やっと、地面埋め込み式モニターを囲んで、やらせみたいな再現ドラマを見ます。
ネエネエ先輩に促されるまま、撃ち合いコインモニカさんに差し出します。モニカさんの羨ましいほど白い手から、ふわっと撃ち合いコイン二枚が消えました。
マジシャンのアシスタントの定番は、バニーガール姿です。わたしはマジシャンになった気分です。
「さきほどの課金と、撃ち合いコイン2枚分で再現ドラマを再度作り直します。少々お待ちください」
待てモニカさん! さっきの課金の撃ち合いドラマはどこ行ったの。比較動画欲しいわ。ネエネエ先輩は、やっと肩の荷が下りたと安心顔です。
「先輩、比較動画とかで、完成度を確認しないんですか?」
「うーん、そう、今回は私が脇役でいいかな」
わたしの話を聞き逃してる。ネエネエ先輩は、頬に指を沿えながら、首を傾げていました。モニカさんがわたしと、ネエネエ先輩に一礼しています。
「再現ドラマ、完成いたしました」
「モニカさん、わたしが課金して作成して、先に完成した、再現ドラマはどうなったの?」
運営との連絡用、片耳のイヤホンを押さえながら、モニカさんが告げます。
「GM神に寄れば、ネットセキュリティーや、個人情報保護の観点から、完全に削除したそうです」
「ねえねえ、相変わらず、21歳以上サーバーの運営さん強引……」
ネエネエ先輩が運営さんの悪口言った。わたしは大人なので、肯定も否定もせず、ネエネエ先輩に目を瞬かせます。ネエネエ先輩、はっと我に返ったようです。
「ねえねえ、セバスチャンやNPCメイドさん、NPC女性兵士さんたちと、みんなで観よう」
折りたたみ椅子が、わたしのネエネエ先輩に用意されます。NPCは気をつけしていました。地面埋め込み式モニターを、囲みます。
まるで、中学の修学旅行ひとコマです。ナントカタワーに上がって、展望台で床の一角が、強化ガラスになっていったんです。そこから、地面を覗いているわたしのいたグループのようです。
怖い! とか叫びながら、わたしに抱きついてくる女子の同級生もいました。ワー余裕ジャン! とか褒められました。わたしは、現代芸術で床に、写真みたいな絵が、貼ってあるだけだけと、勘違いしただけなんです! 帰りのエレベーターで、ガラス越しに、とてつもなく下を見ていたと知りました。友達が、展望台の高さが、何百メートルとか話してて、頭がくらくらして、気分が悪くなりました。
***
再現ドラマのオープニングが始まりますが、あれ? アニメ版『共トレ』のオープンニング曲が流れません。
いきなりわたし役のモニカさんが、更衣室で着替えています。隣に立つ、NPCメイドさん、身を隠すのは、大きいTシャツ一枚だけです。太ももが露出してます。かーと頬に熱がこもります。
脱ぐんじゃない? 嫌な汗がわたしの額に噴き出しします。わたし役は、灰色迷彩服の上衣のジッパーに手をかけます。
「ギルド副長さま、戦闘服のバニーガールに着替えます」
「うん!」
わたし役が、笑顔で応じてます。NPCメイドさんが、Tシャツに両腕をかけ、一気に服を脱ぎました、一瞬、チラッと、パンツとブラジャーが映ったようです。カメラは素早く、わたし役にスライドします。
イヤーな予感がして、わたしの頬の輪郭を汗がつたいます。
「装備、異常なし」
わたし役は、鏡の前できちんと、肌を隠しながら、着こなしていました。鏡の前で、迷彩服姿で、くるっと回転しています。鏡には、また、下着姿のNPCメイドさんが映った気がします。
ネエネエ先輩役が、わたしの背後からポンと肩に手をかけます。
