わたしは一肌脱《ひとはだぬ》ぐを、小学生まで、エロいワードと勘違いしていました。
わたしが声に出します。とても奇妙な日本語です。
『21を越えるサーバーは、あなたたちにジャパニーズ拡張パッケージを販売すると公表しました』
親指をポチッと押しながら、機械翻訳をオフにしました。21歳以上サーバーの翻訳能力が高くないのでしょう。いえ、21歳以上サーバーでは、英語力はあまり必要でないかも。
さっきのGMさんも日本語が、大変流暢でした。日本国内で、普段日本で生活しながら、日本語を話している方々が、GMさんをしているかのようです。21歳以上サーバーは運営会社がアメリカに住所がある法人ですが、日本国内に支店でも作ってるのでしょうか。それとも、GMさんは、日本住みで、インターネットにパソコンを接続しあって在宅勤務かも。
日本語、英語両方の拡張パッケージの取扱説明書を、ネエネエ先輩が、セバスチャンに返しました。
空中に出現したガラケー型コンソールで、インターネットで検索して調べます。開かれたページには、新しい拡張パッケージにおいて、ルールの概要が書かれています。有志が作ったページです。21歳以上サーバー公式のサイトは、現時点では存在しません。
ルールが、あまりに、日本向けで現実に近すぎて、目を丸くしてしまいました。
敵を見つけたら、「撃つぞ」と言葉で警告をする言葉望ましいそうです。最初に威嚇射撃をするのが望ましく、しかも、発砲する場合は、腕や足を狙うそうです。
「あのー、先輩、拡張パッケージで遊んでも、つまらなそうです」
「拡張パッケージの売れ行き悪いから、タダでくれたんじゃない。サービス開始後、すぐ過疎化して、無くなりそうな雰囲気がする」
銃のほか、使える武器は木の棒などです。犯罪者退治モードもあるようです。
「先輩、わたしなら、性犯罪者なら、太ももを狙ったことにして、股間を打ち抜いてやります」
「同感だけど、犯罪者退治モード、架空の『闇の勢力』って書いてあるよ」
言葉を濁したような感じがあります。犯罪者退治モードで所属する法執行機関は、実在する団体とは一切関係ありません、とも書いてあります。『共トレ』推奨ゲームパソコンは、ともかく、ログイン時に推奨している、警備会社も一切関係ないのでしょう。
「先輩、カラーボールも投げれば良いのに」
「選べるよ」
「え?」
皮肉交じりで言ったのですが、銃以外の装備を選べるようです。ペイント弾発射装置もあります。日本の銃刀法で禁止された武器は使わず、犯罪者退治モードをするそうです。
こんな現実な社会を思い出すような、拡張パッケージは、わたしはプレイしたくありません!
『共トレ』は現実と、かけ離れているから楽しいのです。大怪我か死ぬような、片腕を水平に伸ばして、ライフルを構えて撃ち続けれるのです。
銃の先が上下左右に揺れながら、腕が軋みそうになり、プレイヤーの表情まで、苦悶に満ちて、脂汗まで額に流れるのです。
見た目がカッコウ良いから人気のある撃ち方です。
HPが減り、課金アイテムでHPを補充しながら、雄たけびを上げ、腕を伸ばして、乱射するくらいが、ゲームらしくて楽しいのです。
「ご歓談中申し訳御座いません。再現ドラマの特典映像の続きを再生しても宜しいでしょうか?」
「セバスチャン、シャワーシーンなしでお願い」
「脱衣所のシーンは宜しかったでしょうか?」
「省いてよ」
セバスチャンに、ネエネエ先輩はつんのめりそうになりながら、言い合ってます。はたから見ていると、ネエネエ先輩、冷静な声ですが、伸ばした腕をグーにして、ムキになっていました。
「畏まりました」
イチイチかしこまらなくても良いんですが、特典映像がどうなるのか、ワクワクします。わたしとネエネエ先輩は、椅子に座ります。地面埋め込み式モニターを俯いて見ます。
わたしたちの周囲を、ギルドNPCが、ボディーガードのように、かこみます。
***
特典映像が再生されました。わたし役のモニカさんが、森林で私服でジーンズの男性から、花束を受け取ってます。
「演じさせていただき、光栄です」
指で涙を弾きながら、カメラ視線で話しています。どうやら、クランクアップの花束贈呈みたいです。面倒なので、早送りして欲しいです。
わたしはゆっくり瞼を下ろします。腕を組みます。寝てはいないけど、目は閉じて、しっかり聴いている演技をします。
母役をした中二の子がうえーん、と言う謎の泣き声や、ネエネエ先輩役のメイドの声が流れます。どれも、演じさせてもらえて、光栄だったという感謝の言葉ばかりです。
眠い、眠い、まぶたが重い。
***
パチパチパチ!
