母も、肩越しに振り返ります。チラッとわたしを見つめ、娘の成長を喜ぶ親の顔をしています。
中二の子が湯船から立ち上がろうとして、水面には、いくつもの波紋が広がり重なり合います。水滴が滴り落ちる、中二の子にネエネエ先輩と二人がかりで、バスタオルで体に被せます。
中二の子とネエネエ先輩は、頬を真っ赤にして、体を小刻みに震わせます。
まるで、中二の子が、大がかりな手品ショーで、マジシャンが観客をステージ上に呼び、これから切断マジックをされる側の人みたいで、可哀想でした。
「ありがとうございました」
服を着終わった中二の子が、スカートの裾を両手で摘んで、おじぎをします。
頭を上げれば長い後ろ髪が揺れ、顔を左右にフルッとさせるだけで、しっかり背中に流れています。羨ましいです。
脱衣所に出て、タオルで軽く水滴を拭き取ります。肌着と服を着て、ドライヤーは省略です。もう、ログアウトするからです。
しっかりアバターを可愛くするおしゃれゲームなら、別です。Tシャツの上に、上衣のボタンを外した迷彩服姿で山小屋の外に出ました。
小高い丘のうえなので、青い空や緑の山や麓が奇麗です。ゲームであっても美しい。
涼しげな風は頬を優しく撫でます。
「ふふっ、お姉様、ご命令を」
振り返れば、中二の子が声音も性格も元通りになっています。
声は低くなり、人相まで邪悪な風に変わってます。服を脱ぐと性格変わる設定なのでしょう。
プレイヤーなら、多人数参加型ゲームと現実で、性格や話し方が違う人みたいなモノです。ネエネエ先輩が、中二の子へ、ウインクしながら、サムアップポーズをしています。ネエネエ先輩、アメリカナイズされたのかな。
「ねえねえ、中二の子さん、私たちプレイヤーだけ、ログアウトするの」
「お姉様方をいつまでも、お待ちし続けます」
大げさです。中二の子は、名残惜しそうな表情をしています。ほかのギルド所属女性NPCも集まりました。男性NPCは、わたしが、手でシッシしてやりました。
横一列に並んで、すごく真面目な顔をしています。ネエネエ先輩が、一人一人と握手を交わすので、わたしもマネをしました。
ネエネエ先輩は瞳がうっすら輝いています。
「先輩、ログアウトしませんか?」
「うん、みんなありがとう」
お礼を言われた“みんな”に、わたしは入っていないみたいです。
ネエネエ先輩は、同級生と口喧嘩をしたあとに、無関係で事情を知らない後輩から、声をかけられたようです。ギルドNPCたちに、手をひらつかせています。わたしも、笑顔を振りまいてから、ガラケー型コンソールを呼び出します。
コンソールのログアウトボタンを、親指でポチッと押しました。
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