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試合開始前に砂遊びみたいに、穴掘りをします。審判が到着しました!

じょうちゃん、執事しつじじいさんをいびるの、楽しいか?」

 少しだけ、うんかも! セバスチャンはまるで、校長先生と反対の意見を、生徒の前で話してくれた担任の先生みたい。


***


 この前、高校に理事の先生がきたんです。朝のホームルームで、担任の先生が、手帳くらいの大きさがある冊子を配りました。

急遽きゅうきょ学校法人本部から、理事の先生が、お越しになられます。5分くらい各クラスで建学の理念をお話してくださるそうです。全てのクラスをまわられるので、ここには午前中に来られる予定です。うちは、フリーな雰囲気な学校法人でしょう。暑かったりしたら、水分補給をしながら、お話を聞いて良いよ」

 建学の理念は、入学式でも理事の先生が話していました。理事の先生は、どこかの宗教の聖職者姿が印象的でした。

 また来たなら、校内放送を使って、朝のホームルームで話せば済むような気もします。いきなり、掃除になりました。教室に面した廊下では、副担任の先生が掃除してくれます。どこから持ち出したのか謎ですが、業務用掃除機をかけていました。


 午前、英語の授業中に、校長先生と一緒に、スーツ姿で初老の紳士が教室にやってきました。

 入学式であいさつしてた、理事の先生とお顔が一緒かは覚えてません。

 授業が中断してしまいました。英語の先生が扉を開けます。担任の先生が、廊下を走って来ました。多分、ほかのクラスで授業中だったのでしょう。

 担任の先生と英語の先生が、お出迎えをしていました。校長先生と一緒に、お顔が記憶にない理事の先生が来られました。理事の先生だけが教壇に立ちます。

「こんにちは。授業中ですが、建学の理念を話します。担任の先生からすでにお話があったので、ぶしつけですみません。私学ですから民放のCMみたいなモノとして、聞いてください」