大勢の拍手がします。その音で目が覚めました。びっくりして、顔を上げます。出そうになった欠伸をあごに猛烈に力を入れ、我慢しました。奥歯にギリッと音がします。鼻が膨らみ、鼻毛が出てないか心配です。
ネエネエ先輩とわたしは、拍手をしながらも、足に力なく立ち上がりました。
母や男性陣が集まっている、遠くの山小屋を見ました。大半の人はだらけた雰囲気ですが、数人だけが会話しています。母の顔は、そろそろ、お開きにしたいけど、言い出すのが私では嫌だ、と語っています。娘としての経験による判断です。
お喋りばかりしていて、皆が買えるときに、飲食店さんの座敷で全然食べてないグループのお客さんみたいです。
わたしが行けば、多分、話を切り上げることでしょう。ここは娘として、一肌脱いであげたいです。
ちなみに、一肌脱ぐを、小学生まで、エロいワードと勘違いしていました。
「先輩、男性陣と合流しませんか?」
「うん、行こう」
突然、先輩が手首を握ります。つまづきそうになりながら、歩みを合わせます。肩越しには、執事のセバスチャンを筆頭に、ギルドNPCたちが、ぞろぞろ、優勝パレードのようについてきます。中二の子はゴスロリ衣装。メイドたちは、メイド服。まるで仮装行列のようです。
わたしとネエネエ先輩は、迷彩服で決めてます。中二の子は、薄笑いをしています。母をのぞく、対戦相手のギルドメンバーさんを、無機質で小悪魔的な視線を投げています。
ここはネエネエ先輩に憎まれ役を振ります。何度か中二の子に、わざと振り返りました。ネエネエ先輩の、不思議そうな視線が私へ揺れました。
「先輩、対戦ギルド戦から、ほかのサイトで悪口書かれたりしたら、嫌ですね」
ネエネエ先輩も後ろを振り向いてます。回れ右をしてから、立ち止まりました。わたしも、え、どうしたの、と言った風で歩みを止めます。ネエネエ先輩は、両手を口の前で、メガホンのようにしています。
「ねえねえ、あとは、シャワーを浴びてギルド戦終了」
「ねえねえみんな、対戦相手のギルドに失礼にならないようにしようね。撃ち合いは恨みっこなし。試合が終わったら、ノーサイドだよー」
わたしは、ネエネエ先輩の隣で、納得したように頷きます。再び、みんなで、固い土の道路を、歩き出しますが、中二の子は、クククと喉が揺らして、不敵な態度です。メイドさんたちも、にこにこ、景色を眺めたりして、まるで散策です。
このギルドNPCたちのまとまりの無さは、情けないです。先生に引率されてるみたいです。わたしの保育園児時代を思い出させます。
***
わたしが、保育園児の頃、両親が新築一戸建てで、今の家を建てました。通っていた保育園近くのマンションから、今の家へ引っ越したのです。ちょうど、弟も保育園に入ったばかりの年です。
後で両親から聞いた話では、わたしが保育園に通っていたので、転園しない範囲で引っ越したそうです。当時の光景が歩いて近所の子や保護者と一緒に、集団で保育園に通っていたことが、薄く記憶に残ってます。
まだ、アパート住まいの頃、母が、わたしと弟に聞いてきました。
「保育園のね。おともだちや先生とお別れしたら、さみしいよね?」
異なる選択肢を示さない、誘導尋問でした。わたしまでが、適当に相槌を打たされました。わたしは、お気に入りのテレビ番組を見たいので、つまらない話を切り上げたかったのです。
ところが、弟は泣きそうな顔をしていました。
「さみしいよ」
とかほざいていました。大人の都合で、誘いの隙にのったのでしょう。鸚鵡返しで、答えてしまったのです。つまり、誘導尋問でした。