「ねえねえ最後の戦い、行こうか」
「先輩、わたし怖い……」
あろうことか、わたし役が両腕で、自身を抱きしめながら、震えています。ネエネエ先輩役が、背後から胸を押しつけながら、両腕が肩に回されます。
「ねえねえ、心配ないわ」
「せ、先輩」
頬を朱色にしたわたし役が、顔を横に向け、先輩の唇と引っつきそうです。恋人みたいに密着していた二人はやっと離れてくれました。怖いお姉さんは、許可取ってないので出演していません。
過去に撮影したドラマで、不届き者が出たとします。出演部分がカットされたようなモノでしょう。
オープニングが始まりましたが、アニメ版『共トレ』のエンディングに流れる曲です。構成は、まるで、アニメ番組の最終回のようです。
歌手の方は、アニメ版と違います。音域が似てる方ですが、お名前を存じない方です。いわゆるカバー曲です。やはり権利関係など大人の事情もあるのでしょう。21歳以上サーバー運営さんは、多くのことをリーズナブルに済ませています。
いきなり、地平線まで続く、一面の雪景色。森がアップになりますが、枝木には雪が積もってます。不自然なくらいな、均等な間隔の木々です。冬景色なのに、木々を色どるのは、新緑のような葉です。
不意に枝木が揺れ、白い雪の塊が雪面に落ちます。まるで、枝切りバサミでや棒で突いたような人為的な雰囲気です。
無限軌道の音が微かにします。森の木々から鳥が集団で飛び立ちました。突然、戦車が何十台も、木々の間から、現れます。戦車の数にあわせて、事前に、作りモノの木が配置されてたかのようです。
『共トレ』に乗り物として、戦車ネーんだよ。しかし、戦車を破壊するミッションや、動けない設定の戦車が、出てくるマップはあります。
動かない戦車の中に入れますが、そこに隠れるのは、死亡フラグが立つのです。
小高い丘の上では、腹ばいに寝そべりながら、わたしとネエネエ先輩がいました。迷彩服の上に、白色防寒着を着こんでいます。あれだけ森に積もっていた雪は、陸の上では、僅かしかありません。積雪量が違うかのようです。
ネエネエ先輩が双眼鏡を覗いています。腕だけを動かして、すぐ横のわたしに。双眼鏡だけ渡します。わたし役は顔を固定して、手で受け取った双眼鏡を覗きます。
「ねえねえ、敵戦車の数、何台って数えた?」
「先輩、敵の戦車は、十五台です」
「うんうん、わたしと同じ」
さっきは何十台も映ったのに、数が減っています。ギルド戦の基本人数、十五人と合わせたのでしょう。二人とも、白い息を吐きながら会話を交えます。まるで、暖かい室内で、アイスクリームをひと欠片、口に放り込んでから、話しているようです。
BGMは、アニメ版『共トレ』のエンディング曲が、一番が終わり、間奏に入ります。
「攻撃開始」
わたし役が、黒いトランシーバーを取り出して、誰かに命令します。トランシーバーは、どこにあったのでしょうか? 双眼鏡はなくなってます。顔がしっかり映るよう、トランシーバーの送話口は、頬から離れています。
試合では、トランシーバーじゃなかったのに。双方向通信可能な、イヤホンつけてるだけです。
実質、『共トレ』では、イヤホンは飾りです。外すしても通信可能です。また、通信アイテムの外見は、ヘッドフォンにすることもできます
小高い丘からカメラが引いて行きます。わたし役とネエネエ先輩役の背後では、ヒュンヒュン風を切るプロペラ音が、聞こえた気しました。ヒュンヒュン音が少しづつ大きくなりました。ヘリが垂直に上がってきます。丘の裏側に隠れていたのでしょうか?
