GMさんが失礼な対応をして、クレームを入れたら、上司が直接謝りにきました。
「ケレン味を、先輩ははったり、ごまかし、とハッキリ言いました」
「確かに、言ったけどそれは……」
ネエネエ先輩は、テレビドラマで、自供した犯人のようにうな垂れています。わたしが悪を倒す、刑事役みたいです。わたしって、格好良い。ん? でも、ネエネエ先輩、悪いことしてないので、少し違います。
「先輩、2時間刑事ドラマが放送されて、最初から見ることありますよね?」
「あるよ?」
ネエネエ先輩は上目遣いで瞳がきょろきょろしています。小学生で例えれば、わたしとネエネエ先輩がいたずらをしたとします。先生に、「誰がやったか知ってる人は正直に言いなさい」と疑われたのです。質問されて、互いに相手まで先生に、怒られると思っているかのようです。
どんなに先生の追及が厳しくても、友だちに迷惑かかるのが嫌で、口を割らない、いえ、正直に話したくても言えない立場です。こういうとき、先生は一番落ち着きのなさそうな子に重ねて質問をしたりします。
自由に発言して良いのです。強く出るなら今です!
「2時間刑事ドラマでは、2時間以内に、なぜか、事件の犯人が捕まります。先輩の言うケレン味でしょう」
「ねえねえ、ドラマは時間内に終わるように脚本……」
む、自由に言わせず、反論してきた。先輩だからヨイショしながら、接したはずなのに。こういう先輩には、つい、言い返してしまいますよ。
「スポーツ中継は、試合が時間内に終わらないことあります。つまり、ドラマは良い意味でやらせなんです。つまり、再現ドラマも一緒です。やらせイコール、はったりなんです。どう思うセバスチャン?」
「はて? 私めに、何かご用で御座いましょうか?」
セバスチャンは、わたしとネエネエ先輩のやり取りから、視線を逸らしてました。耳のイヤホンを指で押して、GMからの連絡でも聞いてたかのようです。GM呼んでないのに、演技ってバレバレです。
わたしが声かけしたら、不思議そうな表情の顔をこっちへ巡らしています。
学校で友達同士が少し言い合いになり、理由を知ってるのに、「私がいない間に何かあったのかな?」とか言う、わたしを鏡に映っているようです。
セバスチャンの要領の良さは、認めます。でも、スルーされた当事者の側に立てば、腹が立ちます。
「とぼけてるってバレバレでやめなさい。セバスチャンGM呼び出して」
「申し訳御座いません。GM神に寄れば、プレイヤー様は、コンソールでGMコールをしてください、とのことで御座います」
「コンソール」
わたしが叫べば、ガラケー型コンソールが鼻先に浮かんでいます。引っ手繰るようにしながら、GMコールのボタンを押しました。
ネエネエ先輩にも聞こえるよう、音量設定は最大にしてやります。わたしは顔の前でトランシーバーのようにしました。
〈GMタネガシマです〉
「課金した再現ドラマのことで質問です」
〈ギルドの再現ドラマの件は、ギルドNPCの、執事の人、えーと、セバスチャンでしたっけ、NPCにお尋ねください〉
たらい回しになる。わたしは、瞬時にキーワードを追加します。
「追加料金、お支払いたいんですが、どうしたら良いのでしょうか?」
少々お待ちください〉
ガサガサ、とノイズがします。GMタネガシマさん? 中の人が誰かに聞いてるようです。
〈再現ドラマの追加料金って、どう操作するのでしょう?〉
〈教えたでしょう! 最初に料金プラン出したのかよ〉
GMタネガシマさんの上司みたいな、中年男性の声まで聞こえます。感じ悪いです。わたしは待ちくたびれた人のような、気だるい声を意識します。
「まだですかぁー」
〈お待たせしました。もうしばらくお待ちください〉
待たせる気か。む、むかつく。言い返してやります。
「それじゃ、分かる人を、今すぐ出してくださーい」
〈少々お待ちください。すみませーん、佐藤さん。プレイヤーがしつこんですよ〉
〈それぐらい一人でやれよ、全く〉
超むかつく。
〈大変お待たせしました。GMカービンでございます。タネガシマに代わってご案内申し上げます〉
あ、佐藤さんと呼ばれていた人の声だ。
とても丁重は話し方です。さっきの声、聞く前なら、GMカービンさん、素直に良い人だったんです。
「佐藤さん、再現ドラマでシャワーシーンで、自分役が出るのが、嫌だって言うギルドメンバーさんがいるんです。何とかならないですか?」
〈申し訳ございませんが、利用規約にあるとおり、プレイヤーさま間の取り決めや、トラブルには、21歳以上サーバーの運営は、一切かかわらないりません〉
「佐藤さん、トラブルじゃないです。シャワーシーン、追加料金払いますから、変えて欲しいんです」