 わたしも含めて、クラスのみんなが笑いました。しかし、その後は退屈な話が続きます。

 しかも、5分経過しても、話は終りません。疲労した心には、楽しいことが必要です。

 喉が渇いたので、箱型紙容器入りジュースを机の上に出します。ストローをさしてから、唇に運びます。

「君、それはやめなさい」

 扉近くに立つ、校長先生がわたしを、落ち着きのない顔で直視しています。理事の先生は、温厚な表情で気にしていないのに。

「担任の先生が朝のホームルームで、水分補給しても良いっておっしゃってました」

「ははっ、担任の先生や生徒さんのおっしゃるとおりです。あとは、冊子をみなさんが、それぞれ読んでください」

 理事の先生は、退屈な話を止めてくれました。愉快そうに目を細めていました。理事の先生に、頭を下げながら謝る担任の先生の姿は、とても小さく感じました。

「授業中に失礼しました」

 理事の先生はお心が広いのです! わたしはジュースを舌の上で、味わいながら飲んでいました。理事の先生は、教室を出る前に深く頭を下げています。

 礼儀正しい方です。わたしたち生徒を、個々の人格として扱ってくれたのです。

 わたしを子ども扱いする父とは大違いです。理事の先生が隣のクラスへ行きます。英語の先生を除いて、先生方は、あとをついて行きます。

 理事の先生が、隣のクラスで話している声、わずかにします。

〈――私学ですから民放のCMみたいなモノとして……〉

 ギャグは使いまわしです。近所のスーパーにやってきたりする、お笑いタレントさんも、はからずも、そうなのでしょうか。わたしは、英語の先生に質問しました。

「先生、理事の先生、隣のクラスでも同じお話されていますが、普段は何をしているんですか?」

 系列校巡りをしているのかな? でも、英語の先生は、廊下にハチでもいるかのような慌てぶりです。廊下側に駆け寄り、開いていた窓を閉めていました。

 窓からは、担任の先生が見えます。来たときより、スピードを落としながら別の教室に歩いていました。

 昼休みは、建学の精神が書かれた冊子で、校内のゴミ箱が、あふれていました。ゴミの一部が床に落ちて汚いです。

 多くの先生方が、透明でない大きな袋を手にしています。ちりとり、ほうきで、全てのゴミ箱を片づけていました。床もモップがけしてピカピカです。

 理事の先生は、一日かけて、全てのクラスを回ったそうです。放課後のゴミ箱も、先生方が片付けてくれました。中に何もないゴミ箱は、気分爽快でした。

 こんなに校内がきれいだなんて。理事の先生、毎日来て欲しいです。


***

 セバスチャンが困っていて楽しいです。目を輝かせながら、怖いお姉さんに応じそうになりました。また、胸倉を掴まれまれます。


「オメー、答え知ってて質問しているだろ? あたしさ、そーいう奴、許せないんだ」

「セバスチャンに教えてもらうまで、マップのモデルとか、全然、知りませんでした」


 登下校中に道を聞いてくる人の表情を意識して顔の筋肉を動かします。迷彩服を握る手が離されました。


「そのマシンガン持ってるのに、知らねーのかよ」

「はい!」


 けろり、と答えました。怖いお姉さんは、指で自身のこめかみを、かきながら。


「共トレに限らす、物事は広く覚えろよ。セバスチャン、GMにくどくど聞くな」


 偉そうに。一つのことに打ち込む人生をしている方に、失礼です。わたしも、怖いお姉さんに追従して、視線の先をセバスチャンに合わせます。


かしこまりました」


 セバスチャン、恭しく一礼してる。好感は持てるけど、硬すぎです。少しだけ疲れる。


 「ねえねえ、ヘリ来たよ」


 ネエネエ先輩が、空一面に広がる青をセンサーのように、監視してくれていました。胸倉掴まれたの、ヘリのみを探してて、見落としてます。 

 怖いお姉さん、景色を広く見てないネエネエ先輩には、注意しません。

 ドキドキ鳴っている心臓に、プロペラのおとが重なります。ヒュンヒュンおんぬしに、顔を巡らせます。青空をバックに、緑色の軍用ヘリが二機、一直線に並んで飛んできます。

 手でひさしを作りながら、ヘリを見ます。どんどん大きくなってきました。わたしと周囲は、ヘリの陰になって暗くなります。影の黒い輪郭もヘリを下から見た形です。

 太陽とヘリの位置関係で、プレイヤーがヘリの陰になるという、ご都合主義設定です。これも、現実でなく、ゲーム内だからです。

 二機のヘリは空中で、プロペラ回しながら静止しています。不意にヘリから、ロープが何本も、だらり、と落ちてきました。それぞれがぶら下がり、ロープの端に、三角のリングみたいなのがついてます。

「あれ?体が勝手に動き出した」

 わたしの意思と関係なく、両腕が動いてロープを握ってます。足も動いて、片足をロープの三角リングに乗せています。

 ほかのプレイヤー同じようで、互いに顔を見合わせます。

「ねえねえ、今、自分で体を動かさなかったよね?」

「はい、勝手に手足が動いてます。腕と足が自分の意思で動かせない」

 わたしは、瞬きするネエネエ先輩に応じます。その間にも、ヘリは突き抜けるような大空に上がっていました。男性陣のヘリは、ロープでプレイヤーやNPCをぶら下げながら、離れて行きます。わたしの隣で怖いお姉さんが、ロープを掴み、宙に浮いています。眉を寄せて凄みが増してます。

「ゲームでも、勝手に体動かされたら、気分悪いな。そもそもさ、ヘリ実装されたら、ヘリにロープで捕まるスキルとか、ロープで降りるスキルとか、運営、課金スキルで売りに出すだろう。カネに汚い、21歳以上サーバーの運営が無料っておかしいぜ?」

