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「私も初めてときは、怖くて恥ずかしかったよ」と先輩が言えば、後輩は表情を合わせます。

 新見先生が、真顔で話しながら、筆ペンを走らせています。大学が一緒だった植田監督が、やけに慎重に近寄ります。まるで、スリのようで、わたしは目を光らせます。しかし、両手は自分のズブンのポケットに突っ込んでいます。


「実在する団体名を言うのは好ましくないかな」


 その通り!『共トレ』全年齢向けサーバーなら、ギルド追放を検討される行いです。わたしがギルド長なら、即追放です。

 小学生くらいの子で、たまに学校名言ったり、本名言ったりする子いるんです。

 注意してあげて、直すならともかく、たまに、逆ギレする子もいます。ネットの暗黒面を知らないのでしょう。

 植田監督、スリと疑ってゴメンなさい。


「みんな、おめでたい場なので武器は外しましょう」


 アバターの顔が素顔と違う母が呼びかけます。わたしのように、わたしのマシンガンはレア過ぎて目立ちます。もし、画像がネットで出回っても、詮索されないよう、集合画像に残さない配慮でしょう。


〈コンソール〉


 プレイヤー二十人くらいが、ガラケー型コンソールを虚空こくうに取り出して、武器を消します。対照的に、ギルドNPCたちは、カメラ目線で姿勢を崩さず、表情は笑顔です。

 門番オッサンと視線が合いました。頬がピクピクしています。


「つらいのに笑顔を維持するのが、かいかん……」


 わたしは小鼻に皺を寄せてやります。聞きたくないのです。


「もっと、にらんでさげすんでください」


 イミ分からないふりをして、視線を逸らしながら、肩を竦めます。ギルドNPCの性格設定を、戻し忘れてる。

 多くのプレイヤーにとって、ギルドNPCは扱いが軽いので、設定ミスや設定変更忘れは、あることです。

 新美先生と植田監督が、長い横断幕みたいな紙を伸ばしながら、両端を持っています。『強豪ギルド対戦記念、俺たちを舐めるな』と、ホントに書いてあります。入学式や文化祭は、正門にある看板やクラスごとにある看板でこそ、担当教科、書道の新見先生が活躍を、ご期待したいです。

 はっきり言って、達筆の無駄遣いです。わたしは小学校で書道で段を持っていたのが、知られていました。中学に上がっても、学校行事があれば、クラスで毛筆のプラカード作るときなどに、駆り出されました。書道が得意な子はどのクラスにも一人はいます。 

 ピアノが弾ける子、書道が得意な子、特技のある子は、偶然、各クラスにもムラなく配置されているのです。先生側が作為的に決めてないと信じます。不良の子も、ムラなく各クラスに居たような気もします。


「じゃあ、みんなで集合撮影記念撮影をしましょう」


 新美先生が、セバスチャンにあごで示しています。セバスチャンがカメラを用意していました。三脚の上にカメラが乗かっています。このカメラは課金アイテムです。

 新美先生と植田監督が、一番前で屈んで、横断幕を左右に伸ばしてます。わたしは、母の背中にかくれていました。ネエネエ先輩は首を左右に巡らせています。わたしが先なので当然です。飲食店でも、順番どおりに席に案内されるようなモノです。

 ネエネエ先輩、顔が隠れる場所がないのです。わたしは母の娘だから、予約客のように、母の背中は優先なのです。母もきょろきょろして、ネエネエ先輩が隠れれる場所を探しています。

 怖いお姉さんが、ネエネエ先輩ににじり寄ります。


あねさん、こっちへ」

まないねえ」


 偉そうな口ぶりをしながら、怖いお姉さんの後ろで、自身のブーツのつま先を視線でチェックしているかのようです。

 2つのギルドのメンバーと、わたしが所属するギルド、カサカーのNPCたち、それぞれが整列しました。

 カメラの位置をセットし終わった、セバスチャンも最後尾の列で、一番端の位置に立ち、気をつけをして立っています。ほかのギルドNPCが、互いに顔を見合わせます。集合写真の立ち位置といる、ギルドNPCにも存在する縦社会を、破った英雄でしょうか。いえ、21歳以上サーバーは、アメリカの会社ですから、プライベートでは、上下はないのでしょう。英国紳士ならぬ、米国紳士のセバスチャンが告げます。