プロペラ音があれだけ小さいのは、現実では考えづらいです。
いきなり、カメラは青空を高速で飛ぶ、ヘリを側面から映します。わたしとネエネエ先輩はスルーです。
ヘリの見栄えは、格好良いです。しかし、別の場所で撮影したみたいです。
不意に、ヘリから、ロケット弾みたいなのが、発射されました。
画面が切り替わりました。雪の上を走っていた戦車が、爆発しています。吹き飛ぶ破片の色は、全て緑色です。
エンジンなども含めて、最初から、緑色の素材で作ってあったのでしょう。
無残に無限軌道と、床面の板を残した戦車は、丸い火柱を上げて、炎上しつづけています。
いきなり、ネエネエ先輩役がアップになります。長い睫毛は白く凍りついてます。トランシーバーに余裕の表情で、話してます。カメラが目を話している隙に、わたし役のモニカさんから奪ったのでしょうか。
「お疲れさま。後はわたしたちに任せて」
「こちらヘリパイロット。ラジャー。グッドラック」
パイロットのくぐもった声は、高い音域を作ってますが、セバスチャンと同じ声です。
ヘリ帰るなー。あと十四台も敵戦車いるんだよ。全部、ヘリで倒せば良いジャン。アニメ版のエンディング曲は、二番が始まっています。
スキー場のような場所で、女性兵士NPCさん、武器を持って、整列しています。
雪景色に、バニーガール姿の場違い感は、ハンパないです。しかも女性兵士NPC、緑の迷彩服。白い場所で超目立つ! しかも、メイド三人組の残り一人はどこへ行った?
わたし役のモニカさん。ネエネエ先輩役のメイドさんが、立ち上がりました。
二人はスキーを装備して、急な斜面をジグザクに滑降しながら降りて行きます。『共トレ』にスキーありません。もしかしたら、今後、ログインしたら実装されるのかもです。
BGMは、アニメ版『共トレ』の二番の歌詞が終わりました。二番を聞いたのは初めてですが、良い歌詞でした。
わたしたち役二人が、森に入れば、すでに穴が掘ってありました。やはり怖いお姉さんは存在しません。ドラマの撮影終了後に、不祥事を起こて、合成で消されたタレントさんみたいです。
スキー板はもう、持ってません。NPC女性兵士さんは、後ろで、スキー用具を外しています。
「フォーメションDです。女性陣はここを守ります。フォーメーションDは防御向きです。男性陣は別の場所で陣を取ってます」
わたし役がトラシーバーを耳に当てながら、空いている腕を水平に伸ばして指を指しています。どうしてこのポーズをする必要があるのか、理解不能です。
タキシード姿で初老紳士、セバスチャンが雪の中を走ってきました。粉雪が足元で舞い散りますが、革靴も、ズボンの裾も濡れてません。まるで、数ミリの球形状、発砲スチロールの上を走っているようです。 肩に乗った小麦粉のような、粉雪を手で払っています。
彼が穴の横で、片膝をつきます。
「卑劣にも敵は、あろうことか戦車で攻撃してきました、男性陣さまは、全員お倒れになりました」
「わたしたちだけでやる!」
わたし役のモニカさんが、立ち上がり、白い防寒着のベルトのバックルに手を置きます。防寒着を脱ぎ始めました。外で脱ぐなー。
カチャカチャ、バックルを両手で鳴らしています。両膝を交互に擦らせながら、防寒着のズボンがバサッと音を立てて、足元に落ちます。
下に着ていた、迷彩服のズボンをお尻付近を、カメラが映してます。両足を広げて、その間から、雪景色の木々が見えます。
カメラの目線が気になります。
灰色を貴重とした迷彩服姿になります。体のラインが、やけに強調され、ピッタリしてます。そもそも、対戦相手のギルドさん、戦車でなく、わたしの母がマテリアルライフルと呼ばれる、長距離から撃てる銃で倒したのです。
