GMとの交渉には、強気な演技も必要です!
強気に出るための準備です。お金持ちっぽい、ケレン味のある言い方をしました。腕組みをしながら、品定めするかのように、ブーツから顔まで見上げます。
「GMタネガシマさまが、口にするのも憚られることを、わたしたちに言ったのは、ご存知?」
「プレイヤーさまに、ご不快を与える発言。絶対に、あってはならないこと。申し訳ございません」
「あら? 謝って欲しいってわたし、言ってませんわ。要望があると部下から聞いてないのかしら?」
「部下のGMバズーカより、ご要望があるとは、聞いております」
GMミサイルさんに近づきながら、周囲を一周します。GMミサイルさんの前に出たとき、指をピンと立てながら、立ち止まります。
「内部連絡が悪い職場かと思ったわ。それは置いておいて、一つ目の要望、上司であるGMミサイルさんから、部下の佐藤さんたちに注意」
「はい」
頷きながら、渋い顔をしています。強く出るなら今!
「要望二つ目、拡張パッケージ出るわね。スゴく興味あるの」
「21歳以上サーバーのトップページからのダウンロード販売となる、アレをですか……、ありがとうございます」
GMミサイルさん、大げさに目と口を開いています。わたしが、タカってるみたいになってます。
ゲーム内トラブルは、法律も守りますが、世論を味方につけることが大事です。辺りを見て反応を窺います。
整列したNPCたちは、セバスチャンを始め、全員がわたしの言葉を、ごもっとも、と納得した顔をしています。ギルドNPCはGM神と呼びながらも、ギルドメンバーの味方です。
中二の子に至っては、大樹から、スカートのままGMミサイルさんの背後に、飛び降りました。ゴスロリスカートの裾を揺らしながら、GMミサイルさんの背後から動きません。わたしが、武器を渡して、「やって」と指示すれば、GMミサイルさんを、ためらいなく無表情で倒すことでしょう。
中二の子は、血に飢えたヤバい少女みたいに、上唇を舌でペロリと舐めました。
情けないのは、ネエネエ先輩です。俯いて、勢いを失くしています。GMミサイルさんから、小刻みにステップを踏みながら、ダンサーみたいに、後退りしています。
先生に怒られてる生徒みたい。しかも、過去の不良行為を、弱みとして握られてるように小さくなってます。
現実では、後ろ歩きは、練習しても危ない行為です。わたしなら、足が絡みかけますが、ゲームでは余裕で、できます。わたしは、ネエネエ先輩の横に、颯爽と立ちます。メチャクチャ小さな声で、顔を正面に向けたままで、話します。
「先輩、生まれてから今まで、やましいことが、一つもないかのように、仁王立ちしててください」
「まだ、くすぐったくて、頑張る」
この技は、『共トレ』のお店でカウンター担当の店員さんが、隣の店員さんに仕事話を、しているのを参考にしました。雑談してサボり、と勘違いされない配慮なのでしょう。
ネエネエ先輩は、腰ベルトに片手を当てていますが、もう一方の手が襟をいじってます。眉をハの字にして、表情筋が締まらず、背中がかゆい人のようです。
わたしが、中二の子にバールをブーメランのように投げれば、孫の手代わりに、ネエネエ先輩の背中を、かいてくれるでしょう。
手をズボンの線に合わせながら、GMミサイルさんと正対しました。
「わたしは目に見える形での、謝罪を求めているの!」
「必ずや、プレイヤーさまに、目に見える方向にGM対応を改善いたします。心ばかりの品ですが」
いきなりポケットがら振動と音がなります。手を滑らせれば、ガラケー型コンソールがあります。メールの着信があり、拡張パッケージのシリアルナンバーが送信されていました。拡張パッケージを、再現ドラマに課金された三人分くれたそうです。硬い文名のメールで面倒なので読み飛ばしました。
「GMでも、上司の方が非を全面的に認めてくださり、許します。これからも、楽しく『共トレ』21歳以上サーバーでプレイさせてもらいますわ」
「本当に申し訳ありませんでした」
一礼してから、GMミサイルさんは消えました。立っていた場所に靴の跡さえありません。
GM専用のアバター、少し羨ましいです。さすがに、GM専用アバターは、プレゼントしないでしょう。
「ちっ、運の言い奴! お姉様に許してもらったのを感謝なさい。ふふっ」
中二の子が、悔しそうに目を鋭くしています。現実で同じ学校なら、絶対、わたしからは、関らないタイプです。
ギルドNPCなのに、少しわたしの権威を笠に着ているような気もします。学校の部活動なら、上級生に取り入り、にブックマークじゃなかった……。お気に入りになって、実力と関係なく、威張ってるみたい人みたいです。
中二の子は、取り合えず、放置で良いでしょう。
「以上、自由に発言しました。自由に発言させてくださったことを、先輩に感謝します」
「ねえねえ、いつも自由に発言してるじゃ……、ううん何でもないよ。GMさんと話し合いしてくれてありがとう」
右向け右をして、ネエネエ先輩に一礼します。頭を上げれば、ネエネエ先輩は、ガラケー型コンソールを手にしています。
人が頭を下げてるのに、スルーされたようで、やや不愉快です。
コンソールのモニターを覗き込んで、うーん、とか、逡巡しています。悩んでる。人が謝ってるのに、ざまーみろ、そういう感情も、数秒だけ湧き上がりました。マイナスな感情は、すーっと消えるものです。
「ねえねえ、拡張パッケージ、本当にもらって良いのかな」
後輩に自由に発言させておいて、結果に文句を言われたみたいで、また、微かにイラッとします。冷静かつ、敬語で応じます。
「心ばかりの品だから、良いです」
「そうそう、そこなのよ。簡単にくれ過ぎ」
ネエネエ先輩は、訝しげに表情が曇っています。素直に感謝しない、ツンツンしたタイプなのでしょうか。ギルドNPCの前で、ありがたく頂戴したら、自分の権威が、傷つくと、深く考えているのかもしれません。
救いの手ならぬ、救いの言葉を差し伸べましょう。
「わたしは『キョーミがある』とお伝えしただけです。欲しいとは、言ってません」
「分かってる。でもね、拡張パッケージの内容知ってるの?」
知らないです、が、わたしのメンツがつぶれるので、唇を結びます。わたしは、調べるためにセバスチャン目で合図をします。耳たぶ付近の髪の毛を手で書き上げながら、余裕振ります。
「セバスチャン、拡張パッケージについて、説明して」
「恐れを多いことながら、こちらに、天上界の言葉で、詳しく書いてあるそうです」
「えー、これ再現ドラマの魔導書じゃん!」
セバスチャンが二冊の分厚い本を両手で差し出しました。重そうですが、先輩が一冊、わたしも一冊受け取ります。カバーは、再現ドラマで見た魔導書です。電話帳並みに思い、黒い魔導書をわたしが、開きました。
表紙だけは、ルーン文字と呼ばれる、ファンタジー系で見かける魔法の文字が書かれています。
黒いブックカバーをペロンと外しました。
『拡張パッケージ取扱説明書』表紙は、見慣れないフォントの日本語で書かれています。
まるで、外国の工場で日本向けに生産された衣服の、タグに印刷された日本語みたいです。
ページを指で弾くと表現するのは無理があります。説明書がとっても重いです。片腕で持ち、空いてる手でページを開くのに必死です。