 何度も首を振って、肯定していました。まさに首肯しゅこうです。ギルドの全員がヘリからロープで吊り下げられ、空を移動しています。

 風を切る感覚は、四輪駆動車の比ではありません。下を見れば、森林は広がっていますが、森がめっちゃくちゃ小さいです。いえ、わたしが高い位置にいるんです。

 プレイヤー有志が作成した攻略用マップみたいな光景です。

 わたしは高いところ苦手なんです! 恐怖で胴体と首が震えて、心臓の音が自分の耳に聞こえます。

 しかし、手はしっかりロープを掴み、腕や足は動かないんです。胴体と頭だけ震えて、金縛り状態です。

 恐怖で涙が。視界が滲んでいます。

「怖いです」

「全然怖くねーよ。慣れだよ、慣れ!あたし、遊園地の絶叫マシーン大好き。ゲーム内で安全だから、嬢ちゃんも、楽しもうぜ!」

「バカと煙は高いところ平気って言います……」

 ヤバい。また、余計なことを口走ちゃった。怖いお姉さんが、オラついた顔でわたしを睨んでる。

「――が、そんなの間違ってるって思ってます!」

「おい、ヘリ降りたら、ツラ貸せ」

 高いよー。しかも、怖いお姉さん敬語じゃなくなった。怒らせちゃったよ。二重の恐怖に耐えてます。

「ギルド長より、全ギルドメンバーへ。フォーメーションD」

 え? 新美先生こと、ニーミギルド長の声がします。小型無線機が腰ベルトに現れ、イヤホンが耳に勝手にくっついてます。

「フォーメーションD了解」

 わたしは復唱します。ギルドのみんなが、復唱する声がしました。無線機は同時に多人数で、双方向の通話が可能です。

 ヘリが実装され、いつもと要領が違うので、やりづらいです。森林が近づいてきます。やっと地面に降りれるんだ、胸も撫で下ろしました。

 森の中の開けた小さな場所でロープから、腕や足が勝手に動き、飛び降りてました。

 やっと両腕と両足の自由が戻ります。小さな池の前で、うーんと伸びをしてました。水面を太陽が照らして、キラキラ輝いています。

 不意に背中から、襟首を捕まれました。あたふた、両腕を動かします。

「オメエ、来いよ」

 怖いお姉さんに、引っ張られ、両足のブーツの踵のあとが、地面に線になって伸びてます。大樹の陰に入り、木漏れ日が美しい、とか余裕ありません。

 木の幹に背中を押し付けられ、壁ドンならぬ、木ドンをされました。いきり立った、怖いお姉さんの手が、わたしの胸を押さえ込んで、身動き取れません。現実なら危険です。

「人をバカにしやがって!」

 怖いお姉さんは、白く輝く、ナイフを手にしてます。やられる前にやれ!『共トレ』の鉄則です。

 わたしは、右手を自分の太ももにあるホルスターに、手を伸ばします。拳銃を握りしめました。

「ねえねえ、そこまで!」

 ネエネエ先輩が、怖いお姉さんの背後に立ち、険しい顔をしています。偉そうに手でビシッと制止しながら、反対の手を腰に当て、ポーズ決めてます。

 怖いお姉さんは、手にしたナイフを、舌で舐めています。当然、刃のない方をです。刃のあるほう舐めて、ケガすれば良いのに。

「運が良かったな。次はないと思えよ」

 捨てゼリフを言いやがって。言葉をぐっと飲み込みます。

 怖いお姉さんが、背中を向けたのを確認します。ネエネエ先輩のまねをして、拳銃にかけていた、手のひらを見せました。

 ネエネエ先輩が止めなければ、わたしが勝っていたはず。それなのに、怖いお姉さんの、勝ち誇った態度におなかがムカムカします。

 フンと鼻を鳴らして、スカートの裾をひらつかせながら、踵を返す怖いお姉さん。ぶっきら棒な声を投げつけてやります。

「わたしが、拳銃を抜こうとしてたの、気づいてましたか?」

「ねえねえ、やめて、やめなさい! やめなければ二人とも私が撃つ」