「ヘリ聞こえる? わたしの1/2tトラックを持ってきて」
1/2tトラックってどっかで聞いた。あ、さっきわたしが、ネットで陸上自衛隊さんのホームページを、調べて知った、小型四輪駆動車の呼び方です。
近くにある、枝木から雪が飛び散ります。わたし役の顔に触れて、体温で雪は水滴になったようです。霧吹きで、顔に水を拭きかけたようになってます。
わたし役は風で、髪が背中を横に流れ、頭を押さえています。
上空を見上げれば、ヘリから1/2tトラックなる、オープンカータイプの、小型四輪駆動車がロープで吊り下げれています。さっき、ヘリパイロット、グッドラックって言ってたジャン。もう、戻ってきたの。ヘリから、ロケットで、敵を倒せば手っ取り早いのに。
へリの操縦が巧みだったのでしょう。四本のタイヤが雪の上で接地しましたが、ロープは見えても、ヘリは画面の上です。
まるで、クレーンで吊り下げたのを下ろしてようです。駆け寄ったわたし役が、小型四輪駆動車の荷台に立ってます。
四輪駆動車や周りの雪原を覆う影が、ヘリを下から見た形をしています。太陽と陰の位置関係は、ヘンです。
わたし役は、ロープをを外しながら、親指を立てます。ヘリからも吊るしたロープが落されたのでしょう。長いロープが、が小型四輪駆動車の近くにバサッと落ちますが、丸めて落したようです。
ヘリは青空を背にしながら、どこかへ飛び立って行きました。
あの位置で、ヘリからワイヤー落されたら、わたし役に当たる可能性が大きいです。しかも、パ、じゃなかった。四輪駆動車に金具とか落ちて、凹ませそう。現実とゲームの違いです。
わたし役のモニカさんのアップになりました。荷台のポールには、マシンガンが、もう取り付けられています。運転席には、ネエネエ先輩役が、ハンドルを握ります。助手席では、セバスチャンが座ってます。乗るの早すぎです。
「ねえねえ、敵戦車に1/2tトラックで近づき、大砲の死角に入り込んで、接近戦に持ち込む」
無理です。戦車に、小型四輪駆動車が近づけば、大砲で撃たれる。
戦車がアップになり、砲塔がウイーンと音を立てながら、横に動きました。背景は北海道にある、自衛隊の演習場のように開けた場所です。
砲塔の上ではハッチが開いています。メイド三人組の綺麗な女性が、上半身を乗り出してます。母役なのでしょう。しかし、緊張した面持ちで、青ざめています。
バニーガール衣装です。ぎゅっとハッチ近くの手すりを、両手で握り締めています。
「撃て!」
母役のメイドさんが、部活で疲れて、早く家に帰りたい同級生のような顔で叫びました。
ズドーンと轟音が響いた瞬間、ビクンと母役のメイドさんが震えるように、揺れました。切れ長な瞳を瞬かせながら、表情は引き吊ってます。
爆風が戦車後方の雪を散らします。大砲発射の熱が陽炎を起こして、空気、もやっと揺らめかしています。
小型四輪駆動車が画面を、ヘリと同じで、横向きで森林の前を走り抜けてます。地面は、アスファルトの道路に白色の砂を撒いたように、整地されています。
大砲の嫌な音がする度、近くの木が根元から、爆発と黒煙が上がり倒れます。切り口が、チェーンソーで、事前に切ったように滑らかです。決して、小型四輪駆動車には、倒れません
敵も、攻撃方法も、わたし役の空気を読んでくれています。
ポールにわたし役が捕まってます。透明なワイヤーで、ポールに体を固定しているみたいです。顔は暗くて見えません。
あ! 小型四輪駆動車の、前方からの撮影に切り替わりました。しっかり、わたし役、ネエネエ先輩役、セバスチャンの顔が映ってます。全員が余裕の表情です。後ろに青々とした木々が見えますが、さっき倒れた木は、存在しません。
