三方一両損!
「はい?」
「ギルド戦の再現ドラマ、料金足りた?」
「はい、足りたそうです。GM神も、喜んでいました。でも、もし、追加予算があれば、いつでも、応じてくださるそうです」
モニカさんの耳、インカムが突如現れます。テレビCMで見たことある。結婚式場の打ち合わせみたいです。こっちから予算を切り出すか、向こうから話すか、見極めます。
21歳以上サーバーのAIは、即興で生放送みたいない再現ドラマ作るくせに。AIは、あざとい。
「さっきだした予算で、もう作ったんだよね?」
「GM神に寄れば、より、豪華な再現ドラマも可能だそうです」
尊敬する人に役に立てて嬉しい人のような、ほほえみをしています。両手を体の前で合わせ、ワクワクしている雰囲気です。
料金が高いのに誘導しています。わたしが男性なら、追加料金を払っているところでしょう。母が勤める習い事教室も、料金プランがあります。生徒さんや保護者さんのご希望を、まず、お尋ねするそうです。それから、プランの提案に移るそうです。それぞれの家庭事情、があるのだそうです。
オーダーにない、高い料金プランから、提案するようなことは、しないと言ってました。
証拠は文書やメールなど形に残るモノで残せ、と教えてもらってます。
「モニカさん、文書かメール、でプラン一覧もらえないかな?」
「GM神によれば、ギルドNPCである私が創造主さまの、ご相談を承り、創造主さま、つまりプレイヤーさまの、ご希望に応じたプランを、ご提案できます!」
「モニカさん、GM信頼されてるんだ! 自分にもっと自信を持ってね」
「え? は、はい。ありがとうございます!」
わたしの顔が映りこんだ瞳には、照れた光まで宿っています。
21歳以上サーバーの運営さんは、文章という記録や、証拠を残さないつもりです。あとでトラブルになったとき、運営さんが逃げやすいことでしょう。でも、ネエネエ先輩やわたしの記憶は証拠になるはず。AIが操作するNPCと人間であるプレイヤーで、証言が違えば、人間が正しい、と思いたいです。
もし、わたしが、eスポーツのトラブル担当の裁判官なら、人間の証言を重視します。だって、同じクラスの生徒が、生徒会役員選挙に出たら、応援するようなことです。
別の候補に投票しても、口では投票したと、言い切ります。近い存在を、敵にしたくないからです。
話を元に戻して、契約内容は、どうするか考えます。
現実なら、スマホで録画したり、録音できます。しかし、言わばここは、アウェーのようなもの。ガラケー型コンソールは、所詮は21歳以上サーバーのAIが作ったモノ。いざ、もし、裁判となったら、多分、運営さんがうっかりミスということで、データーを破壊するでしょう。
本当に、裁判にもつれこんだら、どうなるだろう。サーバーがアメリカにあり、しかも、アメリカにある法人が、21歳以上サーバーを運営しています。アメリカの法法が適用されるはず。ですが、わたし、アメリカの大統領のフルネームや、首都はワシントンと丸暗記してても、アメリカ憲法の法文は知りません。
だって、学校のテストで出ないもん。
「さっき、わたし、代金っていくら払ったの?」
「私は、存じません。少しお時間をいただくことになりますが、GM神に聞いてきましょうか?」
聞きに行く場所あるのでしょうか。モニカさん手強い。瞳を目薬でも差したように輝かせ、させながら、営業スマイルを崩しません。わたしはガラケー型コンソールで、どのくらい、使ったか調べます。もともと、21歳以上サーバーはメインサーバーでないんです。テキトーに課金したので、数字覚えてません。
「課金したんだから、モニカさんが細かい数字、教えてよ?」