 ネエネエ先輩が、私にだけ向かって軍用ライフルを構えています。怖いお姉さんが悪いの。わたしは、敵意がないのを示すため、両手をネエネエ先輩に見せていました。

 軍用ライフルを下ろす動作をしっかり目に焼きつけます。ネエネエ先輩に、はっきり文句言います。

「わたしも自分の絶対と思ってる価値観を、押しつけることあります。喧嘩両成敗けんかりょうせいばいって言いたげですが、自分の価値観、人に押しつけないでください。同じ考えや近い考えの人はともかく、違う考えの人もいます。部活動なら、先輩に無理に合わせてつらいだけです。先に手を出したのが悪いと思います!」

 ネエネエ先輩の表情に影が差します。

「私はただ仲間割れを止めただけ、撃ち合うのは、対戦相手のギルドでしょう。撃ち合い開始前に、選手減ったら、私たちのギルドが不利になるだけだよ?」

 う、試合の勝ち負けを出して、冷酷さで返された。でも、軍用ライフルを、わたしにだけ向けたのは事実。ネエネエ先輩を、それで口撃こうげきできる。

「どうして、ライフルの銃口を、わたしにだけ向けたんですか、もし、暴発したら、選手が一人いなくなるんですよ」

「あ、あなたが、拳銃に手をかけようとしたからです」

「あっちのワンピースお姉さんは、ナイフを握ってましたよ」

 雑草をハイヒールの両足で踏みにじり、平らにしている怖いお姉さんを指差しました。

「彼女はナイフで、あなたを刺すことないって分かってた」

「どうして、言い切れるんですか?」

「――試合前に味方を倒すようなことしないって分かってた。ナイフの刃は向いてなかった」

 あのー、そういう問題じゃないんですが。自分のミス誤魔かしてますね。

「ナイフでわたしを刺せる状況でした。とても悪いことです。わたしを信じてくれてなかったんですか? 先輩といえどもひどいです。法律では、正当防衛や緊急避難という考えもあり……」

 状況によっては、自衛の行使です。小学校、中学校で、憲法習いました。座して死を待つべきではない、と、国会中継で見ました。相手がナイフを手にしたので、拳銃を撃って権利を行使しようとしただけです。わたしの言葉は、怖いお姉さんに、さえぎられます。

「さっきから、マシンガン女ウルセー。いい加減にしろよ! あのさ、わたし一人で陣地作ってるだけど」

 フォーメーションDは、一般的な戦法です。基本的に二か所での待ち伏せです。ただ、短所もあり、相手チームも待ち伏せに徹した場合、先に動いたチームが不利です。

 短い時間での撃ち合いでは、引き分けに終りやすい作戦です。

 わたしは、マシンガンを両手でもち、銃口の先にシャベルをつけます。マシンガンを手にした瞬間、ネエネエ先輩の目が一瞬だけ丸くなりました。一歩退きました。

 ネエネエ先輩は、ナイフを逆手に持って、ひれ伏すようにしながら、草の根に突き刺しています。三者三様の方法で、穴を掘りながら、ネエネエ先輩に声をかけます。

「先輩、さっき、マシンガンをわたしが用意したとき、撃たれるって疑いませんでしたか?」

「ううん、全然、思わなかった」

 もう、正座に近い状態で、ネエネエ先輩はナイフで穴掘りをしています。答えながら、視線が横に揺れました。ネエネエ先輩、悪いことしちゃった、と顔に書いてあるようです。わたしの、いたずら心や復讐心を満足させるチャンスです。

「わたしを、信じてくれたんですね。わたしも先輩を完全に信頼しています」

「う、嬉しいな、ありがとう!」

 先輩のナイフの刃先の動きが、ブレます。ぎこちなくなりました。隠れるための穴は、左右と下側に広がっています。

「絶対、わたしが先輩を撃ったりしないって、確信してくれてるなーって、信じてました」

「――う、うん、ありがとう」

 ナイフの先が斜めになり、先輩は反対の手の直前で止まりました。もう少しで怪我する直前です。わたしと、怖いお姉さんのスコップで、大雑把おおざっぱですが、穴掘りは済みました。