突如、遠方からの撮影になりました。雪上を走らせては、ハンドルを握るネエネエ先輩役が、左右に砲撃を上手によけます。髪が額に触れようと、必死にハンドル操作をしています。わたし役は、マシンガン装着ポールを両手で握り、振り飛ばされないようにしているみたいです。体は微動だにしません。
セバスチャンは助手席で人形のように、固定されるように動きません。
前もって、爆発する場所を知っていたかのような、華麗な運転です。
運転席に入る方は、顔にやはり陰が差しています。後ろで立ったまま、ポールにしがみついている、わたし役も、顔が映らないです。
また、画面切り替えです。森の中で小型四輪駆動車の急ブレーキが踏まれます。カメラ位置は、ブレーキペダルの位置です。ネエネエ先輩役を足元から映してます。ズボンがタイツのようです。足の曲線が美しいです。
セバスチャンも、ネエネエ先輩役も肩で息をしています。特に、ネエネエ先輩役は、ぜーぜー、はーはーと荒い呼吸です。ブラジャーを、していないかのように、胸が揺れます。
ポン、と後部の荷台から、飛び跳ねたわたし役のモニカさんが、運転席と助手席の間に立ちます。真顔でベルトに提げたポーチから、注射器を取り出しました。
『共トレ』では、HPなどの回復薬です。一目で効果の種類や効果の大きさが分かるよう、空中に黄色や青色で現れます。しかし、再現ドラマでは、ポーチから素早くアンプルを出します。
手でなく、わたし役は、噛んでで注射針のキャップを取ります。ネエネエ先輩役の袖を捲くり、白磁のような白い二の腕に注射をします。
「うっ、くっ、はぁん」
ネエネエ先輩役は、苦悶の表情をしています。どこかエロがかった声で、顔に生気があり、余裕が残ってるみたいです。
「はぁはぁはぁ、ねえねえ、セバスチャンの治療は私がするから、後は全てあなたに託すわ」
逃げるのかい! ただのゲームだからともかく。もし、撃ち合い部の公式試合でなら、困ります。
わたし役は、マシンガン胸の前を抱えながら、森の中を走っています。はーはー苦しそうな息は、どこか、艶かしいです。しかも、胸、ブラジャーがないかのように、上下にバウンドしてます。
いきなり顔がアップになりました。額の汗を手の甲で拭います。メイクはバッチリで、滲んだりしません。
本当のギルド戦では、山に逃げただけです。
戦車が近寄り、母役が軍用ライフルを片手に、下りてきました。
「カサカーのメンバーを見つけたぞ。敵だ!」
わたし役は、雄たけびを上げながら、戦車に突進していました。
どうして、敵の母役メイドNPCが戦車の大砲で、わたしを撃たず、降りたのかは、ナゾです。
「くっ、わたしは負けない!」
わたし役の顔がアップになります。真剣顔です。体重が存在しないかのような、猛ダッシュです。全身が映りますが、やはり、胸の震動が気になります。あれだけ胸が揺れるのに、髪はふわりとするだけです。
戦車から、降りたはずの母役が見当たらないようです。マシンガンの銃口を構えて、ステップを踏むように、体全体を何度か回転させます。
ブーツがアップになり、太ももまで映されます。迷彩服を着てても、嫌なアングルです。ハッとしたような表情で肩越しに、首を巡らせながら、目を丸くしてます。
「あ、あなたは?」
「フフッ、あたいを忘れたのかい。昔、アンタを産んだオンナさ」
母の口調がヘン。しかも、悪の組織の小物みたいです。しかも、若すぎ。高校生みたいです。犬みたいに、1歳や2歳で子ども産んだのでしょうか? でも、ラスボスとして、母のモノマネをしたのが、悪魔みたいな不気味な衣装だったら、もっとイヤだー!