「GM神にイヤホンマイクで聞いてみました。お調べするのに、お時間をいただくことになるそうです」
イラついてきた。
「GMと直接話せない?」
「私も詳しくないのですが、プレイヤーさまのコンソールでGMコールを押してください」
親指でガラケー型コンソールのGMコールを押します。ガラケーを耳にあてます。
〈はいGMタネガシマです……〉
「もしもし?」
〈只今GMコールが大変込み合っております。暫くたってからおかけ直しください〉
アニメ版『共トレ』のエンディングテーマがオルゴール風のBGMで流れています。ダメもとで言います。
「再現ドラマ、高いのオーダーしたくて、料金プランが欲しいんです」
〈おたませしました。GMタネガシマです〉
聞き方によっては、出るんかい! オルゴールのBGMは、さっと消えました。
〈申し訳ございませんが、先ほども、自動音声でお伝えしましたが、GMコールが込み合ってるんですよ。ギルドNPCの、えー、モニカでしたか、モニカにデーターを渡しますので、モニカと話し合ってください〉
GMコール切れました。忙しいのは分かりますが、愛想ない。
ガラケー型コンソールをポケットに滑らせます。モニカさんがわたしより、豊かな胸にパンフレットを抱えています。いきなり、虚空にアイテムが出現するのは、現実〈リアル〉とゲームの違いです。
「ねえねえ、モニカさん、お勧めのプランはどれかな?」
聞き役の先輩が会話に割って入ります。ネエネエ先輩、わたしの横で、体が触れそうな距離に立ってます。
「誤解しないでね、二人とも困ってるみたいだから、ここは、三方一両損《さんぽう一両損》ならぬ、二方一両損にしましょう!」
困ってない。こういうゲームでしか経験できない状況を楽しんでいたのに。サンポウイチリョウゾン? 聞いたことある単語です。
「先輩、どういう意味ですか?」
ネエネエ先輩は大きな金貨を一枚手にしてます。課金アイテムの金貨です。正確には、撃ち合いコインです。撃ち合いゲームなら、原則として、どの撃ち合いゲームでも決済に使えます。
世界撃ち合い競技連盟の、許可を得た団体がそれぞれの責任で発行しています。共トレ各サーバーが、委託販売しています。撃ち合いコインは仮装通貨です。投資の対象にする人もいるようですが、世界撃ち合い競技連盟は、拘っていないのです。
つまり、世界撃ち合い競技連盟は、撃ち合いコインに、責任は取らないのです。
日本には多くの免許や資格制度があります。免許や資格を取得した人が、ミスを起こしたりしても、免許や資格を出した機関は、責任を取らないのと同じです。
「ねえねえ、私が、撃ち合いコインを一枚出す。二人で一枚づつ出し合わない」
意味分かりませんが、ネエネエ先輩を立てて頷きます。わたしも、ガラケー型コンソールを取り出して、渋々、撃ち合いコインを一枚購入しました。
空いている手には、金色に輝く、撃ち合いコインが一枚現れました。撃ち合いコインも、相場取引で、価格やが上がったり下がったりします。そして、取引市場とは世界撃ち合い競技連盟は、無関係なのです。
「先輩、母が『絶対、家の外で言わないでね』と言ってたんですが、撃ち合いコインは、しっかりした取引所で買わないと、ニセコインをつかまされることあるそうです。また、世界撃ち合い競技連盟で、一部委員に、不透明なお金が流れる噂もあるそうです」
「うんうん、お母さんの言うとおり! だから、21歳以上サーバーで買ったら、21歳以上サーバーで今すぐ使うの。一部委員の話は、噂だからスルー。二人でコインを一枚づつ出し合って、再現ドラマを作ってもらおー」