あねさん、穴一つでいいっすか?」

「撃ちあい前の準備時間がないから、二つは無理でしょう? 痛っ!」

 先輩の指先をナイフが切ってしまってます。わたしが怖いので目を瞑りました。

 そっと瞼を上げます。ネエネエ先輩は、怪我した手を反対の手でかばっています。わたしが、課金アイテム、絆創膏ばんそうこうを、腰のポーチから取り出して、渡します。

「ありがとう」

 先輩は凄く後ろめたさがありそうな顔です。絆創膏を自分で指に貼ります。指先が小さな、球形の緑の光に包まれ、傷が一瞬で治癒した合図です。

 破れたグローブまで直ります。ナイフに付着した血まで消えます。土に落ちた血の染みもなくなります。そして、最後に絆創膏も消えます。

 これが現実世界と、『共トレ』ゲーム内の絆創膏との違いです。

「姐さん、いきなり声かけてすみませんでした」

「ねえねえ、私のうっかりミスだから気にしないでね」

 怖いお姉さんが立ち上がり、スコップを肩に担いでいます。怖いお姉さんの武器は、ナイフ、スコップ、もう一つは何だろう? ネエネエ先輩は、怖いお姉さんが掘った穴の前で両膝を突いてます。逆手に持ったナイフを振り下ろして、穴の回りを綺麗にしています。雑草を切り、ジグザグな土を削っています。


***


 砂場遊びでも、こういう子いました。実用性プラス見た目の美しさも、追求するタイプなのでしょう。

 わたしも小学校低学年の頃まで、公園の砂場で山を作って遊んでました。一緒に砂遊びしてた子が、プラ製のスッコップで綺麗な形に整えたりしました。

 立ち上がろうとしたわたしが、よろめいて体が触れてしまいました。その子は手元が狂って、すべすべの山肌がスコップで崩れてしまったのです。

「ゴメンね」

 謝ってもその子は、沈黙を貫きました。わたしと視線も合わせず、スコップで崩れた部分を、直しています。

 謝っても完全スルーです。

 それまでも、似たようなことは数回ありました。泣き出す子、すぐに許してくれる子が多かったです。

 怒って沈黙するタイプが一番苦手ですが、泣く子も困ります。だって、わたしが、イジめたと、大人から誤解されたら困るもん。


***

「先輩って、本当に怒ったら、どうしますか?」

「え、本当に怒ったらって?」

「えーとですね。子どもの頃とか、怒ったらどうしてました?」

「――うんうん、フツーに泣いちゃう子だったよ」

 いや、口をへの字にして黙り込む子でしょう。

 ナイフを彫刻刀のように扱い、土を削るネエネエ先輩をスルーして、怖いお姉さんを見ます。

「ばかなの? 何聞いてるんだ。これだよ」

 怖いお姉さんの武器は、狙撃用ライフルです。しかもレア・アイテムの日本製です。自慢げにライフルを上に向ける怖いお姉さんの前で、わたしは笑みを零します。

「素晴らしい!」

「あたし、拳銃は持たない主義なんだ。確実にライフルで相手を第一撃で仕留める!」

『共トレ』世界では、正しい思考法です。ヘッドショットを確実に決めれば、一発で敵を倒せます。

 どんなに課金して、高性能防弾チョッキを手に入れても、ヘッドショットされれば意味ないです。

 ネエネエ先輩がナイフを鞘に納めて、ぎこちなく立ち上がります。迷彩服の袖を捲くり、白い手首の腕時計に目を落とします。わたしは横から首を伸ばすように巡らせて、腕時計を覗き込みます。

 先輩の心臓音を聞いている人みたいな、位置関係です。わたしが逆の立場なら、厚かましい後輩、でも、わたしを信頼しきってくれている。どうしよう、と思うでしょう。

「あと一分です。わたしも先輩もギルド副長ですが、この場所の指揮官は現実でも、ギルドでも先輩であり、わたしを絶対に信じてくれ、信頼し尊敬する先輩にお願いしたいです。配置の指示お願いします」

