ゲームのガラケー型コンソールはネット接続可能です。
「ねえねえ、何を話そっか?」
先輩はとても嬉しそうですが、もしかしたら、現実でボッチなのでしょうか。『共トレ』のAIが操作するNPCと仲良くするの、明るい性格みたいだし、似つかわしくないのです。
もしかしたら、同級生や先輩に仲良し、いない人かもです。
「乗り物についてはどうです」
わたしが提案してあげました。先輩はエサを得た鯉のような唇になっています。
「ねえねえ、乗り物のこと、話そう」
はい、と短く返事をしてから、わたしは、コンソールと念じます。虚空に出現した、ガラケー型コンソールを、手にしました。コンソールは、通常のインターネットも可能なので、『共トレ』21歳以上サーバーの乗り物について検索します。
「検索しましたが、ヘリの情報みつからないです。あ、でも、自動車について詳しく書いてあるサイトみつけました」
「やるー!」
ネエネエ先輩は、ガラケーのモニターを横からのぞきこみます。
「へー、たくさんの車紹介されてるんだ。こんなに多くの種類あるんだ」
「適当に画像検索したら、陸上自衛隊さんのホームページがあったんです。再現ドラマで……」
「ねえねえ、あの話はもうよそうよ」
「違うんです。オープニングで出てきた、わたしが海辺で乗っていた車のことです」
わたしは、軽く空いている手を振ります。ネエネエ先輩は、大きく頷いていました。話のイニシアチブを握ります。わたしは、斜向かいに座る、セバスチャンにガラケーを渡します。
「ねえ、これ再現ドラマでわたし役のモニカさんが乗ってた車だよね?」
「はて、異なる車です」
ん? 不思議そうに、ネエネエ先輩とわたしは視線を合わせます。ガラケーの画面を二人でまじまじ見ました。わたしは、セバスチャンの言いたいことでなく、言えないことが何となく分かりました。
わたしが、得意げに両手を膝の上に置いて尋ねます。
「セバスチャン、この画像の車、名前は何て言うの?」
「小型四輪駆動車です」
「ねえねえ、パ……」
ネエネエ先輩の語尾が、口パクで音になりません。『共トレ』21歳以上サーバーでは、商品名はNGワード多いのです。
目を見開いて先輩は、白い歯を見せています。ネエネエ先輩も結構、意地悪、ううん、わたしに影響を受けたようです
「再現ドラマで、わたし役を演じてくれたモニカさん」
「はい」
「海辺で走らせた車の名前、『小型四輪駆動車』以外で答えて」
「オープントップの4WDでしょうか?」
ネエネエ先輩、軽く身を乗り出して、悪ノリしてる。
「ねえねえ、ギルドのNPCさんたちは、画像の車を、ほかにはどう呼ぶの?」
「オープンカーの小型四輪駆動車」「オープントップのSUV」「幌つきの四輪駆動車が幌を外した状態」「4WD」「軍用小型四輪駆動車」……。
様々な呼び方が異なるNPCの口から出ます。セバスチャンが静かに、そして、かみ締めるように話し出しました。
「小型四輪駆動車の代名詞と言うべきワードは、存じておりますが天上界の言の葉を口にするのは、憚かられます。GM神によって、禁忌となっております。しかしながら、プレイヤーのお二人が言葉にできないのは、不可解で御座います」
商標権! ランセンスの関係だよ。21歳以上サーバーの運営さん、権利者にお金を払いたくないんだよ。わたしは、手をひらひらさせながら、目を閉じました。商標名はNGワードで口パクになるので避けます。
「自衛隊さん用語では、かつては、73式小型トラック! 今は1/2tトラック!」
しっかり、はっきり声です。わたしは自慢げに、指をピンとうっかり立てました。ネエネエ先輩は、わたしに一瞬、視線を投げています。どこか、わたしに、あきれたような瞳で気になります。ねたんでるのでしょうか?
しかし、NPC全員が、感涙をしながら、うやうやしく頭を下げます。椅子がなければ、NPCたちは、わたしとネエネエ先輩に、ひれ伏していたでしょう。
「ありがたきお言葉」
セバスチャン、大げさすぎる!