ネエネエ先輩、落ち込んでたのに、ひとりでに明るくなちゃった。こういう人って、子供の頃、落ち込むと、すぐ泣いちゃう子だったのかな? わたしは、三方一両損を、心を変換して思い出してみます。
***
わたしが小学生の頃、泊りがけで祖父と祖母の家に遊びに行きました。弟もオマケでついてきました。
力船寿司に行きました。基本一皿、百円から、の回転寿司です。チェーン店でとても美味しいです。
祖母が好きなのを選んでね、と言ってくれたんです。お皿の色によって、値段が違います。私はコンベアーを流れる、お皿の色を見ながら、百円の皿を選びました。お姉ちゃんは、我慢して偉いと褒められると思いました。
しかし、弟が、立場をわきまえず、百五十円や、二百円の皿ばかり取ります。わたしは安く済ませて、弟に人間性で勝ったと思いました。
弟のせいで、会計が、かなり高くついてしまったのです。力船寿司で、祖父母が、会計を済ませます。
駐車場に出て、店員さんに聞こえないよう。そして、弟に声高々に、祖父と祖母に自慢げにいいました。
「わたし、百円のお皿ばかり選んだよ。わたしが一番安かったよ」
祖父と祖母は顔をしかめ、皺が深くなります。泣き出しそうな、弟を慰めていました。
わたしは偉い! わたしはオトナだと、両手を腰にあてがいながら、鼻高々でした。
そのあとは、映画館に行きました。ハリウッドのアクションコメディ映画を見ました。祖父の運転で、祖映画館から帰ります。祖母は、後部座席の真ん中で両脇に、わたしと弟が座ります。後部座席の真ん中は、わたしが一番座り心地が悪いと思ってます。一番楽なのは、助手席です。
「おばあちゃん、どうして助手席座らないの?」
「孫に囲まれて幸せだから」
「面白い映画だったよ」
目を細めているのに、祖母は腑に落ちない顔をしています。
「映画喜んでくれて、良かった。あんな目にあって、どうして人が死なないんだろう?」
「映画だからに決まってるだろう。マネしないでね」
祖父はハンドルを握りながら、正論を言ってました。
祖父母の家から、帰宅したんです。両親に弟がチクッたらしいのです。両親から、わたしがメッチャ怒られました。
母が目を三角形にしています。その隣で父が無表情でムセっとしてます。
「お母さんと一緒にスーパー行ったら、いつも『安く済ませよう』。『お母さんは、広告の品を安く買って買い物上手』って言うもん。広告の品、お一人様二個限りで、十二歳以上の方のみ対象の商品。わたし十二歳になってないのに、お母さんわたし連れてって四個買うジャン……」
スーパーで、母、買い物カゴに、四個商品を入れてるんです。母の手首を引っ張り、わたし十二歳じゃないよ、と言ったんです。
周りのお客さんから逃げるように、カートを押して、人の少ない場所に連れて行かれました。
目尻を上げながら。
「お母さんに恥をかかせないで。もうすぐ十二歳だから、年齢は大体で良いの」
並んでレジの店員さんが、商品のバーコードを読み取れば、すごい悪いことしてるみたいでした。
スーパーの駐車場で、カートから買い物袋ごと、わたしも手伝って、車に移し変えました。
「お母さん、ルール違反だよ」
「ここのスーパーでは、レジの店員さんはね。もしかしたら十二歳じゃないかもって、気づいていても、大目にみてくれるの」
その話を熱心に母に伝えました。
日焼けした父がニカっと白い歯を覗かせてから、横を向きます。母は噴出しそうになってから、表情を無にしました。
「い、意味が違うでしょう。謝って」
これ以上、自分の意見を言っても、わたしは所詮小学生です。両親との言い合いに勝てるわけない、と経験側で理解していました。
イジけてる弟に何度か謝りました。頷いて弟は許してくれまし。しかし、わたしは弟を許していません。
その弟のせいです!