 わたしがマシンガンを手にした時、ネエネエ先輩、絶対警戒した。もう少し懲らしめてやります。

「うん、えーとね、とりあえず、少しだけ、私から離れてくれないかな」

「え? わたし邪魔でしたか」

 あざとく、軽く握った両手で口元を押さえます。

「ねえねえ、全然邪魔じゃないよ」

 わたしがわざと、目をゆっくる見開きます。ネエネエ先輩は、長い睫毛を、ぱちくりさせながら、視線は虚空を泳ぎます。

「わたしが悪かったんです。先輩に近寄りすぎて、鈍感でゴメンなさい」

 ショックを受けたように、がくんと俯いていました。ネエネエ先輩が、どんな反応をするか、期待で胸が膨らみます。いきなり、お尻に衝撃がありました。

「時間がねーんだよ。オメー、ゴチャゴチャうるせーぞ! 嬢ちゃんも姐さんが、リーダーでってことなので、指示お願いします」

 突然の暴力に、わたしは、お尻を押さえていました。

「ねえねえ、大丈夫?」

 ネエネエ先輩は、心配顔をしています。わたしは、ネエネエ先輩に嫌がらせをしました。それは最後に、自分に返ってくるのでしょう。

 わたしも心を入れ直します! でも、蹴り入れるなよ。怖い系の人でなかったら、許してません。

 唇を結んでしまいます。

 気をつけをしながら、ネエネエ先輩の瞳をじーっと見つめます。

「ねえねえ、ゴメンね」

 先輩は胸の前で指をもじもじさせてから、頭を下げますが、意味不明です。わたしは心で首を傾げていました。

 急に、ヘリの騒音がします。頭上を飛ぶヘリは目障りです。マシンガンを構えてやりました。

 一度ヘリを、撃ってみたい衝動に駆られます。さっきの軍用みたいなのと違い、白い民間仕様のヘリコプターです。

 撃ってみたい。マシンガンを握る手の指先に力が入ります。

「セバスチャンより、カサカーの皆様へ。これより、NPC審判がヘリにて中間地点に下りられます。審判はNPCですが、世界撃ち合い競技連盟、公式国際審判員こうしきこくさいしんぱんいん御座ございます」

「ヘリで公式審判が来るって、先に教えてよ」

 マシンガンを下に向けながら、つっけんどんな口調になります。背中に冷たい汗が流れました

 撃ち合い競技に限らず、審判はゼッタイです。故意に審判に危害を加えたりしたら、選手資格停止処分を受けたりします。

 森の枝木を揺らしながら、低空で白いヘリが飛んでゆきます。口が閉じ忘れ、葉っぱが飛び散り、口に入りました。

 舌の上でとけますが、口当たりは、ストロングです。ぺっぺ、したくなりますが、ゲームですので我慢します。現実なら、別です。

 両チームの中間地点で、ヘリが下降しています。

「セバスチャンより。審判がヘリのドアから、大地にお降りになられました」

 こっちはロープでぶら下げられ、飛び降りたんです。NPCのくせに、ドアから降りるとは生意気です。

 木々のせいで、審判は視界に入りません。審判が試合開始の照明弾を、打ち上げるはずです。

 イヤホンから新美先生、つまり、わたしのギルド、カサカーギルド長の声がします。

「女性プレイヤー三人は、初期配置で掘った穴で待機。ギルドのNPCは、森で分散して隠れて、動かず偵察ください。敵を見たら無線連絡してください」

〈はい〉

 女性陣の声が重なります。一呼吸遅れて。

「分かりました姐さん」

 怖いお姉さん、一緒に返事してよ。もし、わたしが学校の混雑する教室で同じことしたら、周りの注目浴びます。彼女はヤンキーみたいです。人と違うことをして、目立ちたいのでしょう。わたしにはマネできません。



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