〈畏まりました。どのようなご希望でしょうか〉
「佐藤さん、料金プランないんですか?」
〈まず、お客さまのご希望をうかがってから、料金を提示させていただいて……〉
お寿司屋さんなら、時価のようなモノでしょう。安そうな希望から言うことにしました。
「佐藤さん、全裸はなしにして欲しいんです」
〈全裸は最初からございません。光や湯煙で隠しております。追加料金は、いただきません〉
あのなー佐藤さん。それを世間では、全裸って言うんじゃないんですか? 喉で言葉を止めれました。自分を褒めてやりました。
「佐藤さん、女性プレイヤー役は、せめて水着を着て欲しいんです」
〈つまり、大浴場で水着姿で戦闘をしたいんですね?〉
〈佐藤さん、大浴場で全裸で撃ち合いしたら、企画モノのエロDVDみたいですね、あははははっ〉
GMタネガシマのやーらしい、笑い声が聞こえる。苛立ちを隠せず怒鳴りました。
「佐藤さん、GMタネガシマさんの聞こえてた。企画モノのエロDVDってどういう意味ですか?」
〈え?〉
不意にマイクをトントン叩いたような、ガサガサ音がして、こっちの耳が痛いです。咄嗟に両手で耳を塞ぎます。ガラケー型コンソールは虚空に浮かんでいます。ネエネエ先輩も顔をしかめながら、耳を指で押さえていました。
ガラケー型コンソールが七色に光ります。これは、GMの偉い人が、直接アバターで現れるのです。21歳以上サーバーでは、初めての経験です。
迷彩服を着崩さない、二十台のイケメン男性が出現しました。頭上には“GM”と表記されています。
「大変失礼しました。担当者が直接お詫びにうかがいたいと申しております」
「ねえねえ、GMさん。あなたは、GMタネガシマさんこと他称佐藤さんや、GMカービンさんと同一人物じゃないですよね?」
ネエネエ先輩に先を越された。手を後ろ手にしながら、眉を吊り上げています。
「ふたりの上司で、GMバズーカと申します」
わたしが応じました。
「上司の証拠を見せてください」
「証明の方法はございません。お客さまに信じていただくしか……」
「お客じゃなくて、プレイヤーでしょう」
言葉尻も取っておきます。こっちの怒り度を高めに伝えるためです。
「仰るとおり、プレイヤーさまでした。重ね重ね……」
ネエネエ先輩がイケメンGMに踏み出しました。
「ねえねえ、ちょっと私が話すね。GMバズーカさん本題に入ります。さっきの発言、失礼な発言を、ここに居るみんなに謝ってください」
「皆様、本当に申し訳ございませんでした」
「佐藤さんと呼ばれていたGMタネガシマさんの、ひわいな発言です」
「申し訳ございません」
ネエネエ先輩、やらかしちゃった。言葉で謝罪じゃなくて、ガラケー型コンソールのメールでなら、形が残るのに。
そもそもネエネエ先輩の要望は、運営さんに、”謝罪を求める”だけで終わってしまいます。
わたしが運営さんの立場なら、謝罪しておしまいです。だって、それが相手の要望だからです。
イケメンGMは深々と頭を下げっぱなしです。わたしにまで、ペコペコしてます。ここはネエネエ先輩とバトンタッチです。わたし自らイケメンGMと話すべきです。息を大きく吸ってから、思いっきり吐きながら声を出します。
「あなたの上司を呼べ! 上司になら、わたしからの要望を言ってやる」
ネエネエ先輩の背後に忍び寄り、耳元に唇を寄せます。わたしが、唇を開けば、怒りによる殺気のこもった息が、突風のように出ちゃいました。
「ふぇ? ひゃはっ、ねえねえ、びっくりさせないでよ。耳に息吹きかけられると、くすぐったいときあるの」
両腕で自分を抱きしめながら肩を揺すって笑ってます。ネエネエ先輩は、目つきは鋭いのに、頬を綻ばせています。イラつきを隠しながら、言葉や表情に、しっかり愛嬌がある善良な方みたいです。
「先輩、わたしから要望を言います」
「どうして?」
ネエネエ先輩が、トラブル対応慣れしてない、などとは、とても言えません。わたしは、子供の頃から周囲の人から足を引っ張れ、迷惑をかけらました。不協和音を巧みに解決する、険しい人生を歩んできたのです。
「ここだけの話ですが、運営の裏事情に詳しいからです」
ウソです。全然、運営さんのこと知らないです。
「じゃあ、バトンタッチお願い」
わたしは、ほくそ笑みました。表情を隠すように、胸を張りながら、前髪を手で横に流します。気を付けをしながらも、視線を落す。GMバズーカさんに顔を巡らせます。
「要望その1。上司を呼んで」
「はい」
GMバズーカさんは煙のように消えました。入れ替わりに、迷彩服のイケメン男性がまた現れます。
「お待たせしました。GMミサイルです」
「ほんとにお待たせね」