「三枚連写で撮影をします。まばたきをお控え下さい。5秒前、4,3,2,1」

 カシャカシャカシャと、弾切れの銃を撃つような音がしました。軍用ライフルなら、三連射しようとして、弾切れな音です。出来上がった画像は、みんなの手のひらに、いきなり出現します。

 集合画像に、わたしもネエネエ先輩も、人の後ろ側に入り、顔が映ってません。怖いお姉さんも顔を、器用に横に向けて、しかも髪で残り半分を隠していました。

 21歳以上サーバーには、ガスマスクがアイテムとしてありません。ガスマスクで顔を隠す方法がないので、怖いお姉さんは、長くても束ねていない髪で顔を隠します。

 セバスチャンは画像を手にして、目をしかめながら、もう一回取り直しそうな気配です。わたしが手招きします。すすっと人の間を縫うように、やってきました。


「申し訳御座わけございません。ご賢察けんさつのとおり、お顔がうまく撮れませんでした……」

「これで良いの」

「はて?」

 セバスチャンは、あごに手を添えながら、考えています。NPCに対して、それらしい理由を考えます。わたしは、銀色の髪近くの耳たぶに、顔を寄せながら、耳打ちしました。わたしは、爪先立ちになります。


「わたしも、先輩も、怖いお姉え、じゃなくて、美しい髪の新副ギルド長も、お強いから、ほかのプレイヤーから、ブロックのターゲットにされないよう、顔は隠したいの」

天上界てんじょうかのお言葉で、私めには、理解の及ばぬことです。畏まりました」


 セバスチャンの後ろ姿を見送っていたら、ネエネエ先輩が耳に唇を寄せてきます。ひそひそ話が多いギルドです。こういうギルドは、経験上、人間関係ギクシャクしていたり、子どもが多かったりします。

 強豪ギルドにして、内緒話が多いのは、レアなケースでしょう。

 ギルドNPCたちは、それぞれが、記念写真を胸に抱えるような風で大事そうにしています。NPC全員が、今にも膝から崩れそうなくらい感激しています。

 泣いてるNPCもいます。


「じゃあ、sスポーツ教室と赤沢二高あかさわにこうの記念撮影が終わったから、シャワー浴びて、流れ解散にしましょう」


 また、新美先生、高校名言った! こういう人信用ならないです。人の群れは、当然ですが、男女に分かれました。

 母率いる対戦ギルドと一緒に、女性専用の山小屋に入りました。内装は修学旅行や家族旅行で行く、ホテルや旅館にあるような、大浴場の脱衣所みたいです。

 奇麗に片付けられ、掃除も行き届いています。フローリングの床に足を踏み入れれば、洗面台が多数並んでいます。現実なら、ピカピカのフローリングに素足は汗がにじんで足跡がつきます。

 友達や、親戚の家ならスリッパを、お借りします。しかし、素足でも床に何もつきません。


 洗面台には、水滴が全く落ちていません。肌に触れる空気からは、湿気さえ感じません。現実でなく、ゲームだからです。

 右側へ顔を巡らせれば、脱衣カゴを入れがずらりと並んでいます。脱衣カゴを、まるで、誰も使ったことがないかのように、等間隔でキッチリ過ぎです。

 斜めになっていたり、小さな染みがある脱衣カゴさえありません。

 試合開始前はロッカールームでした。試合後で変形してがらりと変わっています。わたしは脱衣所でぐいっと伸びをしました。


「うーん、ゲームって感じがして良いな」

「ねえねえ、シャワー浴びおえて、ログアウトして現実に戻ろう」


 ネエネエ先輩は、迷彩服を脱いでます。わたしも、自分が身にまとう迷彩服と、肌着全てを脱ぎ捨てました。

 全裸で、バスタオルで胸から太ももまで包むようにして、シャワールームへレッツゴーです。

 見慣れないNPCの少女がいます。頬を染めながら、バスタオルで胸とおへそを隠して、もじもじしています。対戦ギルドのNPC?