そのあとまた、祖父母の家に泊りがけで遊びに行く機会がありました。
祖父が、回転寿司でテイクアウトをしてしまったのです。大きな四人前位が、一セットになったのを、買って来てくれました。
プラスチックみたいな容器から、陶器製のお皿に、祖母が綺麗に小分けします。そこまではありがたいんです。
力船寿司さんのお持ち帰りは、ペラペラな醤油用小皿もついてきます。それを使わずに、小さな丸いお洒落な小皿を出したんです。
遠慮を知らない弟が、ローテーブルでわたしの横で我が物顔で、あぐらをかいています。醤油の袋を破ろうとして、ミスりそうです。
わたしに醤油がかかったら、大変。正座していたわたしは、立ち上がり、痺れる足で、祖母にハサミを借りました。
もとの座布団に戻り、弟が、両手で引っ張ってる醤油の袋を取り上げました。ハサミで斬って、弟の小皿に注いでやりました。
「偉いねー」
祖父と祖母から褒められました。醤油でベタベタになったハサミは、祖父がすぐ、水洗いしたようです。祖母から祖父が小声で何か言われていました。
四人でローテーブルを囲んで、いただきます、を斉唱します。
祖父が、ネットレンタルで借りてきた、DVDの新作を、テレビで流します。前もって、好きな映画を、スマホのSNSで聞かれたのです。
納得できないことが起きました。
わたしは、アメリカのアニメ映画会社の新作を希望したんです。ところが、テレビで流れているのは、弟が観たいハリフッドのアクション映画です。
「わたしが観たいの、後回しなの?」
祖父が箸を置きました。悩んで考えています。
「アニメは、おじいちゃんの部屋で見ようか?」
「ヤダ、それじゃ、このアクション映画観れない」
「それじゃあね、アクション映画が終ったら、アニメ映画を再生しよう」
「先にアニメ観たい」
「おじいちゃんの言うことは古いかもしれないけど、おじいちゃんの若い頃は、映画を見に行ったら、二本立て上映が普通だったんだ」
「ニホンダテって何?」
「映画館でね、映画を二本、一緒に上映するんだよ。途中で休憩があった」
「チケット二枚売るの?」
「チケットは一枚なんだけど、二本同時に上映されるんだよ」
信じられないけど、おじいちゃんの瞳を見れば、真実を語っていると確信しました。わたしが、スマホでインターネット検索したら、事実でした。
「おじいちゃんの若い頃は、お目当ての映画と、知らない映画を、一緒に観たりしたんだよ。知らない映画が面白かったりしたんだよ」
そんな経験ないし、大昔の話しジャン。古い。さっき、褒められたばかりでした。ここまで祖父が説得したのに、DVDを入れ替えると、悪い意味で子ども扱いされそうです。
前回と同じように、弟が両親にチクる可能性も考慮します。
「うん、我慢して観る」
アニメ映画より、アクション映画が時間は短いのに、長く感じました。
***
「ねえねえ、ちょっとちょっと」
ネエネエ先輩の声が遠くでします。突っ立ったまま、小学生の頃を思い出していました。
「どうかしたの?」
全然無関係な、わたしが損した話ばかりが、脳内でアウトプットされてました。
「三方一両損の物語。思い出そうとしたんです。やっと思い出しました」
「ゴメン、「三方一両損説明不足だったよね」
わたしは、先輩に両手を振っていました。NPCのモニカさん、セバスチャンも交えて、わたしが、コホンと咳払いをしてから、説明をします。
「日本の昔話ですが、その昔“両”と呼ばれる金貨がありました。金貨三枚を拾った人が、正直に役所に届けます。落とした人も役所が見つけました。
落とした側がいらない、と言ったそうです。しかし、拾った側もいらないそうです。
わたしが落した側なら、拾った方にお礼を述べて、落しモノ見つかって良かったで終わりです。わたしが、拾った側なら、正直に届け出ます。少し謝礼が欲しい気持ちがあっても、相手が感謝の言葉を言ってたら、それで満足です。
当時の裁判官は、ふたりの正直さに感銘を受けたそうです。裁判所の法廷に二人を呼び出しました。法廷の目立つ位置に金貨が三枚重ねて置かれていました。
裁判官がポケットマネーから、金貨一枚を出します。法廷内で金貨が四枚になります。落した側が金貨二枚。拾った側が金貨二枚受け取るよう判決を出しました。裁判官、落した人、拾った人、三方が金貨一枚の損です。金貨の名前は両でした。
それを三方一両損と、裁判官が宣言して、丸くおさめたのです」
「うんうん。そうだよ」
ネエネエ先輩まで、わたしの博識に感心しています。爪先立ちになり、地面から体が跳び浮きそうなくらいです。NPCのモニカさんとセバスチャンは、尊敬の色が宿った瞳で、真っ直ぐわたしを見つめています。賢人ぶりに、拍手をしています。ノーベル賞を受賞した先生みたいで、気恥ずかしいけど、心地良い気分です。
せっかく優れた物話なので、落ちてたのが、三千両だとしたら? 三方が千両の損になり、三方千両損で大損ジャン。言葉にせず、唇をきゅっと結びます。