慣れないタバコを吹かしながら、顔だけ余裕の表情で戦車脇に立っていました。再現ドラマと言えども、母が普段たしまない、タバコを吸ってるのは奇妙です。
しかも、タバコの煙は、肺に吸い込まず、金魚のように、吐いているような気がします。
あ、思い出した。
***
中学のときです。不良女子の先輩が、中学校の理科準備室で、隠れてタバコを吸ってるのを目撃してしまいました。放課後、理科委員で戸締り当番だったんです。運が悪かったのです。
初めてタバコを吸ったらしく、ゲホゲホ咳きこんでいました。空き缶を灰皿代わりにしていました。
「吸う?」
タバコの箱を差し出されました。見なかったことにしよう。逃げようと決意を固めかけたわたしに、言葉で追い討ちをかけてきました。
「私のタバコが吸えねぇーのかよ」
不良先輩は、真面目なわたしが、困る姿を楽しんでいるようです。
「吸えません」
「どうして、吸えねーんだ? 教師にチクるつもりか?」
困ったなーと思いました。先に手を出したら、暴力となります。ここは、とんちで、乗り切りるしかありません。
「理科委員で戸締り当番は、火の元も確認するんです。タバコの火も消えたかどうか、確認するはずです。わたしが吸うと、帰る時間が遅くな……」
「ウザい! 私がやるって言ってるだろう? 聞いてねーのか」
聞いてはいましたが、巻き添えからの逃げ道を考えていたせいで、怒らせてしまいました。
「タバコ高いのに、もらって良いんですか? ありがとうございます!」
タバコを箱ごと手にして、理科室に逃げました。タバコは演技で床に落して、廊下に抜け去ります。そのまま、職員室に寄ってから、ソッコーで帰宅しました。
教師に伝えても、一日中、不良から、守ってもらえるはずなどありません。
帰宅してから、母に、不良に絡まれたこと、タバコのことを伝えました。
「フルネーム分かる?」
「うん」
不良のフルネームを母に伝えました。少し珍しい名字に、ピンときたような顔をしています。
「あの子かあ」
母は納得したように頷いているだけです。どうやら、不良の母親を知っているようでした。いきなり、電話をして、母親と話し合ってますが、自室にいるよう指示されました。電話の内容は知りません。
母がドアをノックしました。ドアを開ければ、母が頭痛でもするかのような顔をしていました。
「誰にも言わないように」
「お母さん、電話をわたしが聞いてないのに、疑ってたの?」
「そうじゃなくて……、あの子がタバコを吸ってたことと、タバコを渡されたことを、誰にも言わないように。分かった?」
翌日、理科委員会担当の先生から、わたしが呼び出されました。男性の先生です。
「昨日、理科準備室に空き缶が置いてあって、タバコの吸殻があったんだ。気づいたことはないかな?」
「わたしが、戸締りしたときには、気づきませんでした」
先生は、疑ってないから本当のことを話せと、目で伝えていました。母の命令を優先して、知らないで通しました。
それ以後、不良先輩から絡まれることは、ありませんでした。
不良の先輩が卒業してから、あの日、母があの子のお母さんに、何を言ったのかを聞きました。
「もしものときは、学校には相談しない。弁護士に相談するって言っただけかな? なーんてね」
母は弁護士さんに知り合いは、いないはずです。もしかして、テレビCMや、ネットのバナー広告で見かける“初回相談は無料です”の法律事務所さんに、相談するつもりだったのでしょうか。
違うでしょう。母に詳しく聞けない、雰囲気がありました。
でも、“初回相談は無料。しつこい勧誘はしません”そういう法律事務所に数件、無料の初回相談だけすれば、解決策のヒントは見つかりそうです。
***
『あたい』は、方言です。だれだアンタ? 母役と分かっていても、思わず、モニターに、ツッコミを入れてました。
モニターでは、再現ドラマが続いています。
わたし役のNPCメイドのモニカさんは、片腕を伸ばして、マシンガンを構えています。10キロはあるマシンガンです。腕は震えず、鋭すぎる瞳で母役を見据えています。まるで、高精度のカメラでも映らないくらいの細さのワイヤーを使用しているかのようです。上からマシンガンを、吊るしてもらっているかのようです。
『共トレ』では、男性プレイヤーに人気な撃ち方です。この方法で撃てば、自分にもダメージがあり、HPがどんどん減ります。
「母親か? ギルド戦では、敵と味方さ。カンケーないね」
「交渉しないか」
当たり前のことを、わたし役のモニカさんは言ってるだけです。審判から警告をうけるはずです。仮に弟が来年、別の高校に入学して、もし、撃ちあい部に入れば、試合では全力で戦います。
ですが、ライバル校の同じ部活に、弟が在籍していても、わたしは、隠します。
もし、わたしと弟がライバルで地区予選で、試合したら。母はどちらを応援するのでしょうか。両方と言うでしょう。そして、負けた方を、慰めることでしょう。
昔、両親から、「お父さんとお母さんどっちが好き?」と、聞かれた記憶があります。逆の立場を経験させる方法ですが、家族が本当に苦しむ顔など、見たくもありません。