「お、お姉様、あの……」

「はい?」

 

 声で分かりました。中二の子です。ノーメイクになっていたんです。可愛いのですが、性格も含めて、全然別人みたいです。


「は、恥ずかしいです」

「そう?」


『共トレ』で集団で裸になったり、シャワー浴びたりして、わたしは気にしないです。中学の修学旅行でも、同級生に裸見られたくない子いました。

 そうか、中二の子は集団で服脱いでお風呂浴びたりするの、初めてなんだ!

 恥ずかしい気持は分かります。『共トレ』をやり込めば気にしなくなります。誰かが対応するでしょう。力なりたいけど、疲れていますわたしは、スルーして通り抜けようとしたのですが、ネエネエ先輩が立ち止りました。


「ねえねえ、私も初めてときは、怖くて恥ずかしかったよ」


 一瞬ネエネエ先輩の表情が固まりました。もし、笑ったりすれば、私もにこっとします。しかし、ネエネエ先輩には、数秒の無表情と沈黙が舞い降りました。

 わたしは後輩なので、無言を貫きます。もし、相手が下級生や同級生なら、一回だけなら、わたしが笑っても許されるはずです。


「ねえねえ、一緒にシャワールーム一緒に行って上げる」

「――ありがとうございます」


 ギルドNPCのモニカさんに、お願いすれば済むことです。しかし、ネエネエ先輩の手の動きが、かなりぎこちないです。NPCには、優しい人なのでしょう。NPCのしつけがうまいのでしょう。

 無表情で無口なのは、意図せずに、いやらしい言葉っぽいこと口にして下ネタ苦手な方に、ありがちな反応です。しかし、ネエネエ先輩は、カマトトを踏んでいる可能性もあります。


「中二の子さん、一緒にきて」

 中二の子を背中側から、両手で押して、前へ前へゆっくり進みます。中二の子が足取りが重いのです。

 広い浴室に入れば、大きな湯船まであります。湯船の背後には、富士山の絵がペンキで壁に大きく描かれています。

 富士山の両脇では、正座した和服の芸者さんが、三味線を弾いてます。アメリカの方がイメージする日本なのでしょう。改めて、『共トレ』21歳以上サーバーは、アメリカの会社だって思いました。

 でも、お互いさまです。わたしも、アメリカを脳内でイメージして目を閉じます。



 アメリカで都会なら、高層ビルを背後に、ハンバーガーやアイスクリームを歩いて食べてます。キヨスクみたいな建物で、交差点近くの歩道では、新聞を売ってる人がいました。

 アメリカの田舎なら、馬のえさの四角い草の塊を、積んだ大型トラックが、砂煙を上げながら、走っています。

 広い農場をバックに地平線まで、見えます。運転手さんは、カウボーイハットです。青色ジーンズとサングラスは、都市部でも、農村地帯でも、アメリカの方には、わたしとしては、必須アイテムです。



 うたた寝したり転倒したら、HP減るのでまぶたを開きます。

 シャワーだけで済ませたいので、わたしは立ったまま、シャワーを浴びて終わりです。しかし、ネエネエ先輩は中二の子と一緒に、湯船に浸かってます。

 わたしも、笑顔を作りながら、先輩を立てて湯船の端に入りました。ギルドNPCの女性たちは遠慮して、浴槽の反対の隅で浸かってます。退屈で話してみたくなりました。どうせ、現実でないので、バタ足で浴槽を泳ぎます。

 耳に湯が入りますが、ドゴーン、パチパチと音が反芻はんすうします。濡れた手特有の拍手がしました。波間の先では、ギルドNPCのモニカさんたちが、わたしに拍手を送っています。


「やめなさい!」


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