ネエネエ先輩は、わたしの言い分聞かず、穴掘り中に、軍用ライフル向けた!母には、バカって言われた。イライラが収まりません。ネチネチあとで言えるので、証拠を残してやりたい。
「セバスチャン、ギルド戦の模様を、再現ドラマにして欲しい。わたしが費用払う」
「畏まりました」
ネエネエ先輩は目が泳いでいます。一拍置いて、指をぴんと立てながら。
「ねえねえ、私だけじゃなくて、再現ドラマで再現されるプレイヤー。ギルド長やみんなの許可貰わないと」
後ろめたい先輩は、もっともらしい理屈で、逃げに入ってます。
「先輩はオーケー!わたしっもオーケー、母もオーケーのはずだから。プレイヤー役三人のみで再現ドラマ作って」
ネエネエ先輩のへ理屈は退路を絶ってやりました。それでも、お母さんの許可が、とか続けています。
「わたしの母です。母の許可が、もし出なかったら、責任はわたしが取ります」
セバスチャンの声がしました。
「お三方の再現ドラマが完成したそうです。GM神は、御母堂さまの許可済みと、判断されました」
御母堂さまて、葬儀みたいでイヤだ。でも、21歳以上サーバーのAIは仕事早い! バニーガール姿の、モニカさんがしゃがみます。上品に膝をきゅっとしめながら、白い膝を抱えて座りました。地面をハケで左右に払います。まるで、野球ゲームで土が被ったホームベースを、綺麗にする審判さんのようです。
ハケをどかせば、地面には、大型液晶モニターが埋め込まれています。モニターが黒いので、咄嗟に、私は後退りします。迷彩服で、スカートじゃなかったけど、鏡のように下から映りこむのイヤです。
ネエネエ先輩が、黒い瞳をを不安定に揺らしながら、頬に手をあてる姿が映りこんでいます。
「セバスチャン、先輩の許可もらっているから遠慮なく再生して」
わたしが断言します。地面埋め込み式モニターでは、再現ドラマが始まりそう。
咳払いをして、セバスチャンを見れば、スタンドマイクを前にして立っています。タキシードスタイルです。まるで、屋外で行われる、結婚式の司会さんのようです。
セバスチャンの背後では、NPCメイド三人組が立っています。体の前で手を重ねていました。白いすらりとした足や、スタイルを強調する、バニーガール姿なのは、やはり、気に入りません。
12月にテレビ番組で、海外映像特集を放送してました。スタジオ撮影がなく、ナレーションのみで、映像が流れる番組です。
年末年始は、特番が多いので、プライムタイムでも制作費が少なそうな番組多いです。深夜にいたっては、何十年か前の名作映画を放送したりしてます。
海外映像特集で、見た光景を思い出します。金持ちオジサンが何人目かの、娘さんより若い奥さんと結婚披露宴をしている映像みたいだからです。新婦は反対しなかったのでしょうか。披露宴にバニーガールさんを、何人も手配してたんです。招待客にドリンク運んでました。
金の力をひけらかすみたいで、イヤな感じでした。別れた元奥さん数人も、しっかりゲストとして、招待してました。
オチは、半年後に別れたそうです。奥さん、半年の結婚生活だったのに。日本のサラリーマンが一生かかっても、稼げないべらぼうな金額を、財産分与で、もらえたそうです。
少し、ねたましいです。一緒に見ていた母は、半年結婚生活をガマンするだけでお金もらえたな幸せかもね、と冗談めかして、言ってました。
***
父と母も離婚の危機はありました。わたしが小学生の低学年の頃、夜、大喧嘩して、別れると、二人ともがハモりながら、叫んでいました。
両親ともに、子どもは、自分が、引き取るとわめいていました。
大抵の夫婦喧嘩は、次の日は朝、仲直りしていたのです。家族四人、同じ部屋で寝ていました。川の字でいえば、真ん中の縦線が二つあり、わたしと弟が寝ていました。
わたしは寝た演技を通しました。弟と布団は別々です。弟がうるさくて、寝れないので、上体を起こしました。
「うるさくて眠れなーい」
父も母も感情が昂ぶり、安眠妨害という正当なクレームを入れた弟にまで、怒ったような声です。どうせこうなるだろうと思ってたので、わたしは、寝た振りをしてたんです。
弟まで大泣きです。わたしもトイレ行きたいので、むくっと起き上がりました。
「お姉ちゃんと一緒に、向こうの部屋に行こう」
怒鳴り声を後にして、泣いてる、弟の手を握りながら、部屋移動です。わたしと弟の布団は、父がリビングに放り投げていました。当時のわたしは、一人で夜遅く、トイレに行くのが怖かったのです。弟を引っ張りながら、トイレ前で行きます。
わたしがトイレを出たら、弟がいません。あのときの恐怖は、今でもしっかり記憶に刻まれてます。リビングの照明が、いつの間にかついてました。希望の光です。明るいリビングまで、暗い廊下を震える足を進ませます。自宅で廊下を、あれだけ長く感じたことはありません。
やっと明るいリビングに辿り着いても、隣の寝室ではドア越しに、両親の喧嘩声が続いてます。




